その力の一端
落とし穴から抜け出すのに時間がかかり、その場にいなかったリンクスがどうして解散になったのかを聞いた後、真っすぐにダニーのところへ向かっていく。
そのまま二人は寮の部屋の方へ歩いていったから、簡単な挨拶だけを交わして別れた。焦った様子を見せていたダニーも、リンクスが何度か声をかけたことによって別れ際にはいつものように落ち着いているように見えた。
「俺は食堂に行って軽食もらってくるけど、ウィードはどうする?」
「あ、うん……今日は俺いいや」
ふらふらとしていたが、足元までおぼついている様子ではなかったのでそのままウィードとも別れる。さっきの魔力にまだ体が反応を示しているか、俺があの魔力の発生源だと気づいているか。
どちらにも取れるのは別れ際のウィードの表情が若干青白さの残る顔色だったのに、いつもと同じように振る舞おうとして強張っていたからだ。
「これで離れていくなら、それまでだって事だよな」
人が離れていくのには慣れているのに、期待をするのはとうに諦めたのに、あの三人にだけはそうはなって欲しくない、なんてわずかに芽生えた感情には蓋をして。
「とりあえず、ユリエスに説明だな」
連絡するまでもなく、授業が終われば飛んでくるだろうことが分かり切っているので二人分の軽食を頼み、自分の部屋へと戻った。
「それで、さっきの魔力はどういった理由で?」
午後の授業が全て終わったことを告げる鐘の音が鳴り終わるかどうか、という早さで部屋に来たユリエスが告げたのは、やはりさっきの事だった。
部屋に入ってきた瞬間に防音魔法をかけたユリエスが、ドカリと音を立てながら乱暴に椅子に腰を下ろす。よく見れば少し髪が乱れているのはそれほどまでに急いでここに来たからだろう。
「基礎体力の試験中、ヴィオレッタ嬢が倒れた。一見して分かるくらいのひどい魔力切れだったから手っ取り早く」
「ディオの魔力を与えたのか!?」
「与えてはない。教師に気づいてもらえるようにちょっと魔力を飛ばしただけだ」
珍しく人の話に食い気味で突っ込んできたな。状況が分からない中でいきなり俺の魔力を感じたら何があったのかと思うのも無理はないけど。
「ディオ、それは確かに危ない状況だったけど、分かってる?」
「ああ、確実に目をつけられただろうな」
「月科でも半分は反応したんだ、間違いなく探されるよ」
「あの場にはヴィオレッタ嬢含めて十人近くいたんだ、そんなすぐには辿り着かないだろ」
魔力切れはその名の通り、自分の中にある魔力を使い切って空っぽの状態。それを回復せずに放っておくと場合によっては意識が戻らないことだってある。普段なら誰もが無意識にセーブをかけるから、よほど追い詰められていないとあそこまでの状態になるなんてないはず。
元々無理していたところに体力や精神的なものがいろいろ重なってしまったんだろう、あの場所はちょっと一息入れられそうだったから、そこで緊張の糸がプツリと切れてしまったのかもしれない。
「さすがに目の前でそんな状態になってるの放っておけないからな」
「しばらくはベッドから離れられないだろうね」
まだ何も知らない一年生らしく、無視をしようと思えば出来たけど。
放置すれば命の危険さえあった状況で、出来ればそんな場面は見たくないしどうにかできる手段を持っているんだからやらない、という選択肢は消えていた。
目をつけられたなら逆に目的を探る事も出来るし、そのくらいで済むならやってやる。
「今からじゃ遅いかもしれないけど、とにかく目立つ行動は避ける事」
ユリエスの忠告を守るのはおそらく無理だろうな、とは思ったが口に出すことはしない。
本人もそれは分かっているうえで言ってきているからな。あとは向こうがどう出てくるか。
しばらくは様子を見てこちらの出方を決めるとしよう。




