意外な一面
次の日、朝から教室の空気は重かった。時間割り通りの試験があるということは、今日の午後は皆が口を揃えて地獄だと称する基礎体力の時間だからだ。
「どうしよう、午後が気になりすぎて集中できない」
「ユリエスがいつもと同じだったって言ってただろう。それよりもリンクスはこの授業苦手なんだから頑張らないと」
「分かってるけど、基礎魔術って何やってるのか分からなくなるんだよ」
教室に入ってすぐ、そんな会話が聞こえてきたのは夜に分からなかったところを聞きに来たからだろう。もちろん声の主は予想通りにリンクスとダニーだった。
「おはよう、ディオ。早速で悪いんだが」
「ディオだって基礎魔術分からないよね?」
「ダニー、おはよ。そこならこっちにノート取ってあるから適当に探してくれ。
んで、リンクスは分からないから勉強止めるのか?」
ダニーが見せてきたのは魔術の属性にちょっと突っ込んだ説明のところだったので、先生が口頭で説明していたのを書き留めたノートを渡す。教科書に書いてあることをより細かく説明していたから何かの役に立つかもとたまたま書いていたんだけど、早速出番が来たようだ。
リンクスはたぶん、どこをどう勉強したらいいのか分からなくなってるんだろうな。試験前ということで焦りもあるんだろう。
「止めないけど、このままだと厳しいかも」
「止めるつもりがないならとにかく教科書読み込んどけ。どれだけ基礎を理解しているかで後に差が出るぞ」
ちなみに、実体験。どうして自分だけがこんなに勉強しなくちゃいけないのかって師匠に食って掛かった時に言われたことだ。本を読むのなんて何の意味があるんだ、って思っていたけど役に立つもんなんだよな。
ダニーはノートを写しながらもリンクスの様子を見ている。所々説明しているような声が聞こえてくるし、リンクスの返事もしっかりしているからまだ諦めてはいないようだ。
「ディオって意外と面倒見いいよな」
「意外とって何だよ」
「いや、初めて話した時にはこんなに世話焼いてもらえるなんて思ってなかったから」
俺の勘は間違ってなかった、なんて笑うウィードにそういや薬草学の時に声をかけてきたのが最初か、なんて思い出した。
ついこの間のような気もしたが、入学してからそれなりの時間は経っているな、と思い直す。何せ試験が終われば長期休暇だ。正直、ここまで長くいるとも思っていなかったけど。
「将来、教師っていうのも悪くないんじゃないか?」
「あー、将来、ねぇ……」
「ディオならいい教師になりそうだな」
「あ、それボクも思った!」
わいわいと自分はどうしたい、なんて話し始めた三人に思わずため息が出る。
「俺が教師ならお前らにもっと厳しく教え込むけどな」
後にウィードから笑顔なのに背後に吹雪が見えた、と言われたがそんなもの背負ったつもりはない。そして三人とも基礎魔術の試験は余裕でクリアしたんだが、それは思わぬ効果だった。
「それじゃあ、全員集合!」
朝よりもさらに重くなった空気の中、なんとか昼食を流し込み運動場に集合する。
ガチガチに固まった体を解すように、いつもよりも長い時間をかけてストレッチをしていく。
「聞いているかと思うが、今日の授業は試験だ。
ただし、特別なことは何もない」
特別なことはしない、と聞いた瞬間にざわつき始める。俺たちはユリエスから聞いて何となく試験の内容を知っていたが、月科と交流のある奴はほとんどいないから何の情報もないままに来ていたらあの一言で安心できるだろうな。
ただ、そのざわめきは教師の次の一言で静まり返った。
「試験は簡単、過去の自分との勝負だ!」
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