光と闇
直接の表現はしていませんが、自傷描写があります。
「最後、光属性は私が実践しますね」
「このクラスで適性あったのは二人か。よく見ておくように」
不貞腐れるような表情から一転、食い入るように見つめるウィードの邪魔にならないよう、少し場所を譲る。小さくありがとな、と聞こえてきたが視線はシャーロット先生から外れない。
生徒たちの集まったところから少し距離を取った先生たちの声が静かな演習場に響く。
「それでは」
すっと腕を上げてみせたブレア先生の拳は握られている。もう片方の手にはいつの間にかナイフが握られていて、もう次に何をするかなんて想像するまでもなく。
来る痛みを堪えるように顔をしかめたが、躊躇することなく自身の腕に向かってナイフを振りかざす。
「っ!」
「よく見るように、と言ったはずだよ」
周りから小さい悲鳴が上がり、目をそらしたり腰が抜けたようにへたり込んだ奴もいたが、咎めるわけではなくあくまでも優しく注意するブレア先生の声で空気が変わった。
それを確認して隣で待機していたシャーロット先生が魔法を発動させる。致命傷ではないけど浅くはなかった傷が、淡い光に包まれてどんどん癒えていく。光が収まったと同時に動かした腕に、先ほどまでの生々しい痕はどこにもなかった。
「これが、光魔法の主な使い道」
「癒しの力として使われることがほとんどよ。他だと魔物退治の時に瘴気の浄化とかかしら」
「せ、先生の腕は大丈夫なんですか……?」
「シャーロット先生は優秀な癒し手だからもう全然」
「他の方法を、と言っても聞いてくださらないのですもの」
確かに光属性の魔法を見せるにはこれが一番早いし、分かりやすい。月科は医療院にかかったことがある奴がいるだろうからまた違う説明なのかもしれないけど、たかが学園の教師がここまで体張るもんなのか。
「闇属性は、この魔道具を使おうか。学園にも使いこなせる人がいなくてね」
そういって羽織っていたマントを外す。何の変哲もない黒いマントだけど、あの様子だとなんか仕掛けがあるんだろうな。
「いいかい、このマントに魔力を通すと……ほら、この通り」
改めてマントを羽織ったブレア先生はその場から動いていないのに、その場にいる、と思えなくなる。魔力を探っても動いた気配はなく留まったまま。
「僕の魔力だとこれくらいが限度だね。認識阻害、と言って他の人に気づかれにくくするんだ」
「闇属性は名前だけでよく思われていなかった時期が長い分、あまり研究も進んでいないのよ。適性があっても隠している人もいるわ」
「適性があったり、もっと魔力を込めれば体を完全に隠してしまうこともできるらしいけどね」
この魔道具は何かの拍子に見つかって、だいたいこうして属性の勉強をするとき以外は鍵をかけた所で保管しているため、生徒が不用意に触れることはないそうだ。
魔道具とは言え消費する魔力が他の物とは比べ物にならないほどに高いから、うっかり魔力を根こそぎ取られて欠乏症にならないようにするためらしい。
「君たちの魔力を例えば、コップだとしよう」
魔力を使い切ってしまっても、器であるコップがあればそこに補充して何度も使うことが出来るが、中身が空っぽの状態で魔力を使おうとすると、本来であれば溜めるためのコップを使って魔法を発動させることになる。回復しないままに使い続ければやがてコップもなくなり、魔力を溜める器が無くなってしまった結果、魔法の発動はおろか魔力の感知すらも出来なくなる。
「そうならないよう、自分の魔力量をきちんと把握するのも大事なことだからね」
「特に使い初めに多いのは、魔法を使った後のめまい、とかかしら。異変を感じたらすぐに魔法の発動を止めること」
「今日はここまで。自覚してなくても疲れているから、ゆっくり休みなさい」
「俺、ユリエスに図書室に来るよう言われてるんだけど」
「んー、今日は部屋で休むわ。またな」
約束なんてしてないけど、ユリエスなら俺の魔力辿って図書室に来るだろう。
いつもより疲れた様子のウィードやクラスの連中に軽く手を上げ、校舎へ向かう。スカーレットと話ができたらいいんだけど、そんなタイミング良くはいかないか。




