師匠のいたずら
「まあそうだよな、ユリエスも知ってないと出来ないよな」
「僕も聞いたのついさっきなんだよ」
街に行くとなったのは今朝の話なのに、ここまでの準備の良さとかついさっき知ったはずのユリエスがどうしてここにいるのか、なんて聞きたいことは山ほど出てくるがそれは全て丸っと飲み込んだ。どうせ師匠には聞いたところで答えちゃくれないし。寮に帰ってからユリエスに聞いた方が早い。こっちは師匠の目がなければある程度なら答えてくれる。
「今朝、急に時間が空いたものだから」
ふふ、と笑う師匠はさっき買った焼き菓子をユリエスに渡している。何だ、あれ自分が食べる分じゃなくてただの土産か。帰り際にまた買えるし、そのまま渡してもいいなと思っていたらユリエスはさっと皿を持ちだしてきて簡単に焼き菓子を並べてテーブルに出した。その流れでお茶を淹れているあたり、同じこと思っていたみたいだ。
「せっかくですから、摘まんでください」
というか、あのパン屋で話してたの学園の授業の事とかだったよな。普通に話してたけど、師匠出たことないはずなんだけど。
「いい機会だし弟子たちの様子を知りたいと思ってね」
「そんな事に無駄に高度な魔法使うなよな」
「無駄ではないよ。現にこれだけ親しい間柄でも一目では見抜けなかっただろう?」
そう言われれば返す言葉もない。師匠の魔法がすごかったんだろうけど、魔力もユリエスと何ら変わりないものだったし、姿には何の違和感も感じなかった。僅かな違和感が積み重なったとはいえ、あの場で師匠の名を出したときに確信なんて持ってなかったし、本当にただ何となく、がたまたま当たっただけだ。
「その何となく、を感じることが大事なんだよ。今度はユリエスにやってみようか」
「やめてください、ディオが二人になるなんて想像できない」
「まだ前情報あるだけいいじゃねえか」
まあ、目の前にいるのが本当は別の人なのかもしれない、なんて思って過ごすのも気を張り続けないといけないだろうから、それはそれで嫌だけどな。
なんて考えていたのはノックの音で中断された。
「エイナ様――っと、来客中でしたか」
「彼らなら構わないよ。用件を聞こうか」
この部屋の中でノックに返事が出来るのは師匠だけ。だから俺たちは静かに座っているしかないんだけど、師匠の許可の後に顔を覗かせた人物は、他に人がいるとは思っていなかったようだ。
ペコリ、と頭を下げた拍子にローブのフードが被ってしまうような小柄な体躯、いつもの事なのか慣れた様子でフードを捲り上げて現れたのは深い緑の髪。見た覚えのない顔をじっと見ていたら茶色の瞳に見つめ返された。
そのままユリエスに視線をずらしたが、そっちも緩く首を振っているあたり、見た覚えはなさそうだ。
師匠がそのまま話を続けているから、俺たちが学園に行ってる間に魔法省に入ったんだろう。
「陛下から結界の件で」
「ああ、もうそんな時期か。後ほど直接伺うと伝えておいてくれ」
そのまま二言三言確認をしてから、俺たちにも会釈をして部屋を出ていく。今後、俺たちと関わるのかも聞いておきたいけども、それよりもさっきの会話で気になったのは。
「結界って、学園のか」
「それもあるし、他にも。王冠を戴く者というのはどの時代でも孤独なものだよ」
学園の結界は今は俺たちがいるから定期的にメンテナンスはしているが、元々は魔法省が出張して強度を確認しているものだ。まだ未熟で自分の力量が分からないままに魔法を使う学生だからこそ、意図せずに暴発に近い威力で魔法が発動してしまうときもあるから、これは欠かせない任務のひとつ。
恐らく陛下が関係しているんだろうけど、他に対して明言をしない以上、俺たちが聞くべき時ではないって事か。
「それで、前に実験していたスイサイだけど」
並べた焼き菓子を摘まみ、口に運んで僅かに目を瞬いた師匠は続けてもう一つ手に取った。
甘いものが好きな師匠は他の物なら何でも美味しいと食べるのに、甘いものに関してだけは評価が厳しい。きっとあの店、しばらく通うんだろうな。
そうして三つほど食べてから満足したようにお茶を飲んで、にんまりと笑って告げたのは。
「面白い結果が出たよ」
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師匠の名前、初出しかも。




