実力者の戯れ
実のところ、ウィードの言い始めた“かくれんぼ”、その条件がよく分からなかったりする。
俺たちがローブを羽織った姿を見たいだけなら、その場で見せて欲しいと一言あっても良かったんだ。
ウィードの言い分だとローブに憧れがあったみたいだったし。というか、一回聞いてみたんだよな。俺たちが今着るんじゃ満足しないのかって。
「男にはな、無理だと分かっていても挑戦しないといけないときがあるんだよ」
何だか妙にかっこよさそうに言っていたけど、つまりは自力で拝みたいということなんだと理解した。
ユリエスは、今の自分の実力を知りたいんじゃないか、なんて言っていたけど。まあ、どちらにせよ俺たちだって簡単にやられるつもりはない。
ただ、かくれんぼなんて言うけど隠れていればいい訳じゃないんだよな。休日に学園内を歩き回るんだからどうしたって人目に付く。今回は魔法省から今度の鎮魂祭の下見に来るって話が伝わっているから、ウィードたちだけではなく興味を持った学生はその姿を確認に来るだろう。
だからこそ、俺たちだけは顔を晒すわけにはいかないんだけど。仮面をつけて、フード被っていれば見えるのは口元だけ。学園内を歩き回るときはそれでやるしかないだろうな。
あとは万が一に備えて小細工はさせてもらってるけど。
そんな事を考えていたらこっちに向かって歩いてくる二人組が見えた。
「ふむ、あやつらはまだ来ておらぬか」
「おかしいですね、待ち合わせ時間はもうすぐなんですが」
いや、確かに当日誰が来るか分からないとは聞いてたけど。この二人なら前から予定押さえてないと無理なんじゃないのかよ。いきなり空いたから送ったって人選じゃないだろ。
頭抱えててもしょうがないし、答えは本人から聞くか。待ち合わせ時間も迫ってきたし姿見せないとな。
なんだか視線はたくさん感じるから、一応それっぽい事だけはしておくかな。学園の中にいるなら、辺りを囲う塀で見えてないだろうけど、こういうのは雰囲気が大事だ。
俺たちを待つ体勢を取った二人のちょっと先、ちょうど校門を挟んで反対側にそれっぽい魔法陣を描く。二人もそれに気づいたんだろう、ちょっと面白そうな顔をしてから俺たちが隠形を解くのを待ってくれた。
というか、ユリエス。さりげなく便乗したよな。しれっとした顔で隣にいるけど。これで、今ここに転移してきましたよ、なんて風に装う。二人には俺たちの気配が分かっていただろうから、本当にただのポーズにしかならないけど。
「すいません、お待たせしましたか」
「いいえ、時間ぴったりですよ」
俺と同じようにフードを目深に被ったユリエスが先に話しかける。
ポケットから出した懐中時計を開いて、俺たちが現れたのが待ち合わせの時間通りだったことを確認して微笑んでいるのはカイン。
「誰が来るとは聞いてなかったけど、この組み合わせで来るとはなぁ」
「エイナ様から、なるべく背丈の近いものを、とのお達しでしたので」
「なかなか面白い賭け事をしているようじゃないか。儂が見届けてやろう」
愉快そうに笑うライナスのじじいは、素顔を隠さない。灰色の髪を後ろに流し、背中で揺らしているその顔は重ねた年月を感じさせるのに、体躯は若い時と遜色ないと本人が言う通りに鍛えられていることが一目でわかる。体形を隠すようなローブを着ていても分かるその肉体美は、魔法省の中でも唯一。
顔が割れて、何かしらの報復をしようものなら問答無用で返り討ち。それが可能だから仮面をつける必要もない、というのは本人談。
それもあるけどたぶん、仮面をつけるのが煩わしくなったんじゃないかというのが魔法省での認識。
前者は建前、後者は本音。どちらも間違いじゃないんだよな。
「カイン、今日はよろしくな」
「ええ、よろしくお願いします」
俺の挨拶に笑顔で応じてくれたカインは、じじいの魔法使いらしからぬ体術の強さに惹かれている一人。体が小柄だからこその速さを活かしての攻撃は、騎士たちとも互角にやりあえるほど。
光の加減で青くも見える銀髪を、ローブでしまい込んでいるのは俺たちがそうやって来るだろうからと合わせてくれたのだろう。
「顔合わせも済んだし、行くとするか」
