迫る問題は
「こちらダブリュー、対象の様子はどうだ」
「休憩中は本を読んでるよー。いつも通りだね。ディーはどうー?」
「昨日、授業終わりに声をかけてみたけど予定があるって断られた」
「なあ、それ普通に言えないのか?」
ヴィオレッタ嬢の様子を観察すると決めてから、週末だけではなくほぼ毎日のように集まるようになって。
今日は月科が地獄の基礎体力の日なので、ユリエスは来るとしても遅くなる。だから俺の部屋に集まるってことになったんだけど、俺たちしかいないのにその呼び名はどうかと思うんだ。
「なんだよ、ディオはノリが悪いな」
「ダブリューだのディーだの、呼び名そのまんまじゃねえか」
しかも、その呼び方だとダニーと俺はどっちだか分からなくなる。参加するつもりはないけど、紛らわしいだろ。
「ヴィオレッタ、本を読んでるけどあんまり頭には入ってなさそうなんだよね」
「何でそう思うんだ?」
「だって、昨日も同じとこ読んでたもん」
何でもない事のようにリンクスは言うが、パッと見ただけじゃ本のページが進んでるかどうかなんて分からない。挿絵もないのに昨日と同じところなんてよく分かったよな。
「授業の事聞いた時に見ておいたんだ」
「時々、ヴィオレッタにも分からない事聞いていたからな」
俺たちと一緒にいるようになったことが増えても、授業の事をダニーとリンクスが質問しに行くのは今までと変わっていないってことか。それか、あえてそう見せているか。どっちでもいいけど、彼女本人に声をかけるのは二人に任せた方がいいだろう。
「あとは、ブレア先生の授業の時には毎回終わりに質問に行くな」
「試験前だからみんな先生を捕まえてるけど、ヴィオレッタ嬢が行くのはブレア先生の時だけっぽいね」
ダニーの場合は自分が相談したからっていうのもあるんだろうけど、ウィードは全体をよく見て足りないところを補ってくれる。それで次はどうするかって話に持っていけるのは、商家として見てきたものを自分なりの力にしているからなのか。なんだかんだで上手く回っていると思う。
「ディオ、いるー……
って揃ってたんだ。ちょうど良かった」
「ユリエス、今日の基礎体力はどうだった?」
「ああ、今日は終わりなくひたすら走り込みだったよ」
終わりがない、と言われたとたんに三人の顔が引きつる。基礎体力の授業はだいたい月科がやったことが次の陽科であるし、そこで出た問題点を改善してまた月科の授業に持っていくからな。この感じだと俺たちの時には走り込みにプラス、なんかあるな。落とし穴くらいで済めばいいんだけど。
「そ、それでちょうどいいっていうのは?」
想像したらダメだ、とばかりに青い顔をしたリンクスが話を戻した。基礎体力の授業だけは事前にどれだけ情報を持っていようが結局物を言うのは自分の体力だからな。リンクスはだいたい、始めの方についていけなくなってるからあの時間が心底嫌らしい。
「アリス先生に会えたから、あの花の事を聞いてきたよ」
「んで、どんな感じなんだ」
「名前はスイサイ、聞いていた通り流れのあるきれいな水の中で育つ花だって」
名前が分かれば図書室で育て方なんか調べられるだろうけど、基礎体力の授業に簡単についていけるユリエスがこの時間まで来なかったってことは、それはもう済んでいるんだろう。
名前と、花が薬の材料になるってくらいなら俺も聞いたことがある。
「ただ、育てるのも花を咲かせるのもそう難しくはないから、ヴィオレッタ嬢の様子はちょっと不思議みたいでね」
「それは、アリス先生にとっては難しくないって事じゃなくて?」
「魔法学園に入学できるなら簡単だって言ってたよ」
それなら本当に簡単なんだろう。だとしたら、最近のヴィオレッタ嬢の様子の変化は他のところに問題があるのだろうか。俺たちが疑っているからそう見えているだけで、たまたまブレア先生が関わっていたということも考えられる。
「アリス先生から、ヴィオレッタ嬢に様子を聞いてくれるみたい」
「そしたら、俺たちがやらないといけないのは来週から始まる試験対策だね」
そう、試験は来週から始まるとどの授業でも言われている。だからこそ授業終わりに先生を捕まえて分からないところを聞いたりしているんだけど。
もともと、勉強のことで俺たちに声をかけてきたダニーとリンクスは分かりやすく肩を落としている。
「安心しろ、試験まで見放す気はないから」
確かに試験はクリアできたけど、笑顔が怖いと言われるようになるのはまた別の話。
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