新しい、日常
学園生活にも慣れ始めた頃、スカーレットから聞いていた噂は、俺たち新入生の中でも少しずつ聞こえ始めた。
夜になるとうめき声が聞こえるだとか、何度訪ねて行っても入ることの出来ない部屋だとか。ユリエスに言わせればありきたり、らしい。
近況報告がてら師匠に話を振ってみたが、面白そうだねの一言だけで終わっていたし、ついでだからその噂のことも片づけて来いくらいのことは思ってそうな書き方だった。
任務の終わりについては何も書いてなかったから、もうしばらくこの学園生活も続きそうだ。
「あんまり食べると午後の授業眠くなるよ」
「お前だって人のこと言える量じゃないだろ」
断りもなく隣の席に座ってきたウィードの持つトレイには、俺と同じパスタとサラダ、それに追加でトースト。パスタも盛られた皿から少し飛び出しているし、明らかに俺のより量が多い。
左右の量を見比べていたユリエスのトレイには、サラダとトースト。幸せそうにパスタを口に入れているウィードがそれを見ると驚いたように目を丸くした。
「俺としてはユリエスの少なさにびっくりなんだけど」
「午後からは基礎体力だから、あんまり入れたくないんだ」
「ああ、あれきっついよな」
魔法使いが最前線に立つことはあまりない。だからといって体力がなければ討伐やそれに伴う野営なんかには耐えられない。回復も担う場合だと、倒れたりしたらその場の状況が一気に変わる。
そんなわけで意外にも体力をつけられるような授業は週二回、午後の時間をまるっと使って組まれている。
何よりきついのは終わりの時間を告げられないままに行う走り込み。ひたすらに平らなところを走ったり、障害物を避けながらだったりと毎回の課題が違う。
俺とユリエスは師匠や魔法省のメンツを巻き込んだ強制鬼ごっこで鍛えられているからそうでもないけど、終わったと同時にほぼ全員が倒れこむこの授業は、もはや恐怖の対象になっている。
「しかし、ウィードもだいぶユリエスに慣れたよな」
「最初は僕の顔見て、強張ってたからね」
「あーもう本当それは忘れて欲しい……」
「なかなか見事だったから忘れられないよ」
薬草学の実習のあと、座学もよく一緒に受けるようになったウィードは、どこで聞いたか寮の部屋に突撃してきた。
夕食後、俺の部屋にユリエスがいることをなんとなく知ってる奴もいたみたいだが、ウィードは知らなかったらしく。招き入れた部屋でユリエスの姿を確認した瞬間に固まった。
そのまま奥に押しやってユリエスの目の前に連れていき、色々話したことがきっかけで今こうして一緒にご飯を食べるようになったんだけどな。
「だいたい、ディオが腐れ縁、なんて言うから」
「ガキん頃から一緒なら腐れ縁だろ」
「それが貴族の坊ちゃんだとは思わないって」
「……言われてみればそうだな」
「だろ? 俺の反応のほうが普通なの」
「二人とも、話すのはいいけどお昼休みそろそろ終わるよ」
黙々とサラダを口に運んでいたユリエスが、わざとらしく時計を見る。
食堂のどこからでも見えるように置いてある時計が指しているのは、午後の授業開始まであと十分。
「ユリエス、分かってて黙ってただろ」
「僕は仲が良くて何よりだと思っていただけだよ」
「さっきの坊ちゃん発言気にしてるな!」
どれだけ文句を言ってもユリエスは涼しい顔だし、何よりも時間が無くなっていく。
半分ほど残るパスタを平らげようと急いでフォークを動かす。
食堂を後にする生徒が増え、ざわめきが小さくなっていくのを聞きながらパスタと格闘していると、こちらに向かってくる足音が響く。
聞き間違いかとも思ったが迷うことなく進む音が大きくなるたびに静まっていく食堂。
急いでるときに誰だ、と顔を上げて目にしたのは、丁寧に編み上げた金髪をなびかせてこちらに向かってくる男。
「やあ、ラングートの次男君。入学おめでとう」
おかしい、もうちょっと進むはずだったんだ




