第一王子からの呼び出し
「そう固くならず、楽にしてくれて構わないよ」
「はあ、そういうことなら……」
「……」
にっこりと笑って優雅に紅茶を傾ける仕草はさすが、それに尽きる。
何でこうなったのか、と出された紅茶に手を伸ばしながら振り返った。
「やっぱ魔法省ってすごいんだな!」
ルイス先生の授業が終わり、食堂でお昼を食べている間も口にするのは魔法省の話題。それだけ憧れてくれるのは素直にありがたいが、そんな事を伝えるわけにもいかず。
結果として中途半端な相槌ばかりだったのをウィードに気づかれた。
「なんだよ、ディオはやってみたいとか思わないのか?」
「んー、まあ、機会があればだな」
やってみたいというか、任務の最中なんだけど。このままだとウィードは延々と魔法省の話を続けそうだ。どうにも調子が狂うからさっさと話題を変えてしまおう。
「それより、ウィード――」
「お前が、ディオか」
振り向いて目が合ったのは目的の人物ではなく。
紫の髪を真ん中で分け、形の良い眉は不機嫌そうにひそめられている。眼鏡の奥からこちらを捉えた瞳は、髪と同じ紫色。
「お前がディオか、と聞いている」
「他にいるかは知らないが、ディオと呼ばれているな」
「殿下がお呼びだ、ついてきてもらおう」
なんだか偉そうなやつだな、と思っていたら本当に偉い奴からの呼び出しだった。
そういやこの間食堂で殿下と合った時に後ろに控えていたような気がする。紫の髪ってあんまりいないから多分、同じやつだろ。
「ちょっと待てよ、これから昼飯」
「談話室に運ばせてある。もういいか、行くぞ」
「あ、おい話を……」
こちらの話を聞くことなく、さっさと背を向けて歩き出したが第一王子の呼び出しなんて無視できるはずもなく。
固まったウィードに声をかけてからさっきの奴を追いかける。呼び止めようにも名前すら聞いちゃいないからな。
そうして談話室とやらに着いたが、この部屋、学園の施設にしては広すぎないか?
「談話室、といっても王族が入学したときに使えるようにしてもらっているんだ」
「あれ、俺口に出しましたっけ」
「初めて来たらみんな同じことを聞くからね」
そういうことか、とぐるりと部屋を見渡す。王族用に作るならこれでも狭いほうだろう。
壁一面の本棚に、華美な装飾はないが丁寧な仕事が見て取れる執務机。足元の絨毯から机に置かれたペン一本まで、どれを取っても一流品しか置いていない。
ソファーの前のローテーブルには食事が置かれているが、あれがさっき言っていた運ばせた昼食なんだろうか。
「さあ、せっかくの食事が冷めてしまうから先にいただこうか」
そうして、楽しみにしていた昼食を特に話すこともないまま無言で食べ終え、食後の紅茶を給仕したのはさっき俺を呼び出したやつだ。
「まずは、こんな形で呼び出してすまなかった。君と二人で話したいことがあってね」
「第一王子殿下が俺なんかと話すことあります?」
そう、ユリエスならともかく俺には第一王子との接点がない。魔法省のディオ・クラインとしてもだ。だからこそ単純に疑問がわく。どうしてわざわざ人を使ってまで俺のことを呼び出したのか。
「ああ、聞きたいことはたくさんあるんだよ」
そう言って第一王子は誰が見ても完璧だと褒め称える笑顔を浮かべた。
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