心配とこれから
「おかしいって具体的には?」
ユリエスが机の上に広げていたノートなどを片付けて、話を聞く体勢になった。その後どうなっていたか気にはしていたが、まさかこんなところから話が聞けるとはな。そもそもダニーとヴィオレッタ嬢が入学前からの顔見知りなんて初めて知った。言われてみればよく授業の合間なんかに話したりしてるわ。
「それが、あいつらしくないんだ。いつも眠たそうにして」
「ヴィオレッタ、マジメなんだよー。授業中に居眠りなんて考えられない」
どうやらリンクスのための復習も一区切りついたようで、二人もこちらの会話に加わってきた。それなら、別れて座っている必要もないな。ちょうどいいところだし、お茶でも入れるか。
食堂があるから部屋にキッチンはない。お茶を飲みたいときには食堂にお湯をもらいに行くか、魔法を使って自分で沸かすか。今日はダニーが食堂に寄ってお湯をもらってから来たのでそれを使わせてもらう。ちょっとぬるくなってるが、眠気覚ましってわけでもないからこのまま。
毎回のように集まるので、ユリエスの部屋には茶葉やら簡単につまめるお菓子なんかが常備されるようになった。それも誰かが持ってくることがほとんどだから、ユリエス本人が用意したものなんて、それをまとめて入れておく籠くらいだ。
「試験前で遅くまで勉強してるとか」
「でも真面目なんだったら、次の日に影響出るまで夜更かしするかなぁ」
「夜は早く寝るタイプらしいから、それはないかな。ね、ダニー」
リンクスが声をかけたのがちょうどダニーがお茶を口に入れたところだったようで、いきなり話を振られて焦ったのか思いっきり咳込んでいた。教科書とか、片付けといてよかった。
「わ、悪い」
「いいって。んで、ダニー。早く寝るってのは」
「ああ、彼女も俺と同じで畑の手伝いしてたから、朝日が出るころには動けるように早く寝てただ。多分、今でも変わってないと思う」
小さい頃からそれが習慣になってるなら、学園に入学したところであまり変わったりはしないだろう。まあ、多少なりとも時間に変化はあるだろうけど。朝日が出るころに起きても、学園に畑はないからやれることなんてないだろうし。
「眠そうにしていること以外に気になることはある?」
「あとは、そうだな。授業が終わるとすぐに寮に帰る」
特に用事がないならそれは別におかしなことじゃないと思うんだが、どうやらダニーはそう思ってはいないようだ。
「前からじゃないんだ、最近になって急に声をかけても断られるようになって」
「それっていつ頃だったか覚えてる?」
「いつ頃だったかまでは……
少し前に、ブレア先生から魔力操作のために花をもらったって言ってたのは覚えてるんだが」
「それって、ヴィオレッタ嬢が花を育てるのに夢中になってるって事じゃないの」
ウィードの言葉は確かに状況だけ見ればその通りだし、実際ブレア先生の事を疑ってなければ俺たちも頷いていただろう。そんなことは知らないのに、納得できてないのが目の前にいるけど。
「ダニー、お前はどう思ってるんだ?」
「俺は、やっぱりヴィオレッタの様子はおかしいと思う」
「……分かった」
迷ったように視線を下げたが、それでもはっきり言ったダニーは俺の声に反応して顔を上げた。
その表情から察するに、信じてもらえなくても仕方ないって思ってたな。
「付き合いの長いお前がおかしいと思ったんだ、それを信じろって」
「僕はヴィオレッタ嬢がもらったっていう花の事、調べておくよ」
「じゃあボクたちは、教室での様子を観察ね」
「ダニーじゃ分からない事もあるかもだしな」
次々に反応する俺たちを見て、ダニーはまた俯いてしまった。
さて、何となくやることが決まったことだし参考までにヴィオレッタ嬢の普段の様子でも聞いておくとするか。きっと話が長くなるだろうから感想聞かせてくれって言われたテッドの新作おやつ持ってこないとな。
取り合いになるから、あえてさっきは持ってこなかったんだが、出すなら今だ。ちょうど、視線も逸らせるだろうしな。騒がしくなれば目を潤ませてる暇なんてなくなるだろ。




