その変化がもたらすもの
それから、アイザックが一緒の授業を受けるようになって陽科にも変化があった。
もともと入学試験の時に基礎が出来ていると判断されているから月科になっただけあり、実技の授業は陽科の誰よりも上手くこなしてみせた。それに刺激されたのか、他の連中もどんどんと良いところを吸収するようになり、結果的に陽科は、教師陣の予想よりもはるかに早く想定していたレベルに届きそうだと。
それなら、どうして陽科に来ることになったのかと問えば、座学が得意ではないと。そう、本人が言っていた。
だけど、スカーレットに薬草学の答案用紙を見せてもらえばそんなにいうほど出来ない、とは思えなくて。
「テストの問題、習いたてで出すものじゃないよね」
「あなたたちのは特別製よ?」
「は?」
「だから、二人の分だけ特別。今更こんな問題出したところで満点以外はないでしょ?」
何を当たり前なこと言ってるの? なんて逆に疑問を返されたことで脱力した俺たちは悪くない、と思う。他の先生には点数だけが伝えられるから思う存分やりたいように作ったらしい。
その後に差し出された、他の生徒が解いた問題を見て納得はしたけど。ユリエスはともかく、俺が満点取るわけにはいかないからな。こっちの特別だって方でも一応、それなりに調整したんだから、先に言っておいてくれたら全力で答案埋めてやったのに。
「悔しいなら、口頭で答える?」
「めんどくさいからなし。答えられるって思ってくれてるなら十分だ」
俺の考えを呼んだようなタイミングでスカーレットが声をかけて来たけど、今からまた答えるのも時間かかるし、聞きたいのはそこじゃない。
あっちもそれは分かっていたらしく、もちろん、と簡単に返事をした後に表情を引き締めた。
「それで、あの入れ替えは」
「他の成績も見て、妥当じゃないかしら。あのお坊ちゃんから引き離すっていうのも間違いじゃないけどね」
「ああ、やっぱりそこも含まれてるんだ」
「当然じゃない。貴族、庶民の区分なしってあれほど言っているのに」
入学式の時と、試験結果見た時。俺は二回しか会っていないけど、一緒の科で授業を受けているユリエスはスカーレットの言葉に深く頷いていた。アイザックは同じような対応をすることなくそのエクレールってやつを宥める事をしていたから、休み前には雑用なんかを押し付けられていたらしく。
そりゃ授業に集中も出来ないし、自分の勉強のための時間も取れないわ。
いろいろ納得してから改めてアイザックの事を見れば、次の試験ではきっと月科に戻るだろう、そのくらいの理解が出来るくらいの時間が経った頃。
例によって週始まり、ルイス先生の授業である行事についての説明があった。
「鎮魂祭?」
「学園の設立者である賢者ハイデルエルム様は、自分の事を悼むならその日はみな、いつものような日常を送って欲しいと言い残したんだ」
学園では特に何か催し物をするわけでもないが、賢者の没日は学園を一般開放して誰でも入れる状態にするらしい。その日ばかりは授業は休み、有志の学園の案内役なんかを募るそうだ。
「普段、入ることの出来ない学園だからこそ見学希望は多い。寮の前には我々が立っているが、毎年必ず迷い込む者はいる」
もちろん確信犯もいるだろうが、生徒だけで対応はしない事。見つけ次第、近くを巡回している教師、もしくは応援を頼む魔法省の人間に声をかけるように、との注意があった。
没日まではあとひと月ほどあるが、警備の関係でこれから学園を訪れる人が増えるので、賢者の名に恥じぬ対応をするようにとの言葉で、その日の授業は終わった。
魔法省、の言葉にウィードが一瞬チラリと視線をよこしてきたけど、気づかなかったふり。
俺もそんな話は聞いてないし、後でユリエスに確認するか。
「祭りだとは知っていたけど、理由までは知らなかったな」
そして夕食後、いつものように集まったのはユリエスの部屋。ダニーとリンクスが来るなら別の話になるんだろうけど、二人は別のところにお呼ばれされた、とわざわざ連絡をくれた。
事情も知ってるウィードとだったら防音魔法もかけて、話題にするのは今朝に聞いた祭りの事。
「まあ、ディオはそうだよね。あんまり興味なかったでしょ」
「いつもより飯が豪華だっていうのは知ってたぞ」
「それでこそディオだよな」
可能な限りいつもと変わらぬ日常を、というのが故人の意志ならそれに倣うのだろう。決して、彼の仲間がその日に墓の前でどんちゃん騒ぎをしていたなんて話が残っているからではない。
「でもあれって、魔法省が率先して準備するんじゃなかったのか?」
「そうだよ、だから僕らは当日、学園の担当」
「え、マジか。聞いてないぞ」
「言ってないからね。その日授業はないし、学園に変な人が入らないように警備するなら僕ら以上に適任がいないだろう?」
今まで学園側の担当になった事なんて一度もないのに、今回それが回ってきたのは間違いなく俺たちなら学園内の構造を把握しているからだ。ひと月あるとはいえ、今から誰かを派遣して中を覚えてもらうよりそりゃ手っ取り早いとは思うけど。
「それでも、俺たちだってまだ全部把握できてないだろうが」
「そうだよ、だから今度の休日に魔法省からの打ち合わせで学園に予定を取っている」
「いろいろ初耳なんだけど、了解」
まあ、学園側でも俺たちの事を知ってるのはスカーレットくらいだからな。魔法省との連絡はユリエスが取ってくれてるみたいだから、現状俺が心配するのはトーラスで使ってからしまいっ放しのローブの皺をどうにかすることだ。
部屋に干しておけば多少はましになるだろう、たぶん。
「なあなあ、その日ならあの格好見れるのか?」
さっきから珍しく静かだと思えば、目を輝かせて聞いてきた。ウィードの言うあの格好、っていうのはローブの事なんだろうけど、そんなに期待を持って言うようなもんかね。
「なんだよ、ウィード」
「だって格好いいだろー! 俺、ガキの頃憧れてたんだよ」
「……顔が分からないように仮面付けるし、髪色も変えている。見つけられるといいな?」
面と向かって憧れ、だなんて言われるとちょっとだけ恥ずかしくて、それを誤魔化すように言ってみたけど。実際は俺の事、着ているもの見ればすぐにバレてしまうから、分かる奴ならすぐに見分けがつけられる。それよりも他と変わらないローブを着ているユリエスを見つける方が難しい。
銀髪のイメージが強いからか、髪の色を変えただけでも面白いくらい分からなくなるからな。
「うっわ、そんな事言われたら意地でも探し出してやる」
「期待はしないで待ってるよ」
「ユリエスまで!」
今度の休みに俺たちが魔法省の人間として来る、そこまで分かっているなら簡単に探し出せるとは思うんだけど。ユリエスがわざとそういう言い方するって事は、きっと俺たちだけで打ち合わせじゃないんだろうな。
初見じゃローブの装飾に目を取られはするだろうが、その意味までは気づかないだろうし。
意気込んでいるウィードなら、朝から学園の入り口に張り付いてそうだな、なんて考えたけど。そこまでは、しないだろ。……たぶん。
評価・ブックマークありがとうございます。
ポイント一気に増えてて三度見しました。ありがたい。




