ストレス発散 sideセリ
お待たせしました!
自分の欲望に忠実になった結果です。
「お嬢様、このような場所にどんな御用でしょうか」
「無理を言っているのは分かっているのだけれど、ここが最後なのです。お願いですから、私に料理をさせてくださいませんか」
魔法学園に入学して一週間。基本的な暦の数え方は日本と一緒で、四週間で一か月。そして今日は最初の休日。
勉強を怠っていたわけではないし、前の記憶があるから伯爵家の娘として育ってはいるけれど身の回りのことは自分で出来る。それでも新たな人間関係を作ったり慣れない授業についていったりで日々の癒しは食事、になるわけだ。
ゲームをプレイしていた時から描写が少ないとは思っていたけど、メインが魔法や恋愛だったからそこまで気にしていなかった。
この世界、料理のレベル低くないですか。
他国の料理を魔改造する日本人が作ったゲームのはずなのに、料理がさほどシナリオに関係しないからか足りない。いろいろと。寮に入って一週間で厨房に突撃してしまうくらいには。
「料理、ですか……」
「もちろん片付けまで全て自分で行います。ですので、どうか」
「そこまで仰るなら、ちょっとだけですよ」
渋々ながらも了承してくれたおそらく責任者にお礼を言って厨房に入れてもらう。両親チョイス入学セットに当たり前のように入っていたエプロンも持参したし、髪の毛は結い上げてある。
「それで、何をお作りになるつもりなんです?」
「簡単なおやつを作ろうかと思います」
現在、午後二時。休日と言え、寮で生活する学生は多い。お昼もひと段落し、夕食までに多少時間に余裕もあるだろうと思って突撃したんだけど。ちょうど手持ち無沙汰だった厨房の人たちの注目を存分に浴びることとなった。たぶん、半分以上の人が令嬢が変なことをやらかさないか見ているんだと思うのよね。
この世界でおやつ、と言えばだいたいがクッキー、もしくはしっかりと焼いたケーキ。クリームを使ったもケーキは貴族のパーティーでは珍しくないけど一般的にはそこまで広がってない。魔法があるから保冷も加熱も思いのままなのに、調理法の選択肢は焼くか煮るかそのままか。あえて冷やした料理を食べるということもあまりない。デートでアイスを食べて驚くっていうイベントがあったくらいだからね。
食い意地が張っているわけじゃなくて、自分でそれなりに料理していた経験があったからいろんな本を読んでいるうちに試したくなった、ってことで伯爵家では時々ふるまっていた。自分のストレス発散が主だったのに、いつの間にか広がって、領地のみんなが美味しいものを食べられるようになったりしたから結果オーライでしょう。
そんな事を思い出しながら手早く作ったのは、プリン。
手ごろな材料だし、よく弟にせがまれてたからレシピを見なくても作れるようになった。
「その、黄色いものはなんでしょうか」
「これはプリン、と言います。何個か作りましたので皆様もどうぞ」
お皿に出してふるふると震えるプリンをスプーンでつつく姿に、両親を思い出して小さく笑い声がこぼれた。
「卵とミルク、ほんのちょっとの蜂蜜しか使っていませんわ」
冷やしたプリンも好きだけど、出来立てで温かいのもなかなかのものだ。自分用だし、お皿に盛りつけることなくそのまま口に運ぶ。スプーンを入れた時の感触と広がる素朴な甘さがたまらない。
それにしても、さっきから厨房静かだな、と振り返ったら料理人さんたちがスプーン持って固まってた。
そうだったよ、領地でも同じような光景見たなーなんて思い出していたら厨房の許可をくれた料理人さんが目を見開いて肩を掴んできた。
「お嬢様、どうかこの作り方を私に!」
「あ、料理長ずるい俺も知りたい」
残ったプリンを奪い合うように騒ぎ出す厨房に、がっしりと肩を掴んで離さない料理長。
よしよし落ち着けわたし。これは一回体験しただろう。場所は違えど料理に関する気持ちは一緒……だよね?
「それでは、こうしましょう。週末の休みに時々、厨房を使わせていただきたいの。
そのときにお互いの見聞を広げあうということでいかがでしょうか」
「そういうことなら喜んで。学園長にも話を通しておきますよ」
「それは助かります。では、また明日参りますね」
あの人料理長だったんだ。でも、学園長に話してくれるのは助かるわ。ストレス発散に料理をしたい、なんてどう言ったらいいか考えていたもの。
明日は何を作ろうかな。
甘いもの、欲してます。




