休日の過ごし方
「足りなくなったのは、これで最後だな」
週五日の授業とは聞いていたものの、どのくらい使うのかまるで見当もつかなかったので必要最低限しか持ってこなかったノートや羽ペン、インクなんかがあっという間に底をついた。
ノートや羽ペンなんかの消耗品は、学園の中でも急に必要になった時のために購買で売ってるが種類は少ない。
寮の門が閉まるまでに帰るなら休日の外出は自由。課題が出たりで毎回のように休みに外出できるわけではなさそうだし、こうやって出れるときにある程度の量を買っておく必要がありそうだ。
「こっちは、さすがに学園じゃ使えないか」
魔法省での任務報告なんかに使っていたのは、都度インクをつけて使う羽ペンではなく、持ち手の真ん中にインクを補充した分だけ書き続けられるペン。便利だし、変な力を込めて羽を折ることもない。これも一緒に買ったがさすがに庶民が持つには値が張る物だ。使うのは部屋にいるときだけにしないとな。
せっかく街に出たついでにと無意識に魔法省に向かっていたが、今の俺はただの学園生だってことに気が付いた。私服で出てきたし、顔知ってる奴なんてあんまりいないけどそれでもどこかで見られたら後々面倒なことになる。
しょうがない、このまま適当にぶらついて帰るか。
そう思って慣れた道を進もうとした足を、方向転換させる。後ろからちッと舌打ちが聞こえたが、無視して反対へ向かう。すれ違ったのは、目をぎらつかせた男。
「だ、誰か! 物盗りだ!!」
「マジかよ」
振り返ってみればさっきすれ違った男が走っていく背中が見えた。
見た以上、放っておくわけにはいかないよな。
ノートなんかを入れた袋を肩にかけて、走っていく男の後を追う。
「魔法を使えないって、ちょっと面倒だな」
これがいつものようにフード着て仮面付けてるなら、どんな魔法使っても何の問題にもならないだろう。
逃げる男が自分の進路を邪魔する奴を突き飛ばしたり物を投げて道を開けたりしてるせいで、そっちの被害が大きなものにならないよう風を送ったりしているのもあってなかなか追いつけない。
もう一発くらいなら気づかれないんじゃないか、なんて思い始めた時に男の目の前に立ったのは細身の男性。
走っていく男の手を取り、その勢いを殺すことなく男のことを投げ飛ばした。一瞬のうちに天地がひっくり返った男は、自分がいまどういう状況なのかをようやく理解したようだ。
「放せっ!」
「放すと思うのか?」
グッと体重をかけて男を押さえる男性は、いつの間にかできていた人だかりに向かって警備の人間を呼んでくるように伝えている。
「あ、連れてきましたよ」
このままじゃ手が足りないと思って途中見つけた警備隊に声かけておいてよかった。
そのまま男を警備隊に引き渡して、盗られた荷物を返してはいお終い。
……じゃなかった。盗ったときの状況だとか、その後どうやって追いかけたのだとか目撃者の説明も必要だったらしく。
詰め所で話が終わった時には門限が迫っていた。
「すまない、巻き込んでしまったな」
「いや、俺じゃ捕まえられなかったんで」
それじゃ、と学園のほうに向かって歩き出した俺の背に、男性から声がかかった。
「君は、ハイデルエルムの学生か?」
「そうですけど、なんで?」
「この時間からそちらに向かうのは、だいたい学生だからな」
学園は王都の中心から外れたところにある。後ろに森もあるから学園の周りにはあまり建物がない。日の落ち始めたこの時間からわざわざそっちに向かうのは学生くらい、というわけだ。
「事情知ってるなら、門限あるんで」
「ああ、そうだったな。
俺はエリオットだ。縁があればまた会おう」
言いたいことだけ言って、俺の返事を待つことなく背を向けた男性――エリオット。
わずかな光の中でもなお、鈍く輝く金髪が妙に印象に残った。




