広がるざわめき
次の日、話題はヴィオレッタ嬢の事でもちきりだった。心配する声がほとんどだったが、昨日の魔力に何かを感じ取っただろう声も確かにあった。魔力の感知をしたわけじゃなくて、鳥が飛び去っていっただとか、駆けつけてきたケインズ先生の様子がおかしかった、なんてのが多いみたいだけど。
「だからさー、あたしヴィオレッタの事見てたから分からないんだって」
教室に入ってすぐに聞こえたのは、いい加減うんざりしたような疲れた声。今朝から食堂でもその話を何度となく聞いたし、上級生なんかからは魔力の持ち主を探そうという声まで上がっていた。俺はうまい事避けられたが、彼女はそうはいかなかったのかもしれない。
声の主があ、と小さい声を上げたのは聞こえなかったふりをしてそのまま奥へ進もうとしたのに、腕を掴まれたので必然的にその場に止まる。
「ねえ、昨日あの場所にいたわよね?」
「いたけど、それがどうかした……」
「ディオは皆の言うような魔力を感じた?」
あたしはヴィオレッタの事見てたからあんまり分からないのに、と先ほど聞こえてきた声と同じように迷惑そうな表情をしてこちらに問いかけてきたのは、赤茶色の髪を肩で切りそろえたアンナ嬢。そばかすと相まって純朴そうな見た目だし、実際に素直で明るい性格だからそんな感情的になるようなところは見たことないんだけど、どうやら朝からの質問攻めに参っているようだ。
「俺が魔力の扱い上手くないって知ってるだろ?」
同じ属性で一緒に実習をしていることが多いアンナ嬢だからか、その言葉に納得したように頷いた。それでもアンナ嬢の周りに集まった人垣が無くなることはなく、今度は早めに来たのか避難するように窓際に座っていた人物にも声が飛ぶ。
「ねえ! ウィードもいたわよね! あんたはどうー?」
「っ、お、俺は感じなかった……」
アンナ嬢の声に反応してこちらに顔を向けたが、俺と目が合うと一瞬ビクッと反応して不自然な動作で目を逸らされた。何か知ってると言っているような態度だが、そこに気が付いたのはいなかったようだ。声をかけた人物を除いて。
「なに、あんたたち喧嘩でもしたの」
明らかにいつもと違う態度のウィードには深追いせず、その代わりとでもいうように俺に聞いてきたアンナ嬢の顔には先ほどまでと違って心配の色が浮かんでいる。
「喧嘩、ってわけでもないな、たぶん」
「たぶんってなによ。思い当たることがあるならさっさと話した方がいいわよ。
後になると余計に面倒になるもの」
「そういうもんか。ありがとな」
自分の魔力を見てあのような反応を示されるのには慣れているが、それを喧嘩と捉えられたのは初めてだ。今までならそのまま、向こうが離れていくのを見ているだけだったが、彼女のアドバイス通り話してみるのもいいのかもしれない。
「なあ、何で喧嘩したって思ったんだ?」
「何でって、あれだけいつも一緒にいるのが離れてるんだから、不思議に思うでしょ」
最近は増えたみたいだけど、なんて付け加えながら手を振って席に着くアンナ嬢を見送ってから、思うのは。
「いつも一緒、か」
そう言われるような相手、ユリエスしかいなかったな。
何だかムズムズする気持ちのまま、今日の試験を始めることになった。
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