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どうやら俺が乙女ゲームのヒロインらしい  作者: 柚みつ
本編

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再会、そして下見と面倒事

 まずは学園長に、との言葉通りスカーレットは迷うことなく足を進めていく。学園に通い始めて半年以上経ってるけど、この辺りに来るのは初めてだな。顔は正面から動かさないように、視線だけで周りの様子を見ても、特別変わったところはなさそうだ。


「学園長、アリスです。魔法省の方をお連れしました」

「お待ちしておりました、どうぞ」


 入学式ぶりに見た学園長の姿だが、あの時ほどの距離がないのでその表情が良く見える。

 その視線は、フードを被った俺たちを通り過ぎ、横に並んでいるじじいの顔を見て止まった。


「息災のようだな、クロード」

「お前の話はここまで届いているよ。……久しぶりだな、ライナス」


 いつもの何かを含んだ笑い方ではない、本当に純粋な笑顔を浮かべたじじいの姿を見て、唖然としたのは全員。立ち上がってこちらに歩いてきた学園長と肩を叩きあい、互いに言葉を交わしている様はどう見ても旧友との親交を温めているようにしか見えなくて。


「そろそろ、説明聞いてもいいですか?」

「そうだったな、いやすまん」

「すまない、せっかく来ていただいたのに席も案内しないままで」


 しばらくしてから声をかけたが、二人揃ってハッとした様子を見せると慌ててそれぞれの立場へと戻った。そこまでしろなんて一言も言ってないんだけど、まあ本人たちがそうするならそれに倣うとするか。


「改めまして、ハイデルエルム学園の長を務めております。

 クロード・アスコットと申します」

「今回の鎮魂祭、警備を承りました魔法省所属、ライアス・アンダベルト以下三名。

 どうぞよろしくお願いいたします」


 じじいが頭を下げたので、俺たちもフードを捲って仮面を外し、それぞれに自己紹介をする。鎮魂祭の警備とかくれんぼは何の関係もないし、こういう任務の時は顔を見せておいた方がいい。

 たくさんの人が入り乱れる中で、顔を知らない人間を信用できるか、と言われたら出来ないからな。

 俺とユリエスの顔を見て、学園長はわずかに反応したが、それは本当に一瞬。黒いローブを着てここにいる意味が分かっているんだろう、特に何を言われることもなく話は進んでいく。


「それでは、当日までよろしくお願いします。

 この後は、彼女に案内を任せます。その方が皆さんも気楽でしょう」


 人の流れの多い場所、誘導方法、何か問題があった時の対処の仕方。一言に警備と言ってもやることは多岐に渡る。ある程度は学園の教師側で受け持ってくれるらしいけど、揉め事なんかは最終的に魔法省で調書作らなきゃいけなくなる場合もあるので、最初からこっちで担当した方が話が早いし、時間のロスも少ない。

 だからその辺は一括で魔法省担当、なんて話もしていたら思っていたよりも長くなった。


 出されたお茶を飲み干して、部屋を出るときに聞こえたまたな、と言うのは久しぶりに再会した友人に宛てた言葉だろう。それに軽く手を振って返すだけで答えたじじいは、振り返ることなく部屋を後にした。

 口元は嬉しそうに笑っていたけど。


「ライナス様、卒業生だったんですね」

「儂らのような年代で魔法省にいる者は全員、ここに通っておったよ。

 当時は卒業生でないと入ることが出来なかったからな」


 質問したカイン、そして俺たちの事を見た後にじじいはふ、と表情を和らげた。


「お主たちのように、様々な事を学んだものが次代にいる。まだまだ、負けるわけにはいかないな」

「ここにいるのでライナス様に勝てるの、こいつだけですよね」

「違いない、主らの挑戦もいつだって受け付けるぞ!」


 こいつ、と指されたのは俺。確かにじじいには勝ってるけど、それが魔法省に所属する試験の一部だったし。師匠の指定した人物全員から勝ちをもぎ取ってくること、それが試験だったから。

 今でも時々、お互いの時間が合えば手合わせしてるけどよくあの時勝てたよなぁ。


「さて、ここは三階で事務室や談話室なんかがある校舎の右側。座学で使う教室もこっち側ね」


 スカーレットが説明をしているのは、主にカインに向けて。じじいは卒業生って事でそこまで詳しい説明はいらないだろうし、俺たちは現在、生徒として通っている。

 ただそれは公にはできない事なので、周りから見れば俺たち三人に向けて説明しているように見えるだろう。


「一応、それぞれの階の違いを見ておきたいですね」

「そうね、それじゃあ簡単に説明しながら行くわね」


 この中で一番、学園に馴染みがないうえに、今後も時間が取れるか分からないのは間違いなくカイン。遠征なんかの任務に就くことが多いから、今日を逃したら鎮魂祭まで学園どころか王都に居ない可能性だってある。

