↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら俺が乙女ゲームのヒロインらしい  作者: 柚みつ
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/178

ヒロイン……ヒロイン? sideセリ

 今日は待ちに待ったハイデルエルム魔法学園の入学式。

 三歳の時にいわゆる前世の記憶があること、そしてここが大好きだった乙女ゲームの世界だと気づいてからもうひたすらに勉強しまくった甲斐があった。まさか自分がこの門をくぐれる日が来るなんて。

 その時を思い出すたびに使用人たちには人が変わったようだ、と言われるけど。

 実際に中身、別人だからね。

 暑い日の水遊びをしていて、浅瀬で躓いたこの子――セリちゃんは溺れて生死の境を彷徨った。


 医師の見立てで峠だと言われたその日に、奇跡のように回復した。その代償とでもいうように記憶をすべてなくして。


 記憶は、なくしたわけじゃない。

 持ってなかったのだ。だってわたしはセリ・スフィアではない。


 混乱する頭のままに、鏡で自分の姿を見た時に大好きだった乙女ゲーム、「染まる世界を、あなたと」の事を唐突に思い出した。

 そうして、わたしが前の生を終えたことも。三十に手が届く年齢を重ねていたとはいえ、目が覚めたら自分は死んでいて、新たな生をしかも異世界で始めていましたなんてすぐに処理できるはずはなく。簡単にキャパオーバーした体は悲鳴を上げた。つまり、寝込んだのだ。

 再び目を覚ましたのはなんと一週間後。いよいよか、と覚悟を決めた家族が見守るなかだったので視界に飛び込んできたのは、ガタイのいい男性が今にも崩壊しそうなほど涙を懸命に堪えてる顔と、ハンカチがぐっしょりと滴る程に泣きはらした女性の顔。

 思わず引き攣った声を出した私は悪くないと思う。


 名前すら呼べずにいたわたしに、何も言わず一から家の事、この世界の事、たくさんのことを教えてくれた両親や使用人のみんなに罪悪感がないと言えば嘘になるけど、それも含めてセリ・スフィアとして生きようって決めた。


 それに、よく考えたらセリってこのゲームのヒロインのデフォルトの名前じゃない?

 人気が出てシリーズものになった「染まる世界を、あなたと」の一作目。

 ありふれた学園物の話だったけど、登場人物の魅力で根強い人気を誇っていた。

 もちろんわたしもその一人だ。二周目じゃないと発生しないルートとか、隠れ攻略キャラもいたりしてやり込める要素もあったし。


 思い出したからにはとことんやりたくなるってものでしょ。しかも大好きだったしかなりの周回した分、ある程度のルートなんかは頭に入ってる。


 倒れる前のセリちゃんはあまりお勉強が好きではなかったようで、基本的な文字の読み書きなんかはクリアできたけど伯爵家の長女としてのマナーや教養なんかは一からやり直し、となった。

 魔法学園に入学することはほぼ当たり前の進路と思われているので魔法の勉強も追加。三歳の負担にならないように量を少しずつ、でも質は落とすことはなく。


 弟ができたり、何でなかったのか分からないけど存在しなかったホットドッグやその他、主に食に関しては色々口出ししたけど、何事もなく平和な生活を満喫できている。



 そして入学式。両親は合格を疑ってなかったようで、あらかた準備されていた入学セット両親チョイスと、少し寂しそうな様子で送り出す弟の姿を背に家を出て、こうして門の前に立っているわけですが。


「あれ、ヒロインのイベントだったはず」


 目の前で短く揃えた銀髪青目の男性のタイを直しているのは、肩まで伸ばした茶髪を首の後ろで緩く結んだ……男性。


「隠れキャラ? でも今まで出てきてないし」


 身支度を自分でやる、ということにまだ慣れていないヒロインのタイが緩いということに、門の前で会った彼が気づいて結び直してくれるという出会いのイベント。

 自分で身支度整えるのが当たり前だった前世のおかげで、わたしは今日もばっちり決まってますがね。一応、門の近くに行ったら少し緩めようとは考えていたわけだ。


「このまま待っていても仕方ないし、とにかく行きますか」


 入学式ではもう一つ起きるイベントがあるはずだ、意気込んで門を潜くぐった。





「いやいや、あれだってこっちに起こるはずなんだけど」


 入学式も終わり、解散となって早々に与えられた寮の自室に戻る。

 入学式で、イベントは起きた。ただしそれも茶髪の男性――ディオにだったが。


「あれはわたしの物の知らなさを呆れるはずだったのに」


 入学式の席の振り分けを待つ間、講堂の装飾を眺めるヒロインに遠回しな悪意を告げる貴族。ヒロインが病弱を理由に社交界にはほとんど出て来なかったから、そこまで位の高い貴族と思っていなかった故の発言、なんだけど。実際のところ、わたしも幼いころの水難事故を理由として、積極的に社交界に顔を出していないから同じようなものだ。

 さっきの人はどこかで見た覚えがあった。けど、わたしが出たお茶会なんてあまり多くはないからどこかですれ違った時に挨拶した程度だったと思う。


「タイを拾ったのは偶然だったけど、名前が分かったのは良かったわ」


 ディオ、と聞き覚えのない名前が頭の中を巡る。


「これはちょっと様子見ね。次にイベントが起きた時にどうなるか」


 ヒロインポジションも悪くないけど、せっかくならこの世界を存分に楽しみたいの。

 セリちゃんの分も、一緒にね。

 楽しくなりそうだ、と呟いた独り言は上質な羽布団に吸い込まれていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。