ろく
朝のこの時間は誰も居なくて良いわね。
静かだし、集中して練習に励める。
他の生徒達が登校してくる1時間前に一人弓道場に訪れ、みっちり汗をかくほど練習をする。
これだけ静かだと、長く精神を集中させていられるので私は好きだ。
校舎へ入って行く生徒の数が増えだした頃、私は弓道場を後にして制服に着替える。
着替えを終え部室を出た所に、何時もの如く囲まれた。
『水上先輩、おはようございます』
『若葉さん、おはよう』
『お姉様、おはようございます。今日もお美しい』
『み、水上さん……お、おはようございます』
「皆さん、おはようございます。チャイムが鳴る前に教室に行きましょう」
私が歩き出すと、囲っていた生徒達が後ろからぞろぞろと付いて来る。但し、一人だけ私の隣を独占するかの様に、ピッタリとくっついて離れようとしない子がいる。
「愛奈、歩きにくいから少し離れて」
「嫌です。お姉様の隣は私だけのモノです」
「私は愛奈のモノじゃない」
「…………何で、そんな……事……言うの……私は……ただ、お姉様の事が……好きなだけなのに……」
「愛奈……」
ポロポロと涙を零しながら、縋る様に私の腕を離さないでいた。
周りに居た子達は私達に気を使って、何も言わずに校舎の中へと入っていった。
空き教室へ愛奈を連れ込むと、涙を拭いて赤く腫れた瞼を濡れたハンカチで冷やしてあげた。
「お姉様、取り乱してしまいすみません」
「私の事、そんなにも好きなのね。でも、ごめんなさい。私には好きな人が居るの」
「分かってます。お姉様が自分のモノにならない事くらい。そして好きな人が居るのも、分かっていました。でも、諦めたく無いのです」
「愛奈に振り向く事が無くても?」
「はい」
「そっか…………」
そこまで想われていたのは正直言うと嬉しい。でも、私は既に千草と付き合っていて一緒に暮らしている。
もし、千草より出会っていたのが早かったら、愛奈と付き合っていたかもしれない。恋人にはなれないけど、友達としてなら一番大切な子。
「お姉様、教室へ行きませんか? 先生が来てしまう前に」
「そうだね」
愛奈と連れ立って教室へ近付くと、入口付近で千草が取り巻きの子の頬にキスをしていた。
その瞬間を見てしまった私は、愛奈を抱き寄せ耳元に囁いた。
「愛奈。今日のお昼、二人きりでご飯食べましょう」
「え!? いいの? 二人きりになったら、私我慢なんて出来ないよ」
「分かってて誘っているのよ」
「いっぱい甘えるからね!」
「はいはい」
千草が私以外の子にキスをした。例え頬だとしても、許されない事だし許したくも無い。嫉妬深いと思われるかもしれないが、誰かとキスをするのは我慢ならなかった。だから千草に意趣返しを込めて、愛奈を昼休みに一緒ににいようと誘ったのだ。