いつまでも校門で話しているわけにもいかないので、先頭で歩き始めたじじいの後を追うようにして学園に入る。
門を入って正面にあるのが校舎、コの字型になっていて左側に実習なんかで使うような教室が集まっていて、右側に座学用の教室や談話室なんかがまとめてある。
どちらに行くにしても校舎への入り口は正面一か所しかないし、校門からは一直線。所々に木は生えていて噴水やベンチなんかも置いてあるけど人がいればすぐに分かる。
現に、休みだというのにそこかしこに学生の姿があるから、紛れるにはもってこいなんだけど。
俺だって出方見るならここでなにかしらはやるだろうな、なんて思っていたら、変な方向からこちらに向かってくる気配。
「はい、気を付けてね」
じじいの後ろを歩いていたユリエスが、そちらを見ることもせずに手を突き出す。そうして、自分の手の中に収めたものを、慌てて声をかけてきた人物に返しているんだけど、あの顔は見た事あるな。陽科の奴だ。
口元はにっこり笑っているように見えるユリエスが差し出したものを受け取りながらも、首を傾げているのは思っていたことと違ったからだろうか。お礼を言って元居た場所に帰っていったけど、あれはたぶんウィードに連絡でもするだろうな。
「何だった?」
「制御に使う球かな。ほら、手のひらサイズの」
「ああ、魔力を使って浮かせ続けるんですよね」
カインも納得したように頷いている。確かにあれなら暴発して変な方向にはじけ飛んだとしても大した威力にはならないし、消耗品扱いだから持っていても不思議じゃないものだ。
「目的は俺たちのフードを取る事じゃなくて、この状態での判別、か?」
「顔を知られることだけは絶対にするな、ってあれほど言っていたからね」
「あの程度なら、わざわざ魔法を使うことにもならないと思いますが」
どうします、と聞いてきたカインに、どうしたもんかと思うんだが、今日の俺たちは魔法省からの派遣。そして、その姿は今、魔法を学ぶ学生たちが見ている。
となったら、答えは一つしかない。
「せっかくの歓迎だ、こちらも相応の礼をしようじゃないか」
「じゃあ僕は水で」
「なら俺が土ですね」
「儂が火をもらおうかの」
「おい、参加するのかよ。
……しょうがない、俺が風だ」
見届けると言っていたのに、嬉々として参加表明するじじいが持っていったのは俺の得意分野。
風属性、使える奴は多いから魔法省の中でも人の特定をするには時間がかかるだろう。その辺踏まえての選択だったら、気を遣わせたなんて思ってじじいの顔を見たら。
「うわ、ライナス様楽しそう」
「若者を鍛えるのは年長者の役目よ。なかなか面白いではないか」
ユリエスが微妙に引き攣った声を出し、カインは頭を抱えて深いため息。今でこそ落ち着いたと言えるけど、じじいの指導ってなかなかにスパルタなんだよな。体で覚えろ、を地でいくから俺たちだって何回倒れたか分からない。
「……やりすぎるなよ」
たぶん、右から左へ通り抜けるだけだろうが。
その後、校舎に着くまでは何もなく、迎えてくれたのは見知った顔。
「あら、ライナス様がいらっしゃるなんて」
「スカーレット、久しぶりだな」
学園で見る普段通りの恰好をしたスカーレットが待っていてくれた。動き回ることを考えてか、今日はスカートではなくパンツスタイルだったけど。
「まずは学園長と打ち合わせしましょうか。それから、学園内の下見。
お遊びは、その後で」
「そうだな、まずは用件を済ますとしよう」
スカーレットの中でも、ウィード含めた学生たちと遊ぶのは確定なようだ。全部は見えてなくても、校門くぐってからここまでに何があったのかは何となく分かるだろうからな。
「それじゃあ、ご案内しますわ」
カツカツと、小気味よくヒールの音を響かせて歩き始めたスカーレット。なんというか、楽しんでるんだろうな。あからさまじゃないけど、居場所教えるようにあえてヒール履いてくるなんて。
まあ、魔法省にいるならひよっこの指導も、任務のひとつだからな。いっちょ気合い入れるとするか。
お読みいただきありがとうございます。
番外編抜いたら、本編百話でした。
ここまで続いたのは読んでいただけてるからです。本当にありがとうございます!




