思わぬハプニング
演習場には落とし穴、となると温室前にも何かあるだろうと思って慎重に進んだが、何事もなく森の入り口に到着した。ただ走るだけだったから少しだけ前の方になったが、この先で順位は大きく変わるだろう。
「ここさ、こんなに草茂ってたか?」
「いや、俺たちが使っていたから草はむしろなくなっていたはずだ」
ウィードとダニーが呆然と呟くのも無理はない。記憶にある運動場よりも草は生い茂り、まだ昼間だっていうのに薄暗く感じるほどに見通しが悪い。少なくとも、前回使った時とは明らかに様子が違う。先に着いていた奴らも動揺しているようでなかなか踏み出そうとはしていない。
「入学した時はこんな感じだったのかもな」
「わざわざその状態に戻したってことか? 魔法の無駄使いだろー」
がっくりと肩を落としたウィードを横目に、あまり進もうとしない連中の間を掻き分けて先に進む。他にも先に森へと入っていった姿を見ていたからか、立ち止まり呆然として森を見ていた奴らもハッとしたように森へと進んでいく。
「立ち止まっていたのは自分なのに、抜かされたくないってか」
俺たちの事を追いかけるように森へ入ってきたのに、その姿を確認したら全力で走って抜き去っていくのが何人か。まあ、スタートから後ろの方を走っていた奴に抜かされたと思えば前に行きたくなるのも分かるんだがな。
面白くなさそうな様子のウィードはそれでも速度を一定に保っている。これが上位に入れって試験ならまた違うんだろうが、過去の自分のタイムを縮めればいいのなら焦って下手な罠に引っかかる方がタイムロスになるって分かってるんだろ。
「ほーら、注意してないからだー」
……ま、口が悪いのはそこそこ腹が立ってるって事なんだろうけど。
落ち葉の下に置かれた胞子をまき散らすキノコに、わざと見えるところにつけられた大型獣の足跡、そんな罠と呼ぶにはいささか不穏なものをやり過ごし、もうすぐ森の終わりが見えそうだと感じるくらい明るい日差しがさす場所に着いた時、少し前を進むグループから悲鳴が上がった。
「どうした……ヴィオレッタ!?」
悲鳴を聞いていち早く飛び出したダニーから、驚きの声が上がる。その声が呼ぶのは、ここ最近、何かと話題に上がっていた名前。
「ダニー! ってヴィオレッタ嬢?」
「ふらついたと思ったら急に倒れたらしい。今、一緒にいたやつがケインズ先生を呼びに行ってる」
おそらくダニーのだろう上着を下敷きに、仰向けで寝かされているその顔は青く、指先も白くなっている。パッと見たところ魔力の流れに乱れがあるわけじゃないけど、とても弱々しい。ここから先生が待機しているところまではまだ距離があるし、呼びに行ったと言っても時間がかかる。俺の魔力をいくらかでも渡せれば少しは回復するだろうけど、ここでそれをするわけにもいかない。
「仕方ないか」
「ディオ、なんか言った――っ!!」
ケインズ先生のいる方に向けて、わずかに、だけど確実に届くように魔力を放出する。ほんの一瞬だけど森にいた鳥たちが慌てて飛び立っていった。
隣にいたウィードも言葉を途切れさせたからきっと何かを感じているだろう。当てられるほどの魔力は出してないから、意識を持っていかれることはないはずだ。
「今の、」
「ケインズ先生、来たぞ」
カタカタと震える体を押さえるように自分を抱きしめたウィードの方をなるべく見ないように視線を先へ向けると、砂埃を上げながら走ってくるケインズ先生。それにしても早すぎるだろ。途中で気づいた女子たちが怯えたように立ち竦んでるぞ。
「何だ今の魔力、全員無事か!
ヴィオレッタはどうした!?」
「この辺りで倒れたそうなんです。彼が介抱を」
あれだけの爆走を見せたのに、息ひとつ切らさずに辺りの状況を確認する先生に気圧された様子のウィードはそのまま、問いかけには俺が答える。さっきの魔力の事を変に言われても困るっていうのもあるが。
「そうか、それじゃあ俺が預かろう。
全員注目! 今日はここで解散、試験はまた改めて行う!」
ヴィオレッタ嬢を危な気もなく横抱きにし、来た時と同じように砂埃を上げながら走り去っていくケインズ先生を見送った俺たちも、それぞれ寮に帰る。
同じ科の一人が倒れたということもあり道中、会話らしいものはほとんどなかった。
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ちなみに、
驚きが先→!?
疑問が先→?!
と使い分けるそうなんですが、どちらが先でも!?で統一して書いていきます。




