疑問
とりあえず、目についた入り口から校舎に入る。俺たちのほかには誰もいないようで、辺りはしんと静まり返っているが逆に好都合だ。
「ユリエスも聞いたよな」
「聞こえたよ。けど、あれはうめき声というより」
「ああ、どっちかっていうと獣、だな」
うめき声なんかよりももっと苦しんで絞り出しているかのような声だった。それでもあの声は間違いなく人が発したものだ。
「次に聞こえたら、魔力辿るぞ」
魔力を感知できるよう、自身の魔力を網の目のように広げていく。本当はこのやり方よりも単純に魔力をペンキを塗るみたいに一定範囲に広げてしまったほうが楽だし簡単なんだけど、魔力探知のレベルが高い奴に気づかれる可能性がある。魔法省の人間がやってるなら何の疑問も持たれないけど、入学して一か月ちょっとしか経ってない奴がやってるとなるのは、多分相当面倒くさくなるってのはさすがに分かる。
「めんどくせぇ」
「同感。制服姿だと制約が多いね」
緊張から自然と口数が少なくなる。
そうして息を吐き、気を引き締めた時に感じた何かが引っ掛かった感覚。
「ディオ!」
「……捉えた!」
それと同時に聞こえた声に、意識を集中させる。感じたわずかな魔力を見失わないように自分の魔力で印をつける。
「向こうの角曲がったところだ」
印をつけたにも関わらず、掻き消えそうな魔力を追いかける。何度もこうして魔力を探知してるのに、こんな消えそうになるほど弱くなるなんてことは初めてだ。
長い廊下を端から端に駆け抜けて、角を曲がろうをしたときにいきなり現れた何かを感じたが避けようにも勢いは止まらず、そのまま目の前の何かに飛び込んでしまった。
「え、うわっ!?」
「なん、!」
飛び込んだ何か、はどうやら人だったようで向こうもいきなり飛び込んできた俺に驚き、そのまま二人で廊下に倒れこむ。追いついたユリエスが慌てた様子で声をかけてきた。
「ディオ、大丈夫……
ブレア先生!」
「一体どうしたんだい、君たち」
ユリエスが貸してくれた手を取り、倒れこんだ体勢から立ち上がる。ぶつかった相手はブレア先生で、どこか打ったのかもしれない。軽く頭を振り、額に手を当てて少し俯いている。
俺が立ち上がってユリエスの隣に移動したら、ブレア先生も軽くズボンの裾を叩きながら立ち上がった。
「すいません」
「先生お怪我はないですか」
「ああ、僕は平気だよ」
その言葉にほっとしたようにユリエスが息を吐き、くるりと俺に振り返るとわざとらしく声を荒げる。
「だから、走るなって言ったじゃないか」
「あんな声聞こえたら気になるだろうが」
だいたい、と明らかに続くだろうユリエスの声を遮ってブレア先生が会話に入ってきた。
「あんな声、って君たちは何か聞いたのか?」
しまった、という表情を見せたユリエスに倣い、俺も口を引き結ぶ。何も言わなくてもこれなら何か聞いたと言っているようなもんだ。
「この先の部屋はしばらく修繕するから立ち入らないこと、いいね?」
そう言いながら急いで寮へ帰そうとするブレア先生に促されるまま、俺たちは校舎から出る。
逆光になって表情はあまり見えなかったが、門から出るまでついてきた先生は、心配しているというよりも校舎に戻ってくることがないように見張っているように見えた。




