試験は自分との勝負
しん、と静まり返った運動場に教師の声だけが響く。
「過去の自分、つまりは入学したての時と同じコースを用意した。
試験の内容はその時のタイムよりも一秒でも短くゴールすること、それだけだ。ただし、他人の手を借りたらどちらも減点対象となる。
自分の力だけで乗り越えてこその試験だからな」
試験の内容を聞いたとたんにホッとしたような空気が流れる。まあ入学してすぐの時なんてほとんどの奴が途中でタイムオーバーかリタイアだったからな。それよりも早くゴールするだけなら思っていたよりも難しい課題じゃなかった。
他人の手を借りるなってことは、障害物に引っかかっても自分の力だけで解決しろってわけだ。その辺全部ひっくるめて自分との勝負っていう意味か。
「各自ストレッチは終わっているな?
それでは、これより試験を開始する。位置について!」
掛け声とともに皆が走り出せる体勢を取る。最初の授業の時にどのくらいの時間を残してゴールしたかなんて覚えてないけど、少しでも早ければいいみたいだし後ろについて様子見るか。
「スタート!」
一気に飛び出す奴らと、様子見するようにペースを落としてスタートした奴、別れたけど三人は後者だったようだ。様子を見ようと最後尾に近いところについた俺に、ウィードが近づいてくる。
「ディオはもっと前にいるかと思ってたよ」
「最初のコースなんて覚えてないからな、様子見だ」
「そうだよなあ、もういろいろありすぎて覚えてないわ」
この学園の敷地は広い。校舎の裏は森だからな。
スタートしたのは運動場の一番校舎に近いところ。そこから魔法の演習場と温室の前を抜けたら僅かに木が残る所から森の中へ入って、また拓けたところに戻れば一周。運動場の一部に木が残っているのは使い勝手がいいから、だそうだ。実際に罠に気を付けながら森を抜ける、なんて事もやったし。
「そろそろ、一発目が来るぞ」
後ろから追いついてきたダニーが視線を演習場の方へ向ける。どうやら最初の授業の時にここで何があったか覚えているらしい。
「え、ダニー何があったか覚えてるの?」
「ここと、森に入る手前だけだ」
すでに息が弾み始めているリンクスは期待した目でダニーを見たが、それには軽く首を振って答えていた。そりゃ、全部なんか覚えてないよな。
「落とし穴、か」
少し距離を取って走っていた前の奴がいきなり姿を消した。代わりに現れたのは、人一人がすっぽり収まるほどの穴。穴を覗き込んで、中にいた人物にウィードが声をかける。
「大丈夫かー?」
「あ、ああ何とかー!」
他人の手を借りるな、と言われているからか落ちたやつもそれ以上は答えずに落とし穴からどうにか這い上がろうとしている。底にわざわざ置いてくれているクッションをうまく使えば穴から出れそうなんだがな。
「なあ、俺たちが穴に落ちたらあのクッション使って這い上がろうな」
「そうだな。あまり柔らかくなさそうだし、重ねたらいい踏み台になりそうだ」
「んじゃあ、俺たち先行くなー!」
独り言だ、とわざとらしく呟いてみたが、どうやらダニーとウィードが上手く意図を理解してくれたようだ。手を借りるな、とは言われているが口を出すな、とは聞いてないからな。
覚えがないから落ちてもないだろうし、たぶん今回みたいに目の前で誰か落ちても気にも留めずに進んだんだろう。入ったばかりの頃からは想像もつかない自分の変化が、何だかむず痒いがこういうのも悪くない。
「やっぱディオは面倒見がいいよな」
「自分が落ちた時のための確認をしただけだ」
ウィードのニヤニヤ笑いを黙殺し、もう少しで演習場の前を通り過ぎる、というときに見事に落とし穴に落ちたリンクスの悲鳴を聞きながら、三人で先に進む。
この感じだと温室の前でも何かしらありそうなんだが、思い出そうとしても何も出てこない。
ま、何があってもなんとかなるだろ。
いつもお読みいただきありがとうございます。
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思っていたよりも長くなってきたので、近いうちに話の頭に番号振りたいと思います。




