喧嘩と仲直り
どうにか他の教科の試験もこなし、延期になった基礎体力の試験も終了した週末、いつものようにユリエスの部屋に行くと先客がいた。
「え、っと」
「僕、食堂でお湯もらってくるね」
明らかに動揺した様子のウィードを残し、さっさと部屋の主は出ていってしまう。すれ違いざまにウィードの肩を優しく叩き、安心させるような笑顔を残して。いや、何も取って食おうってわけじゃないんだけど。そもそもいるな、とは感じたけど来ることは知らなかったし。
ヴィオレッタ嬢の件から俺の事を避けている事は分かっているし、部屋で二人きりになったからといって何をするわけでもないから、定位置となった備え付けのいすに腰掛ける。
ローテーブルを挟んで話していたらしいウィードからは必然的にこちらを見上げるようになるが、俺がそっちを向かない限り、目が合うことはない。
もう試験はないので勉強道具なんかは持ってきていない。どうしたもんか、と頬杖をついてぼんやりと窓から外の景色を眺めていたら、意を決したような声で呼びかけられた。
「ディオ、あのさ。ヴィオレッタ嬢の時の事なんだけど」
そうっと視線をずらして見れば、真剣な表情でこちらを向いているウィードの姿。何を言われるにしても、この体勢で聞くのは失礼だな、と思いくるりと体の向きを変える。
視線を送れば、まだ強張ってはいるものの逸らされることはなかった。
「俺、ヴィオレッタ嬢が倒れた事に動揺して、どうしようって思ってたらディオはテキパキ動くし、ケインズ先生にもうまく説明して……」
俺の場合はあんな状況が初めてじゃないからっているのもあるけど、今それを言うべきではないような気がして、そのままウィードの言葉を待つ。本人もうまい事言えないようであー、だとか意味のない言葉だけが漏れていく。
「ダメだな、なんて思っている時にすごい力も感じて。
それでも平然としているお前が、怖かった」
膝を抱え込むように座って、それでもこちらをしっかりと見上げてくる姿には恐怖の色が見え隠れしている。そのまま俺との距離を取ることだってできただろうに、そうはしないで向き合おうとしてくれているその姿勢が、とても眩しいものに思えた。
「ずっと、考えてたんだ。どうしたらいいんだろうって。
どうすればいいのか、なんて最初っから分かってたはずなのにな」
そう言って苦笑いしたウィードが、膝を抱え込んでいた腕を動かす。流れるように足を組みなおし、その太ももに手を重ねて頭を下げた。
目測誤ったのか、ローテーブルに頭を打ち付けた鈍い音が響いたが、その体勢のままに言葉を紡ぐ。
「ごめん、勝手に怖がって」
「……は?」
「簡単に許してくれるなんて思ってない。ただ、謝りたくて」
頭を上げることもなく、そのままの体勢を維持するウィードにどう声をかければいいのか分からなくなって、慌てていたところにドアの開く音が聞こえた。
「ただいま――……って、ディオ」
「ユ、ユリエス……」
頭を下げたままのウィードに、どうしたらいいのか分からずあたふたしている俺。
よほど面白い絵面だったらしい、帰ってくるなりユリエスが笑い出した。
「ウィードに頭を上げるように言わないと」
「え、あ、ウィード。頭なんて下げなくていい」
そのやり取りも耳に入っているだろうに、律儀に俺の声が聞こえてからウィードはようやくゆるゆると頭を上げた。
「大丈夫、そう伝えただろ? ディオは人付き合いが下手なだけだって」
「下手って、まあ上手いとは思ってねえけど」
「いい機会だから少しでも学ぶんだね」
そもそも同年代なんてユリエス以外に関わる事なんてほとんどないのに、どうやって上達しろっていうんだよ。
なんて、いつものようなやり取りを聞いて。ぽかんとした顔でこっちを見ていたウィードの顔に、やっと笑顔が戻った。
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