試験、開始
結局、休みに魔法省まで行ったのに師匠に肝心なことは聞けないまま、試験が始まった。
「入学してからの最初の試験、緊張するのも無理はない。いくつかの注意事項があるが、どの試験でも共通なのでよく聞いて覚えておくように」
週始めの授業である魔法史の担当、ルイス先生が初めての試験を受けるにあたっての細かい注意を簡単に説明していく。
指定された物以外の持ち込みは禁止、試験内容以外に質問があった場合は手を挙げること、試験が終わったら退出してもいいが、出たら戻れないこと。
「だいたいは入学試験の時と同じだが、一つだけ違うところがある。
この後の長期休暇を休めるかどうかは試験の結果次第だ」
「成績悪かったら休み返上で補習なんだって」
絶対いい点取ってやる、と意気込んでいるのはウィードだけではなく、今朝からずっと教科書を手離さなかったリンクスやダニーもそれぞれにやる気を見せている。
「質問がなければ試験を開始する」
教室を見渡し、質問がないことを確認したルイス先生が手を掲げる。すうっと空を滑ってきたのは試験の問題用紙。両面にびっしりと文字が連なっていることを確認しているともう一枚飛んできた。こっちは、解答用紙か。
「それでは、試験始め!」
試験の後には長期休暇、か。せっかく休みをくれるっていうんだ、補習で時間取られたくはないけど、入学式の時の席順を考えるとあまり点を取りすぎても目立つな。
あの時の席は入学試験の成績順だったっていうし、ちょうど真ん中あたりだったからまあ、半分以上は取って、満点にならないようにしておけば大丈夫だろ。
カリカリと筆記具の音が響く中、そっと周りの様子を伺うと順調そうに進めているのはほとんどいなくて、頭を抱えているのはほんのわずか。大半が途中詰まりながらも進めているようだ。
ルイス先生は持ってきた本を読んでいるが、誰かの動いた気配がすると顔を上げて確認している。質問であればその生徒のところに行くし、特に何もなかったと分かれば静かに視線を本へと戻す。
自分の回答も進めていって終了時間よりも早く終わったので様子を見ていたが、さすがに試験一回目、誰も途中で席を立つことはなかった。
そうして授業終わりの鐘がなると同時に解答用紙がルイス先生の手元に集まっていく。後ろからちょっと待って……! なんて声も聞こえたけどもちろん紙が止まることはなかった。
なるほど、そこまで手間取ることはないだろうけど時間ギリギリまで書いてると間に合わないかもしれないな。
そうして授業の時間割りの通り試験が開始された。週に二回ある授業なんかは先にある時間で試験をして、後の方は自習になるそうだ。
「せっかくディオたちに勉強教わったのに」
「なんだ二人して、まだ始まったばかりだぞ」
夕食を取るために食堂に行けば、ダニーとリンクスのような姿の生徒が多数見られた。一年生だけにしては多いから、試験が始まると落ち込んだ様子が見られるのはどの学年でも一緒みたいだ。
「ディオはあんまり凹んでないみたいだな」
「まあ、こんくらいならな。ウィードだっていつもと変わらないだろ」
「俺は補習にならなければそれでいいんだ」
胸を張って言うようなことじゃない気もするが、ウィードの事をジト目で見ているリンクスにとってはそれだって羨ましいのかもしれない。何とか端っこにぶら下がってるっていうくらいだから飲み込むのは遅かったが、その分理解したことを他にもうまく使えていたから本人が言っているよりかは悪くないと思うんだけどな。
「今日は早いね」
「ユリエス」
「そっちは基礎体力の後だからだろ」
案の定、トレイに乗っているのはいつもの半分くらいの量。体力に自信がない訳じゃないんだけど、あの授業の後に食べよう、と言う気にならないらしい。
気持は分かるし、実際に山盛りのご飯が食べられるかと言えばあんまり手を付けようとは思わないから最近は夜食を頼むことも増えていた。
「試験、始まったね。そっちはどう?」
「何とか回答は埋めたが、正直自信はない」
「そうだ、基礎体力の試験ってどんなだった」
「いつもの授業と変わりなかったと思うんだけど」
話もそこそこに、手早く食事を終わらせてそれぞれ自室に戻る。どうやら試験中だし自分の事に集中したいだろうと集まるのはなしにしたらしい。それでも、分からないところを朝に教えて欲しいと言われたので頷いておいた。
いい機会だし、こないだの休みの事をユリエスに話に行くか。




