かくれんぼの始まり
ウィードの悪ノリ。
週末に魔法省として学園を訪れると話してから、上機嫌というか確実に何かを企んでいるウィードを見送って。
「週末、俺たちだけか?」
「さすがに二人じゃ学園のカバーは出来ないよね。応援頼もうか」
「そうしてくれ。あいつ、何考えてるんだか」
ユリエスもウィードの態度に不安を覚えたようで、すぐに連絡を取ってみる、と返事をくれた。いくら俺たちが学園に通っていてそれなりに構造に詳しいと言ってもこの広さを二人だけで担当するとは思えない。けど、本当に二人だけだったら週末だけでも誰かに来てもらえるか相談してみないと。
あれだけ俺たちの姿見たがってるんだ、おそらくウィードが企んでいるのは週末にどうにかして俺たちと接触することだろう。
それが分かっていてそのままにするっていう選択肢はない。俺はもちろん、いつも早いのにそれ以上にさっさと連絡を取り始めたユリエスにも、だ。
とは言ってもそんな早く方法なんて思いつかないだろう、なんて俺の考えは甘かったのだと次の日に知ることになる。
「ねえ、週末に魔法省の人が来るって本当?」
「なあリンクス、一応聞くがそれは誰から聞いた?」
「ウィードだけど?」
それ以外いないよな、なんて思って聞いてみたけどやっぱり返ってきたのは予想通りの人物で。昨日の今日でリンクスが知っているって事は、ダニーまでは話がいっていると思っていいだろう。
ちょうどウィードが教室に入ってきたから、挨拶もそこそこに問いかけてみれば、何とも面白そうな表情をしながら一言だけを告げられた。
「かくれんぼ、楽しみだな!」
そっちがその気なら、全力で迎え撃ってやろうじゃないか。覚悟しろ、ウィード。
「週末、ここに来るの誰か聞いてるか?」
「聞いてないわよ? そもそも、今回わたし学園側だし」
「って事は当日もそっち側か。こっちにいてくれた方が楽なんだけど」
同じことを思っているからスカーレットが学園側の配置なんだろうけど。下見できるとはいっても、そんなに何回も来れるわけでもないし、実際の距離感なんかは図面からじゃ伝わりづらいから体験している方がいい。
「警備もあるけど、鬼の目を欺くのも、でしょ?」
「もうそんなに回ってるのか」
「なんだかやけに張り切っていたからね。応援だけはしておいたけど」
くすくすと笑うのは面白がっているからか、ウィードの姿を思い出したからか。
夜に部屋に来てもその話題だけは避けてるし、それとなく探ってみても笑顔でスルーされるから、ウィードが何をどう話しているのか、っていうのが俺とユリエスには全く情報がない。
リンクスとダニーならどうにか探れるだろうと思ったのに、あいつらも自分たちから突っ込まれるのが分かっているらしくて、今週は必要以上に話そうとしない。
「スカーレット、どっちの味方だよ」
「教師としては、挑戦する学生の味方よ。それが無謀でもね」
まあ、教師からでも、魔法省の同僚からでも無謀としか言えないよなあ。今まで勉強していたわけでもない一年生。それが動機はともかく、魔法省の人間に挑戦しようっていうんだからな。俺たちがどれだけ魔法省にいるのか、なんてそこまでは伝えてないし。それを知らなくても赤子と大人の手合わせみたいなもんだ。結果は、どう見たって明らかだろう。
あと数日、いったい何を仕掛けてくるやら。
「やあ、聞いたよ。面白くなりそうじゃないか」
ウィード、一体どこまで話をしたんだよ。なんでこの人まで参戦しようとしてるんだよ、俺の事知らないはずなんだろ。
「面白いっていうのは、どういった意味で?」
「おや、聞いていないのかい? 賢者の鎮魂祭に合わせて明日、魔法省の方々が打ち合わせに来ると」
そこまでの認識は間違っていない、けれどそれだけなら殿下に面白い、なんて言わせるはずもない。現に今の殿下の表情は、下級生に優しく教える上級生のものだ。
だけどそれも一転、続く言葉で玩具を見つけた時のような、楽しそうな顔に変わる。
「どうやら一年生の間で魔法省の方と勝負しようと考えているようでね。
君は何か聞いてないかと思ったんだけど?」
後ろに控えるリアンもいつもの無表情ながら、こちらの事を気にするようにチラチラと視線を送ってくる。
「言い始めたのは俺の友人だと思うんですけどね。
何も聞いてないんですよ」
今日の授業終わり、ウィードはさっさと教室を出て行った。皆に聞こえるよう、また明日なんてわざとらしく大きな声を出しながら。
それに反応した何人かは、ウィードの計画に巻き込まれたか巻き込んだか。どちらにせよ明日の“かくれんぼ”の参加者だろう。
「そうか、手が空いているなら手伝ってもらおうかな。
明日は談話室で一日、書類整理なんだ」
ポン、と軽く肩を叩かれて殿下はそのまま寮へと向かった。最近、あまりこうやって人の目のある所で接触されることがなかったから、ちょっと周りはざわついたけど俺の顔を見ると何人かは納得したように頷いていた。
どういった認識されてるのかは知らないが、言葉遣いも態度も、たぶんセーフのはずだ。
後から何か言われるのを避けるために、俺から話しかけたことはないし、殿下もそれに気づいているから、自分から声をかけてきているはず。
あの様子なら殿下の参戦はないようだ。さすがにあの人まで来られるといろいろ制約がめんどくさくなるからな。
この後はユリエスと作戦会議するか。まだ誰が来るのかも聞いてないし。
「明日だけど、とりあえず二人送るって連絡が来たよ」
「とりあえずって何だよ」
「トーラスの魔獣の肉から研究組が無駄に張り切ってるのと、泥棒騒ぎの書類がようやくまとまりそうだって事で、明日にならないと動けるのが誰か分からないんだって」
魔法省から送られてきた手紙をぶらぶらとさせながら、ユリエスがため息をついた。手が空いていて、なおかつ俺たちの事を話しても問題ないのって結構絞られるんだよな。
応援があるとしたらスカーレットだろうって勝手に思ってたくらいだし。二人も送ってくれるのはありがたいけど。
「分かった、それはしょうがないとして、どうするよ」
「それなんだけど、何か情報つかめた?」
月科でもちょっとだけ話題には上がったようだ。ただし、それは魔法省から学園の下見に来るって話で間違っても勝負をするような内容ではなかったらしいけど。
「殿下は傍観、陽科で何人かは参加、ダニーとリンクスも含めてな」
「殿下まで話がいってるのか」
「授業終わりに声かけられてな、俺は無関係だって周りに聞こえるようにしてたし」
一日談話室に籠るという殿下に直接頼みごとをされたなら断る事なんてないだろう。そうやって周囲に明日の俺の居場所を明確にしたことで、姿を見なくても疑問に思われることはない。
そうやってくれるのは、やっぱり俺の事分かっているからだろうな。あっちが触れてこない以上こっちからつつくこともしないけど。
「そうか、それじゃあ僕は体調悪くて寝ていることにでもしておこうかな」
「朝、食堂で頼んどいてやるよ。病人でも食べられそうなやつって事で」
そうして何個かの打ち合わせを終えて、自室に戻る。
干してあったローブに皺は見当たらないし、下に着るのはこないだトーラスに行った時と同じもの。
あとはまあ、明日向こうがどう出てくるかだな。
お読みいただきありがとうございます。
かくれんぼ、最近はなかなか高度な戦略もあるとか。




