衝撃のその先
「魔法省の人間だ、って」
「嘘だと思うなら、アリス先生に確認するかい?」
呆然とするウィードに、ユリエスが笑いかける。この任務に関して正体を告げるなと事前の注意はなかった。だから、スカーレットに確認に行けば簡単に同意してくれると思うんだよな。
俺たちが、特に俺が自分の事を話すようなことになるはずがないと思っている可能性はあるけど。
「……アリス先生がお前らと一緒に俺のことからかっているって線は」
「お前一人からかうのにそこまで手の込んだことするか」
「それに、目の前で見たよね」
万が一の可能性を探しているのだろうか、それとも信じられないとでも思っているのだろうか。
忙しなく自分のおでこをさすっているウィードの手は、何に引っかかることもなく動いている。
どちらにせよ、今目の前でユリエスがまだ習っていない治癒魔法を使ったのを体感しているんだから、これはたぶんウィードなりの悪あがきだ。
「それで? 魔法省のお偉いさん方はおれをどうするんだ?」
まだ正していた足を崩してローテーブルに肘をついたウィードが頬を膨らませながら俺たちに問いかける。その表情だけはいかにも不機嫌そうだったが、声の調子を聞く限り、本気でそう思ってる感じじゃない。
「どうするって」
「どうもするつもりねえよ。して欲しいっていうならやってやるけど」
魔法省はもちろん魔法のエキスパート揃いだけど、実際のところは事務作業が主な部署と現場に出る部署と分かれている。もちろん、それなりの腕がないと入ることすら出来ないが、顔を隠して任務に当たるのはその中でも実力を認められた者だけだ。部署の区別なく働いているように見えるようにしているから、実際に魔法省に入ってからでないとその区分を見分けることは出来ない。
俺たちが仮面持ちってところまで教えるつもりはないけど、ただ魔法省で働いている、それだけでも魔法学園の一年生からしたら雲の上の存在だろう。
「何もないのにそんな大事なこと俺に言うって……
俺が二人の事言いまわったらどうする?」
「そうなったらその時に考えるけど、ウィードならそうしないって思ったから」
「あれだけ馬鹿正直に言われたからな、これで隠し事なしだ」
隠してはいない、全部を教えたわけじゃないだけ。後はウィードの反応次第だけど、この話を始めてからずっと不思議と大丈夫だという感覚がある。そう、思いたいだけなのかもしれないなんて感じるのは初めてだ。
しばらくウィードは頬杖をついたまま視線を明後日の方に向けていたけど、溜まった何かを追いやるように長い息を吐きだした後、クルリと体ごと向きを変えて俺たちの方を見る。
眉を下げて困ったような表情だが、そこにあるのはこの一週間見ていなかった、いつもの顔。
「なんだよ、もーー! 俺の感じた怖さ返せよな」
「返せって言われても返せないだろ」
「得体の知れないもんだったから怖かったんだぞ。ディオのだって知ってれば怖いとなんか思わないって」
いつもの調子で言われた言葉に軽口のようだなと思いながら返すが、次に言われたのは正直予想外だった。
きょとんとした顔の俺たちを見て勝ち誇ったように笑うウィードの様子に、まるでさっきと立場が変わったようだな、なんて思って次の言葉を待ってしまう。
「すごい力持ってようが、魔法省の人間だろうが、ディオとユリエスは友達だと思ってる。それじゃダメか?」
当たり前のように告げられたのは、今まで感じたこともないほど真っすぐな言葉。
一瞬だけ目を丸くしたユリエスが我慢しきれなくなったのか、声を出して笑いだす。
「ふ、あははっ。ウィード、君の人を見る目は最高だ」
「だろ? 俺、ディオに声かけた自分を褒めたいわー」
そのまま、今までと同じように会話が続いていく。それは何の裏も読む必要なんてない、ただの日常。
「友達、か。……いいもんだな」
小さく呟いたつもりだったのに、どうやら二人にはしっかり聞こえてしまったようだ。
こちらの事を見て嬉しそうに笑う二人の顔を見るのが何だか急に恥ずかしくなって顔を背けてしまったけど、おそらく自分の顔が赤くなっているだろうことは隠すために覆った手のひらから感じた頬の熱さが教えてくれた。
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