噂の出所を探せ
ユリエスと話し合った次の日、まず向かったのは食堂。昨日のバスケットを返さないといけないってのもあるが、人が多く集まる場所ほどたくさんの話が聞けるからな。
「すいませーん、昨日夜食で包んでもらったんだけど」
「ああ、話は聞いてるよ。テッドは今日休みなんだ。で、どうだった?」
「うまかったよ」
昨日渡してくれたのはテッドっていうのか。蜂蜜垂らしたような色の髪の毛をきちんとまとめて人懐こそうな笑顔が印象に残っていた。手軽に食べれるように工夫してくれた上に、味や量もちょうど良かった。次に会ったら直接感想伝えてもいいかもな。
「伝えとくよ。じゃあそのバスケットは預かるな」
「ごちそうさま。ついでに聞きたいんだけど、あんな感じの夜食ってよく出るのか?」
「ああ、とは言っても最近作り始めたんだけどな。ほら、聞いたことあるだろ」
声を潜めて耳打ちされた言葉に軽く頷いて返す。そのまま話の続きを待つように視線を送ったらきょろきょろと周りの様子を伺ってからさっきよりも音量を落として話してくれた。
「教師陣が見回りするときに、簡単につまめるものをって事で試してるんだ」
「なるほど、それでしっかりとした中身なんだな」
寝る前にちょっとだけつまむ、ではなくて小腹を満たせるような物になっていたのはそんな理由だったのか。
動きながらでも簡単に口にできるような形にしてみたり、いろいろと試していたうちの一つが昨日の夜食だったようだ。まだ他の生徒には出したことがないらしいが、教師たちからは好評なようで近いうちにメニューに載るらしい。
正式にメニューに載ったらまた頼む、と伝えて食堂を出る。
教師の見回りはとりあえずひと段落したってスカーレットから聞いているけど、今の料理人は話すのが好きなタイプみたいだし忘れられない程度には顔出しておくか。うまい事話が聞ければ、噂がどこから広がったのかも聞けるかもしれない。
「今日は朝から魔法史だったよな……」
今日は魔法省の設立の話をするって言っていたはずだ。この件に関しては授業受ける必要なんてまるで感じないんだけど。それだったらうめき声聞いた時に感じた魔法の痕跡探したほうがよっぽど有意義だ。残ってるかも分からないけどそれだけでも調べるとするか、と振り返るといつもは遅刻ギリギリにやってくるウィードの姿が見えた。
「おはよ、ディオ。どこ行くんだ?」
「ん、ああちょっとな」
適当に流して実習棟のほうに向かおうとしたらにっこり笑顔のウィードに腕を取られた。そのまま引きずるように教室に連れ込まれる。
「おいこら、サボろうとしてるだろ。俺だって眠いの我慢してきてるんだからな」
「サボろうとしてるわけじゃ、放せって」
「いーや放さないね」
軽口を叩いているものの、腕に籠められた力が弱まることはない。何でか知らないけどウィードは時々こうやって必ず俺を授業に参加させようとする。とは言っても今のところ授業サボろうと思ったことなんてないから席がウィードの隣になるだけなんだけど。
「分かったよ、教室行けばいいんだろ」
「そうそう。分かればよろしい」
「よろしいって何だよ」
後ろの列の窓際に座り、教科書とノートを準備する。そうして少し雑談をしていると時間ぴったりで先生がやってきた。
「さて、前回言ったように今日は魔法省の設立についての授業です」
肩で切りそろえた水色の髪をサラリとなびかせながら、ルイス先生が板書に要点を書き上げていく。
分かりやすい授業、それに加えてシャツにパンツというシンプルな服装ながら、整った顔立ちの先生は女子生徒からの人気が高い。席は毎回自由だが前の列はだいたい女子だ。
それに巻き込まれたくないから後ろのほうで席を取るんだが、思うことはみんな同じなようで見事に教室が男子と女子で分かれている。
初めのほうこそ先生は苦笑していたが、今では慣れたもので女子の質問をあえて後列の男子にどう思うか、なんて投げかけてきたりするもんだからきっといい性格してるんだろうな。
魔法省に関してなら何を聞かれても答えられるとは思うけど、あんまり知りすぎたことは言えないからな。今日ばかりは指されないよう願うばかりだ。