 となれば、今日中に全部見ておきたいだろうな。


 俺たちが動き出したことで、様子を伺っていた生徒たちも動き出した。憧れの魔法省から来たのが、年配とフードを被った年齢性別不詳なのには驚いていたようだったが、スカーレットが普通に話していることで多少は警戒心も解けたんだろう。


「では、この階には談話室があるのですね」

「ええ、奥の談話室が一番広くて、今はアルフレッド殿下が使われているわ」


 さすがにその部屋は開けられないから、隣だけど、なんて前置きをして談話室の扉を開く。そうして部屋の広さなんかを簡単に確認して、下に降りる。階段は校舎の端と端にあるし、教室なんかは校舎の左右にしかない。真ん中は通路だから売店はあるけど部屋はないと説明したら、広さの確認で一回通れば、その後は特に見なくてもいいそうだ。


 そうして、下に降りようと階段に差し掛かったとき、すれ違った学生から声をかけられた。


「すいません、ちょっとお聞きしたいことが」

「そのフードの下ってどうなってるんですか?」


 これがウィードの差し金だったら、直球すぎるだろ。でもまあ、見かけじゃ分からないから近くで声を聞きたいっていうことなら直接声をかけるしかない。それも当然来ると思っていたから魔道具を使ってるんだけどな。


「私たち、今回は警備が任務なんですよ。今、顔を明かしてしまったら当日誰が警備についてるか丸わかりじゃないですか」


 まだ勉強中だけど目指している口調はカイン、声色は魔道具使った女性のもの。これ、師匠以外にはまだ見破られたことないんだよな。ずっと一緒にいるユリエスにさえ、魔力探知しないと気づかれない。

 ついでとばかりに軽く首を傾げて、わざとさらりとした金髪をフードから覗かせる。もちろん、これは魔法で色を変えただけで俺の地毛。いつも首の後ろで緩く結んでるから、下ろすだけで結構印象は変わる。


「ええ、ですのでどうかご容赦いただきたい」


 追い打ちとばかりに申し訳なさそうな口調で告げたのはカイン。こっちは何も隠す必要なんてないから小細工の類は一切ないけど、そんなこと相手にはわかるはずもない。


 声をかけてきた学生はそのまま食い下がることもなく去って行った。その様子を見ていたのか、最初に声をかけてきた学生から聞いたのか。

 移動をするたびにちょいちょいと声をかけられてそれをユリエスや俺、時にじじいが答えながら進んでいく。カインは出来るだけ下見に集中させたいから自然とそうなったんだけど、しばらくすると声をかけてくる側にも変化が見えた。


「そういったお話なら、また今度にしてくださらない?

 魔法省で私を見つけられたらいくらでもお付き合いしますから」

「先ほどから申し上げておりますが、任務の事に関してはお答えできません」


 俺を女と思った奴からのナンパ紛いなお誘い、そしてカインには当日の担当場所。

 段々とそんな質問が増えてきて、俺もカインもうんざりし始めた時に、こっちに向かってくる何かを察知したら、とっさに体が動いても仕方ないと思うんだ。


「……おや、あなたの方が早かったようで」


 俺たちの背後からこちらに向かってきた何か、を風を使って叩き落す。わずかに遅れたことを残念そうに呟くカインの手には小振りのナイフ。それをひらりと手を回転させることで袖口に戻すと、視線をついと先へ向けた。


「なるほど、先ほどからの意味のない質問も俺たちを油断させるためのものでしたか。

 ですがまだまだ荒削りですね」

「!」

「遠距離からの攻撃に失敗したのなら、その場に留まり続けるのは愚かとしか言えませんよ」


 最低限の動きで投げられたナイフは、背後にいた学生の鼻先スレスレで壁に刺さっている。これにビビるな、と言う方が無理だろう。案の定、学生は謝罪を叫びながら走り去っていった。


「こら、学園に傷をつけないの」

「申し訳ありません、すぐに修繕を」


 ナイフを抜いて、深さがそこまででない事を確認してからカインが魔法で傷を塞ぐ。細かい作業が得意なだけあって、周りと同化してそこに傷があったことは分からなくなった。


「ちょうど一階に降りてきたことだし、お昼いただきましょ。

 寮の食堂で用意してくれるって言ってたわよ」


 気分転換しないとね、なんて言い出したスカーレットの笑顔にも、疲れが滲んでいたことには気づいたけど、指摘する人はいなかった。


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