一仕事終えて
「やってみるって、今からか?」
「もちろん。スイサイなら誰かその辺で育ててるだろうし」
「師匠。俺が聞きに来たのはそれじゃなくて」
この任務をまだ続けるなら、今度の試験でどの程度の順位を取ったらいいのか。それを確認してついでに何か使えそうな情報がないか調べに来たのに。
「それじゃあディオ、しばらく離れていたうちに腕が鈍ってないか見せてもらおうか」
良く晴れた空を思わせる青い瞳をにんまりと細めた師匠の笑顔、それを見てもう逃げられないなと肩を落とした。
「結果は後で送るから」
最初の方は簡単な比較だけをするはずだったのに、凝り性の師匠に付き合わされて水質から水の流れの速さ、更には水に魔力を流したらどうなるかなんて検証していたら結局門限ギリギリまで解放されなかった。
魔力を与えて育てた花は他の物よりも大きく育ったこともあり、花に含まれる魔力なんかを調べてみるということになったが、そこまでの時間はなかったので後は師匠に任せることにする。
「あー、久しぶりの感覚だ」
水に含む魔力を調整したり、花はどのくらいの魔力を溜められるのか、なんてことまでやったからか枯渇まではいかないけどそこそこ魔力が減ってる。途中で質が変わるのも結果に影響するといけないからなんて師匠に言われるままに水や種にまで魔力込めて置いてきたからな。
学園に入ってからは全然使ってなかったし、何の気兼ねもなく魔法使うのがこんなに楽だとは思いもしなかったから進んでやってきたっていうのもあるけど。
「ちょっとだけ買い物するくらいの時間、あるな」
魔法省から学園まではちょっと離れているが、風を使えば移動時間はだいぶ短縮できる。魔力使ってお腹すいたのかと思ったけど、よく考えたら昼も食べてないわ。
「とりあえず夕食までの繋ぎでなんか買うか」
帰ってからすぐに食堂に行ってもいいかとも思ったが、あんまり混んでる時間に行きたくはない。となると、門が閉まる時間からは少しずらさないといけなくなる。空腹を自覚したからか、さっきよりも街中の食べ物に目がいってしまう。
あまり悩む時間もないので、学園に続く道にほど近いところにある小さなパン屋に滑り込む。
たぶん、俺みたいに学園に帰るときに寄る生徒用なんだろう、小ぶりながらもしっかりと中身があるパンや日持ちしそうなものが残っていた。
「学生さんにはサービスだよ」
「お、おっちゃんありがと」
目についたものを何個か買って、制服に気が付いた向こうがレジの横にあったラスクを一袋サービスとして追加してくれた。
行儀悪いのは分かっているが、食べるために買ったんだし、もう人通りもまばらでこっちを見ているのはほとんどいない。それにもうちょっと歩けば学園の敷地に入るし。
袋の一番上にあるパンを食べようと手を伸ばしたところで、背後から声をかけられた。
「君はこの間の」
「えーっと、どこかで会いました?」
金髪、はよく見ているからあまり人の判断には使わない。ただつややかな金髪じゃなくてちょっと鈍い感じの金髪はあまりいないから、記憶にはある。それがどこで会ったかが思い出せないだけで。
「前に街で物盗りを捕まえた時に会っただけだ」
「あ、あの時の。よく覚えてましたね」
そうだ、あの時に一緒に捕まえてくれた人だ。確か、エリオットって言ったはず。それにしても、それだけでわざわざ声をかけるもんなのか。
「学生が買い食いなんて感心しないな」
「ああ、ちょっと野暮用で昼食べ損ねて。寮に帰ればご飯あるんですけどもちそうにないから」
さすがに人の前ではパン食べれないからな。空腹を自覚してて、目の前に食べれるものがあるのにお預けって地味に辛い。
「後ろからふらふらしているように見えたから声をかけたんだが、すまない。そういうことならタイミングが悪かったな」
そんな思いが通じたのか、エリオットはその角のパン屋はどれもうまいぞ、と言って軽く手を上げて背を向けた。
「っと時間になるな」
その背が雑踏に紛れるまで見送る――なんてことはなく、俺も急いで寮へ向かう。
結局食べられなかったパンはその後、突撃してきたウィードたちに分けたところ、気に入ったらしく試験が終わったらパン屋に行く、と意気込んでいた。
インフルエンザの予防接種を受けてきましたー…
じわじわ痛むからあんまり好きじゃないんですよね…




