第一王子の問いかけ
「答えられることなら構わないですよ。でもその前に俺からひとつ」
「ん? なんだい?」
これから殿下との話が始まるんだと思うんだけど、その前に聞いておきたいことがある。
「殿下の隣の彼は、誰ですか?」
「……ふっ、あはは!
リアン、自己紹介もしてなかったのかい?」
「私の紹介など不要かと思いまして」
そう、気になっていたのは当たり前のように殿下の隣に収まる姿。食堂から連れてこられている間に会話なんてなかったから当然、名前すら聞いていない。
よほど面白かったのか、殿下は笑い声こそ潜めたもののまだ肩を小刻みに揺らしている。それを見たリアンと呼ばれた男は面倒くさそうに顔をしかめたが手短な紹介をしてくれた。
「リアン・フェンネル。月科の二年だ。第一王子の側近を務めている」
「知ってるみたいだけど、陽科一年、ディオだ」
名乗られたから、こちらも名乗り返す。ユリエスがいないときに呼び出されてるから個人として認識はされているだろうけど一応な。
「さて、お互いの事を知ったところで、ディオ。
聞きたいことは他にあるかな」
「今のところはないです」
「そうか、ではこちらの質問に答えてもらおうか」
ソファーに深く腰掛けていた殿下がわずかに体を前に出す。にこやかな笑顔は崩していないが、雰囲気が変わった。質問って言われても一体何を言われるのか見当つかないんだけど。
「普段の君の話し方で構わない、学園に入学した感想を聞かせて欲しい」
「感想って言われても……まだひと月ちょっとだしな」
思い返せば、まだひと月ちょいしか経ってないのにいろいろありすぎだろ。入学前にもらった資料には変な噂が流れるだとか、殿下に呼び出されるなんてことがあるなんて書いてなかった。
「魔法については実習が始まったばかりだろうけど、不安とかは?」
「あー、俺コントロールが不安定なんで」
ここで不安なんて何もない、なんて言えるはずもないだろ。しかし、質問ってのはただの学園についてのアンケートみたいなもんだったのか。
「そうだね、それはルーカスから聞いているよ。
だからこそこうして話を聞いているんだけどね」
ルーカス、だって?
ユリエスの兄貴、自慢していたのは自分の弟の事だけじゃなかったのか。あの人の事だからまあ、簡単に想像つくんだけど。
ユリエスが魔法省にいるということは、兄貴にしか告げていない。両親が知った経緯も仕事の疲れが溜まりに溜まっているときにうっかり口を滑らせた、らしいし。それだけあの人はユリエスを可愛がっているし俺たちもそれを分かっている。だからこそユリエスは“魔法学園に入学した引きこもりの侯爵家次男”でいられるし表面上、魔法省にユリエス・ラングートはいない。
師匠とユリエス、そして話を振ってしまった兄貴がうまくやっているからこそラングート家次男が魔法省にいる、なんて両親の話は社交界の話のネタにもならないそうだ。
「ユリエスの兄貴とそんなことも話す仲なのか」
「すれ違ったら雑談をする程度の仲ではあるよ。半分以上が弟の事なんだけどね」
「じゃあ殿下、本当に聞きたいのはユリエスの事なんじゃないのか?」
わざわざ人の多い食堂にあえて顔を出したのも、俺を連れ出したのも、おそらく一番近くにいる人間からユリエスの事を聞きたかったからじゃないのか。
「ルーカスが自慢するほどの弟も、気にならないと言えば嘘になるかな。君のことも気になっているよ」
「殿下に気に入ってもらえるようなもんはないですよ」
気になっている、と言われて向けられた目線が昔に嫌というほど浴びたものと同じような気がして。これ以上見ていられなくてふい、と目を逸らす。
「そうそう、君たちは噂の声を聞いたんだろう。それについても聞かせてくれないか」
告げられた言葉に顔を上げれば、先ほどまでと変わらない笑顔の殿下と目が合った。
もう少し続くよ王子のターン




