頼まれ事、そのあとに
それから、毎週末の夜は誰かの部屋に集まるのが恒例になった。次の日が休みだということもあり、勉強はそこそこ、ただの雑談がほとんどの時もあったが。
そうはいっても最近は図書室で本を借りてきたり勉強に使う時間が多くなった。段々と日差しが強くなり嫌でも季節の変化を感じ始めた頃、入学してから初めての試験、というやつが近づいてきたからだ。
「一年はこれまでの授業の確認がメインだって言ってもなあ」
「あまり成績が良くないと長期休暇返上で勉強なんでしょ。ボクそんなのやだ」
ダニーとリンクスは嫌々ながらもテーブルの上に今までの授業の要点をまとめようとノートを広げているし、ウィードはそれを見ながら自分も何かを書き込んでいる。
俺とユリエスは備え付けの机を使い、一応ノートや教科書を出してあるが、ただ広げてあるだけだ。
「そうならないようにわざわざ集まってるんだろうが」
「ディオとユリエスは余裕そうだな」
もうすぐ試験を始めるぞ、と授業で聞いてからの反応はすごかった。誰もが教師の一言を逃さないように必死でノートを取るし、午後の一番眠い時の座学で、今まではうとうとしていた奴が最後まで目を開けていたり。そんな変化は教師にとっては毎回の事らしくあまり指摘はされなかったけど。
自分からやばいと思って俺たちに聞いてきた二人は今までと何も変わらずに授業を受けていたけどな。じゃなきゃ俺だって引き受けたりしない。
「余裕そう、じゃなくて余裕なんだよ」
「ユリエスはそうだろうけど、ディオも?」
「まあ、何とかなるだろ」
実際のところ今までの授業の内容であれば魔法省に入るときに勉強したところだし、実技だって最近はあまり外で使ってないけどその程度で鈍らせるほどの腕じゃない。座学に関してはどれも本当に基礎の部分しか学んでないから貴族であるユリエスにはただの一般常識であり、間違えることはないだろう。
「そうだった、俺と違ってユリエスはちゃんとした貴族なんだった」
「ダニー、君だってちゃんとした貴族だろう」
「名前だけはな。俺はほとんど学ぶ機会なかったし」
ダニー本人は家が爵位あるとはいっても男爵だし自分は三男。兄二人と年も離れているし畑仕事の手伝いばっかりだったから学はない、と言っていたけどそれでも無意識に学んできたこともあったようで言うほど成績は悪くない。
「ボク、覚えるの苦手なんだよねー」
「リンクスの場合は覚える、って思わない方がいいかもな」
「どういうこと?」
リンクスの場合は、家族は誰も魔法を使えないのに突然使えるようになったんだと。当然、扱い方なんかも分からないから入学案内に飛びついたらしい。だからといってすぐに上手に扱えるようになるなんてことはなく、勉強もあまり得意ではないようで本当にギリギリのラインで入学したそうだ。魔力測定の時に張り切っていたのはそれが理由かと納得もしたけど。
「ほら、歴史なんかは関連付けるといいんだよ。
例えば、この年に荒れた天候が続いて、作物が育たなかったから……」
「ウィードは教えるのが上手だよね」
「だな。俺も助かってる」
さすがに備え付けの机を五人で使えるわけはなく、ユリエスがどこからか脚を折りたためるローテーブルを持ってきて三人がそっちを使うようになったんだが。何となく俺とユリエスがこっちで分からないことがあったら聞きに来る、という形が定着した。
「ダニーか」
「今回の試験とは関係ないんだけど、聞きたいことがあって」
「僕で分かることなら」
ユリエスが笑顔で答えたことで、緊張していた様子のダニーからホッとした息が漏れる。
「水の中で咲く花、って知ってるか」
「水の中、ね。白い花なら分かるけど」
「花の色までは知らないんだ。それって、なんか危ない花だったりするのか?」
水の中で咲く花って、こないだのやつか。あれ、流れがあってきれいな水でしか育たないから環境を整えるのだけは大変だけど、それ以外に必要なことはないし咲いた花も薬として使えるくらいだから危険だなんて話は聞いたことがない。
「僕の知っている花なら特に危険はないと思うけど、何かあった?」
「ディオは分かるか、ヴィオレッタ。あいつ俺と家が近いからよく話すんだけど」
スカーレットから渡ったあの花の先はヴィオレッタ嬢で間違ってなかったのか。その場で見ていたなんて言えるはずもないし、ダニーの問いには頷くだけで返す。
「その花を育て始めてから、あいつの様子がおかしいんだ」




