彼女との話し合い
「本当に、信じてくれるの?」
「今聞いた話に変なところはないし、何より僕らしか知らないことを知っていた。
それは信じないといけないと思う」
こういう時に物事を受け入れるのが早いのは、意外にもユリエスだ。本人曰く俺みたいな規格外と一緒にいると並大抵の事なら簡単に納得できるらしい。
それに、俺がどうしたって疑ってかかることを知っているから自分はこれくらいでちょうどいいのだ、とも言っていた。
「俺がヒロインってのはどうも納得はいかないが、そんな立場だってわかってればやりようはあるからな」
「またディオはそうやって」
場の空気を軽くするようにわざとらしく軽口を叩けば、彼女がようやく握りしめていた拳を緩めた。
「それで、今後はどうしたらいい?」
「今までだって何かしようと思って事が起きたわけじゃないでしょ?
いつも通りに生活していたら大丈夫よ」
「とりあえずは、うめき声を聞いた時に会った人物について調べないと、かな」
そうね、と頷いた彼女が紅茶に手を伸ばす。もう冷えてしまったそれを一気に飲み干し、片付けようと席を立った時にユリエスが声をかけた。
「もうひとつ、いいかな。
どうしてセリはディオに声をかけたんだい?」
その問いかけに、セリが立った席に再び座る。どう話そうか悩んでいるような、そんな表情で俺たちの顔を交互に見た後、ゆっくりと息を吐いてから答え始めた。
「最初は第一王子に伝えようとしたの。でも、新入生だしいくら伯爵家といえど社交界にはほとんど出てないからまず面識がない」
「今十五歳なら、デビューは」
「一応したわよ、十二歳で。でも溺れてから病弱ってことになってるからあまりお茶会なんかには出てないわ」
病弱ってことになってる、なら本人はいたって健康なわけだ。まあ小さい頃にそんな事があったならあまり外に出なくても表立って何かを言えるような立場の奴はいないか。
「それで、最近噂の事を聞きまわってるあなたたちにしたの」
「学園の教師には……言えないよな」
「そうね、変に警戒されたら困るもの」
調べたほうがいい人物ってのが学園側だし、どこからどう話がいくか分からないからな。
「ユリエスに話をしておけば、間接的にも第一王子に伝わるでしょうし」
「僕は、君について認識を改めないといけないようだ」
「ユリエス。僕、じゃない。俺ら、だ」
つまり、目の前の彼女はユリエスの兄貴が王宮で働いていること、なおかつユリエスが連絡を取れることを知っているのだと。そう言ってきたわけだ。
「分かってくれて嬉しいわ。さすが魔法省の人たちね」
「……セリ、本当にどこまで知っているんだい」
「ディオはわたしの夢に出てきたことないから、カマをかけただけなんだけど、どうやら正解みたいね」
いたずらが成功した時のような笑いを小さく漏らし、彼女は続きを口にする。
魔法省の任務だっていうことはバレた、と言うより知っていた、の方が正しいんだろう。
「夢の中では学園に入学した理由までは見えなかったからそれは分からないし、聞くつもりもないの。
この部屋に入ってきたときに簡単に防音魔法をかける様子を見て、たぶんディオも魔法省の人なんだろうなって」
「よく見てるな」
「誉め言葉として受け取っておくわ。
他に質問がなければ終わりでいいかしら」
食堂の手が足りないと頼まれているんだという彼女と別れて、俺たちは談話室を後にする。
窓から見えるのはかなり濃くなったオレンジ色の空。短かったようだけど思った以上に長い時間あそこで話していたようだ。
「まずは、スカーレットに話さないとか」
「師匠には伝えたほうがいいかもね」
その日の夕食、俺たち二人の分だけさりげなくデザートの量が多かったのは甘いものでも食べて頑張れ、なんて彼女なりのメッセージだったのかもしれない。




