セリ・スフィア
「噂について聞く前に、あんたの事について聞きたいんだけど」
「ディオ、女性に対してその言い方は」
「ユリエスだって気になってるだろ?」
乱暴な言い方なのは承知しているが、これだって交渉のひとつ。それでむこうの態度がどう変わるのかも見れるからな。こっちは圧倒的に情報が少ないんだ、これくらいしたっていいだろ。
それに、質問自体はユリエスも気になっているはず。苦笑いをして反応を待つ体勢になったのは分かっている。
俺たちと向かい合って座り、自ら準備した紅茶を飲む姿は落ち着いていて、質問に対して動揺した様子は見られない。
「ユリエス様とは同じ科ですので、それなりの情報は持っているかと思いますが……
改めまして、セリ・スフィアと申します」
ゆっくりと紅茶を置き、ソファーに座ったまま背筋を伸ばし名乗る姿は、確かに貴族令嬢にふさわしい所作を感じさせる。
それは今までの学園で見てきた“セリ・スフィア”そのものなんだけど、聞きたいのはそこじゃない。
確かにユリエスからは授業中の様子だとか、その辺は聞いてるけどそれはただの学友としてだけだ。それに彼女に関して個人的なことなんかは聞いてない。ユリエスが個人的に注視してるのは別の奴だ。
「伯爵家として王都より北、トーラスの土地を領地として賜っております。ここまでは?」
「いや、最近領地が盛り上がっていると聞いたけどそれはまたの機会にしておくよ」
王都よりも北の領地は場所によっては雪深く、季節によってはみな家に籠って過ごすとも聞いたことがあるし、実際に何回か依頼で足を運んだことのある土地は慎ましやかな生活をしていた。盛り上がるなんてめったにないからそれも確かに気にはなる。それよりも俺たちは魔法省の任務中、優先順位が違うだけだ。
「それもそうですわね。では私自身の事ですが、ただの戯言と取るかはお二人の判断にお任せいたします。
ですが、これだけは。私、生まれてこのかた冗談は申しても嘘をついたことはございません」
領地について話していたさっきまでの余裕を感じさせた態度とは一転、膝の上で握りしめた手はよく見ればわずかに震えている。これから告げられるのは、彼女にとってこれほどまでの決意を必要とする何か、ってことか。
それなら、と軽く手を振って防音魔法をこの部屋にかける。前に温室でスカーレットが使っていたし、学園内で攻撃魔法を使うことは禁止されているけど、防音魔法を使うな、とは言われてない。
「今のは……」
「この部屋に防音魔法をかけただけだ」
「ご配慮、ありがとうございます」
「配慮ついでにその、様付け止めて欲しいんだけど。それに、あんた本当はもっと砕けた口調なんだろ」
食堂で彼女の姿を見てから、さりげなく話を聞いたときに週末の休みのどちらかは必ず食堂に来て何かしらの料理を作っている、と教えてくれたんだよな、テッドが。
単純に自分たちの勉強になるからという料理人の彼らしい言葉だったが、話を聞くたびに目の前にいる令嬢とどんどん想像が違ってきて。
どちらかをあえて演じているのでなければ同一人物だとは思えないくらいに。
「なんだ、せっかく頑張ってたのに」
「セリ嬢、いや、セリと呼んだ方がいいのかな」
「ユリエス様、案外柔軟なのね。もう少し慌てるかと思ってたわ」
「ディオと一緒にいるからね、大抵は対応できるつもりだよ」
二人してこっちを見てくるから、なんだか納得はいかないけどまあこれで話しやすくなった。
「それで、嘘は言わないんだよな」
「もちろんよ。ただ、さっきも言ったけど信じるかどうかは二人に任せる」
話を聞いて、そのうえで判断をしてくれたらいいと。
そう言った彼女の表情はさっきまでの張りつめたものからいくらか、柔らかくなっていた。
何度か深呼吸をして、小さくよし、と呟いた後に彼女から告げられた言葉は、衝撃だった。
「ディオ、どうやらあなた、ヒロインみたいなの」
ハッピーハロウィーン!
ハロウィンの夜に満月なのは40年以上ぶりらしいですね。
いたずらされないようにお菓子を持って、月見しようと思います




