作戦会議
「それで、その子は?」
「特に変わらず、普段通りに接しているよ」
彼女からいろいろ告げられた後、スカーレットと話す場を作れたのは少し時間が空いてからだった。教師と生徒だとどうしても会う口実が限られる。薬草学に関しては手伝えることがたくさんあるが、毎回同じ生徒がやるわけにもいかないからな。
「それにしても、ヒロインねぇ……ディオが」
さっき今までの状況と、彼女から聞いたことを伝えてからスカーレットはずっとこんな調子だ。
よほど俺がそう呼ばれることが面白いらしい。こっちは面白くもなんともないっての。
「おいスカーレット、喧嘩なら言い値で買うぞ」
「いやよ。あなたに喧嘩売るなんて破滅願望はないわ」
冗談でもなんでもなく、俺と喧嘩したら負けるのは相手の方だ。スカーレットも分かっているから本気で言っているわけじゃない。が、いい加減にやけた顔でこっち見てくるのは止めて欲しい。
「ところで、二人の事だから今度どうするかは考えてるんでしょ」
「まあ、とりあえずはな」
「わたしが手伝えるのは、情報集めかしら。今度の休みにでも魔法省に行くわ」
生徒としておかしくない範囲での情報収集は始めているし、調べろというくらいなんだから何かあるとは思うんだが、今のところほとんど成果はない。
休みの日に外には出れるが、魔法省に出入りしてるのを見られても困る。スカーレットなら魔法省からの派遣だし、休日にいても何も不思議に思われないだろ。学園内で集められる情報よりも魔法省で調べてもらうほうが量も質も段違いだし、そっちからの情報に期待するしかないか。
「あとは、そこが噂の出所だとしたらどうしてそんな事をしているか」
「あの場所に近づけたくない何かがある、ってことだろうな」
温室は校舎の端っこにあるし、実習で使う教室が多い場所だから授業が終わってからは生徒がいるっていうこともほとんどない。俺たちだってマンドラゴラの植え替えがなければあの時間にあそこを通ることもなかった。
だからこそなんだろうけど、わざわざ学園でやるっていう理由もまだ見当たらない。
「ユリエス、ディオ、今すぐ全力で隠形」
全力で、と言われたので遠慮なく使わせてもらう。魔力や気配、その姿も影に溶け込むように消すから隠形、なんてよく言ったもんだ。とはいえ、隠形していても俺たち自体が消えたわけじゃないから、ぶつからなそうなところに移動しないと。
温室全体を見れて、絶対に人がいるなんて思わないところ、か。
移動してからすぐ、温室に入ってきたのはやっぱりというか予想通りブレア先生だった。
「あれ? 他に誰かいませんでしたか?」
「いいえ、わたしだけですよ。マンドラゴラの世話をしていたからその声じゃないかしら」
きょろきょろと人を探すように温室に視線を巡らせるブレア先生の様子に変なところはない。スカーレットも準備してあったのかたまたま近くにあったのかは分からないが、マンドラゴラの鉢植えを指差してにっこりと告げている。
「アリス先生、水の中で咲く花をお持ちではないですか」
「水の中、ですか。観賞用に?」
「いえ、陽科の一年に水属性の強い子がいまして。魔力操作の練習になるかなと」
その条件に当てはまるのは、前に測定した時に褒められていたヴィオレッタ嬢の事だろうな。本人にもやる気があったみたいだし、教師として力になりたいからっていうのは何にもおかしくない。
「それでしたら、これを。清流で定期的に水の流れを整えれば白い花が咲きます」
「ああ、ありがとうございます」
「細かい育て方はどうします?」
「あまり貴重でないのなら本人に任せようかと思いますが……」
「そのくらいならわたしがすぐに増やせるので構いませんよ」
スカーレットが渡しているのは確かに水の中で育てる植物だ。あまり細かい魔力の操作が出来なかった時に師匠に渡されて育てたことがある。
俺が何回か枯らしたのにユリエスが一発で綺麗な白い花を咲かせたときはちょっと悔しかったんだよな。だから次は成功させたんだけど。
そのままお礼を言って温室を出ていくブレア先生の姿が見えなくなってから、俺たちは隠形を解いてスカーレットに声をかける。
「見てた感じは変なところなかったけど」
「あなたたち、天井にいたわよね」
「それが一番ぶつからないしよく見えると思ってな」
俺たちのいた場所を確認したスカーレットが、疲れたような表情ながらも真剣な声で言ってきたのは。
「出ていくときに、さりげなく天井見てたのよ。
本当に、彼には気を付けて」
水の中で咲く花は梅花藻(バイカモ)をイメージしています。
小さいながらたくさん咲いていると見事です。




