番外編・Happy Halloween
ちょっとだけ未来のお話
「トリック・オア・トリート!」
夕飯を食べようと食堂に来たら、なんだかいつもと雰囲気が違う。
でっかいかぼちゃをくりぬいて作ったライトには妙に不気味な顔が彫ってあるし、食堂の明かりを控えめにした分なのか、蝋燭が飾られている。
おまけに入り口には何故かキャンディの入った籠が置かれ、料理人たちはいつもの服ではなくてそれぞれが違う服を着ている。
「トリック、なんだって?」
「トリック・オア・トリート、だってさ。お菓子くれないといたずらするぞって意味らしい」
入り口に置いてあったキャンディを口に含みながら教えてくれたウィードも、頭に動物の耳を模したのだろう何かをつけている。
「ウィード、その耳は何だ」
「ああ、これ? 今日は仮装してると食堂のデザートが豪華になるって聞いたからさ」
狼男だってさ、なんて言われてクラスの女子から借りたと何でもないようにつけているが、よく見れば食堂にいる生徒の半分以上は何かしらの仮装をしている。
「え、もしかしてディオ、ハロウィン知らないの?」
「ガキどもにお菓子を配る日なら知ってる」
あんまり興味もないから日付までは覚えてなかったが、ローブに仮面をつけて魔法省に集まった人にお菓子を配るってのは毎年必ずある任務の一つだ。
そういやもらいに来るのは大抵が子供だったし、何か仮装をしてきていたような気もする。
「ハロウィン忘れるなんて! 貴重なお菓子を山ほどもらえる日だぞ」
「お菓子、ねえ……」
純粋にお菓子をもらって嬉しいと思うような子供ではなかったことは自分でも自覚がある。そもそもガキの頃なんて師匠以外の誰からも何かをもらった、という記憶はない。
ウィードにとって当たり前のことが、俺にとっては当たり前じゃない。ただそれだけ。
「よし、じゃあ今日もらったお菓子は全部ディオにやるな!」
「は? いや俺お菓子はそんなに」
「おー、ユリエスいいところに来た! トリック・オア・トリート!」
手を出したウィードに、懐から飴玉をひとつ取り出してその掌に乗せる。
ちっちゃな飴玉ひとつなのに、とても嬉しそうに笑うウィードにつられて、自然と口元が弧を描く。
「今日集まったお菓子は全部、俺にくれるんだと」
「ウィード、お昼休みにこっちに来てたよ」
「マジか。じゃあ覚悟しないとな」
今まで関係ないと思っていたことが、当たり前だと思えるようになったのはきっとあいつのおかげ。
この後に渡されるであろう大量のお菓子は一緒に食べようか、なんて考えることが当たり前になるように。
「ディオー、ユリエスー、デザートはかぼちゃプリンだってー!」
その背に、ぶんぶん嬉しそうに振り回すしっぽが見えたのは、きっと俺だけじゃないはずだ。




