覚悟を決めた日 sideセリ
さてどうしよう、なんて考えていても時間は待ってくれない訳で。何をどう話すか、なんて考えていたらいつの間にか眠っていたし。談話室の予約を取らないと、と思い出して朝から事務室に滑り込む。
「はいはい、目的は新しい食堂のメニュー開発ね。あらぁ、じゃあまた美味しいものが増えるわねぇ」
「セルフィーさん、何でも美味しいって食べてくれるじゃないですか」
事務室には何度か試作を差し入れていることもあって、だいたい顔見知り。なかでもセルフィ―さんはもうすぐ初老に差し掛かるおば様なんだけど、物腰が柔らかいのに芯はしっかりしていてわたしの憧れ。
「今日の授業終わりから、夕食までね。確かに承りました」
「朝からごめんなさい、ありがとうございます」
さて、これで場所の準備は出来た。
覚悟は決めた、あとはわたしがどう切り出すかなんだけど。
「もう確実に警戒はされてるんだろうし、こうなったら直球でいくしかないか」
誰が言ったか、女は度胸。
令嬢教育で培った笑顔の仮面、案外役に立ってるのよ。今日も頑張って使い倒さないと。
なんて思っていたのに、令嬢の仮面はあっさりと見抜かれた。
「なんだ、せっかく頑張ってたのに」
防音魔法なんて、上級の部類に入る魔法なんだけど。それを簡単に手を振るだけでこの部屋全体にかけるなんてやっぱりディオ様、じゃなかった、ディオも入学する必要なんてないはずの人だ。
「セリ嬢、いや、セリと呼んだ方がいいのかな」
「ユリエス様、案外柔軟なのね。もう少し慌てるかと思ってたわ」
「ディオと一緒にいるからね、大抵は対応できるつもりだよ」
その一緒、はいつからなのかは読み取れないけど、まあ間違いなくこの学園入ってからなんて浅い付き合いじゃないでしょうね。
ディオの方を見ると、同じタイミングでユリエス様も視線を送っていたみたいだった。向けられたディオは何だか面白くなさそうな顔をしていたけど。
「それで、嘘は言わないんだよな」
「もちろんよ。ただ、さっきも言ったけど信じるかどうかは二人に任せる」
これから突拍子もない事を言うのは自覚がある。けれどこれは言っておかないといけない事だと思ったのよね。信じてくれるかどうかは賭けだけど、たぶん負けはしないはず。
「ディオ、どうやらあなた、ヒロインみたいなの」
何を言われるのかと構えていた二人の顔が、一瞬にして何言ってんだこいつ、に変わった。すごい、表情の変わり方が二人一緒だ。持ち直すのはユリエス様の方が早かったけど。そりゃ面と向かってヒロイン、なんて言われたら理解するのに時間かかるよね。
ゲームのシナリオを知っています、これから先に起こることも分かります、なんてそこまでは流石に言えないから、どう伝えようかと考えていたんだけど、授業で迷信とか、貴族ならではの隠語みたいな話になった時に聞いたうってつけの表現があった。
「スフィア家の長女は、死神を見たのよ」
これ、言われた方は深く追及してはいけないっていう暗黙の了解があるそうで。まあ突っ込まれたところで本人が覚えていることなんてたかが知れているだろうから聞かない、っていう理由もあるみたい。
あれこれ突っ込まれることも覚悟してきたのに、何度かのやり取りとユリエス様の氷のような微笑みの後に告げてきたのは信じる、という言葉。
あの微笑み、画面越しでも威力抜群だったのに生で目にすると今までの比ではないわ。膝の上に置いた手はずっと握りしめているけど、よく耐えられたと思う、わたし。
「本当に、信じてくれるの?」
信じてもらえなかったらそれまでだし、そうなったら自分一人で動くしかないかなんて思っていたから、その言葉はとてもありがたいものなんだけど。
そうして、今後の話を始めてからようやく手の力を抜くことが出来た。
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