次の一手
「さっきの、どう思う?」
寮に帰ってきてすぐに、ユリエスと一緒に俺の部屋へ向かう。夕食の時間も惜しかったので、部屋で食べられないかと相談したところ、簡単ではあるけどもと言われながらも持たされたのは薄い生地で具材を包み込んだクレープ。どうやら最近見つかった新しい生地らしく、試してもらいたかったからちょうどいいとのことだった。
二人分、と渡されたバスケットを机に置き、部屋に防音魔法をかけたら待っていたようにユリエスが口を開いた。
「黒、には近いと思うが証拠がない」
「ただ心配しているようにも見えるんだよね。けど」
校門のところで見ていたのも、噂の声を聞いた生徒を心配して無事に帰るのを見守っていた、で通じるかもしれない。それだけ見れば生徒思いの優しい先生なんだろう。けど、気になるのはその前。
「俺の探知には引っかからなかった」
「一応僕も張ってたけど、気が付かなかった」
問題はユリエスにも、俺にも探知されることなく突然その場にブレア先生が現れた、ということだ。魔力感知に関してはそれなりに自信がある。それなのに感知できなかったなら考えられることはふたつ。
「俺以上の使い手、もしくは」
「何かしらの魔道具を使っている、こっちかな。
今までディオが気づかなかったのって師匠くらいだからね」
探知を使って魔法省内のかくれんぼをしたときは酷かった。俺が全力で探知しているのに普段通りにしか見えない師匠の存在を感知できないばかりか、俺の背後でニヤニヤ笑っていたことなんて数知れず。そんな事を常日頃からやっていたもんだから俺は自分の探知にはそれなりの自信を持っているし、ユリエスからの信頼もあると思っている。
そのユリエスにさえ魔道具を使っていると言わせるのだからおそらくこっちが正解だろ。
「魔道具を使っているとして、だ。あの辺調べるなんてできると思うか?」
「正直、難しいだろうね。おそらく誰かがあのエリアに入ろうとすると感知するような物もあるだろうから」
「じゃなきゃあんなタイミング良く出会わないよなぁ」
俺たちの中で、うめき声に関してブレア先生が関わっていること、それは確定だ。
「授業の質を見るだけじゃなかったのかよ」
「まさかこんな事になるなんてね」
これからやらないといけない事がどんどん増えていく現状に、思わず愚痴がこぼれる。ユリエスも苦笑いを浮かべているし、同じようなこと思ってそうだ。
「何から始めるよ」
「そうだね、直接だと刺激してしまうだろうから周りから攻めてみようか」
「噂の元、あとは実際聞いた奴から聞き込みか」
「スカーレットにも協力してもらわないとね」
噂が流れ始めたのは新入生が入って割とすぐのタイミングだったし、今年だけの事なのか、それとも毎年の事なのかも確認しないといけない。そもそも実際に聞いたというやつが本当に要るのかどうかすら分からない。ブレア先生のあの様子だと生徒からは信頼されているみたいだし、大っぴらに動くと俺たちのほうが疑われてしまう。
「とりあえずは明日から地道な聞き込みだな」
「そうだね、それよりディオ。そろそろ夕食にしない?」
ユリエスの言葉に時計を見れば、結構な時間が経っていた。それを自覚すれば空腹を主張するように小さく音が鳴った。
「お茶用意するね」
「ユリエスの淹れたお茶、美味いんだよな」
出会った頃からよく淹れてもらっていたから、慣れているというのもあるが飲むとホッとするんだよな。
その間に食堂からもらってきたバスケットの中身を広げる。
見た目はクレープの生地と同じだが、それよりももっと濃い色でふんわりと粉の香ばしさが広がる。
「お待たせ、それは?」
「確か、ガレットって言ってた。持ち運べるようにクレープみたいにしてみたんだと」
そのまま口に運べば、思っていたよりもしっかりした生地にハムの塩気がちょうどいい。
卵は垂れないようにしっかりと火を通しているが、きつく巻かれているようで零れることなく最後まで食べることができた。
「見た目は軽そうなのに、結構しっかりしてるね」
「包む具にもよるんだろ。ホットドッグよりこっちのほうが好きだな」
手のひらに乗るほどのサイズだったが、中にしっかりと具材が入っていたし生地もクレープより厚かったので満足感がある。しっかり食べる時間がないときなんかにちょうどいいかもしれないな。
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