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トークは機体に刻まれた紋様から紫光を放つ黒法師の前に立ち尽くしていた。起動した戦機は眠っていた時と違い近寄りがたい雰囲気を持っている。時代を越えて目覚めた黒法師は侵すべからざる領域にある。そう錯覚させる何かがあるようだった。


[マスター]


[声紋ノ登録ヲシテクダサイ]


[マスター]


[マスター]


「何て言っているんだろう。」


トークは戦機から聞き取れる言語に興味が湧く。黒法師は、確実にトークに向けて音を発していた。失われた古代の言語の発音。機械から語りかけられる事で耳にできるのは新鮮だった。父ならすぐにあたりをつけて分析に入るだろう……。


「違う違う。父さんに言われた通りにしないと。」


跪いた姿勢を戦機は崩していない。まずは父さんに言われた通り乗らないといけない。けど、乗ってどうするのだろう。父達は後から来ると言ったけど、ひどい怪我をしている。少しだけ目にした緑と銀の戦機、軍人さん達と戦っていた。

考えるほどに体の震えがひどくなる。

大丈夫、大丈夫。父は嘘をつかない。トークは自分に言い聞かせると黒法師の体をよじ登り、起動させた時のように鍵を戦機に挿し入れた。


今度は中途半端にせず、しっかりと右に捩じる。


[搭乗口ノロックガ解除サレマシタ]


胸部の金属板は三重になっているようだった。金属板が自動的に一枚目から順に左右にスライドをして搭乗口を開く。一見その光景は質量を無視しているように見えた。しかし、よく観察するとスライドして消えた金属板の量だけ搭乗口付近の金属が盛り上がっているのが分かった。


「液体金属?」


搭乗口付近の金属板を確かめるように触る。感触は確かに硬く、流動するようには思えない。


[マスター]


[声紋ノ登録ヲシテクダサイ]


金属に夢中になったトークは繰り返される黒法師の言葉にハッと我に返り中に乗り込む。黒法師に搭乗するのは、呆気ないほど簡単だった。


戦機の中は狭く、一人分の広さしかない。席につき息をつく。


[搭乗ヲ確認シマシタ]


搭乗口が開いた時と同じく勝手に閉まる。


「あ……。」


紫の光が暗くなった制御室で何度か閃く。いきなりのことでトークは紫の光をまともに目にした。


[視力左右1.2視野120]


トークの主眼となるモニターが中央に、死角を補うサブモニターが左右に展開。膝上に入力用の緑のホログラムが浮かび上がる。

中央のモニターに古代文字が浮かび上がった。


[サレバ永久ニ真ノ道トナランコトヲ]


「さればとこしえに、まことのみちとならんことを……。」


[マスターノ声紋ノ登録ヲシテクダサイ]


「声?登録って、マスター登録?そんなことしないよ……。」


たどたどしく古代文字を目で追い、意味を危ないながら理解した。


「父さん早く来て。」


制御室で膝を抱え、点滅する古代文字を無視して父を待っていた。年若い彼女にとって父は偉大で、疑うことを知らなかった。最悪はすぐそこで口を開いていたというのに。


「ディロン、しっかりしろ!」


フエズに肩を貸し支えていたディロンは、今ではフエズに励まされていた。フエズの朦朧とした意識が落ち着き、足取りがしっかりするのと反比例するようにディロンは血を失って顔色を悪くしていた。圧迫しても血が止まらない。どうしようもない場所に傷が出来ていること


をディロンは察して黙っていた。


「フエズ……、先に行ってくれ。もう大丈夫だろ?俺、ここで待ってるよ。」


壁に倒れこむように寄りかかる。


「こんな所には置いていけない。」


「何言ってんだ。俺はフエズみたいなむさい親父じゃなく、かわいい女の子が乗った天下の戦機様を待ってるんだ。早く迎えにいって……早く迎えに来てくれよ。みんなをよ……。」


「分かった。」


フエズは近くにあったスコップを手に取り、折れた足代わりに体を支える杖にして歩き出す。


「待っていろ。必ず迎えにいく。待ってるんだぞディロン。」


黒法師があればなんとかなるかもしれない。それは甘い算段なのだろう。それでも縋るしかない。


「トーク……。」


あの子は知っているはずだ。運用マニュアルを熱心に読んでいた。あの子は私と同じ、そういう子なのだから。


それぞれが希望に縋る中、大きな爆発音が三度。聞いたことの無いタイプの音だった。


ずっと響いていた砲撃の音がパタリと止む。


ディロンは暗くなってきた視界に何か大きな影が見えるのに気付いた。方向や時間の感覚があやふやで、フエズと別れたのが何時かその影がどちらの方向から来ていたのか分からなくなっていた。誰かが迎えに来てくれたのかとディロンは気力を振り絞る。曖昧な頭で認識した銀色の影は大きな銃を構えていた。


「一般人?」


ソフィアンが眉を顰める。サイファは体が粉々になった死体に舌打ちする。威力が強すぎた。


「サイファ君、いつも出力に苦労してるけど、そんなに難しいの?銃の組み換え。」


「弾として取り込む金属の成分によって威力に差が出るんだ。バイレヤナは計算が不得手だからな。こっちで調整してやらないと。」


そう言って威力の調整の為に銃を組み替える。残弾が心元なかったので凡庸機αの金属片を銃に食わせてみたが、調整がうまくいっていない。必要以上に威力が出て、狙っていない効果が出ていた。


「便利だか不便だか分からないわね。」


「金属さえ取り込めば残弾を気にしなくていいんだ。これ以上贅沢はいえないさ。」


「サイファ君、えっら~い!」


「ああ゛?」


サイファはからかいを含めたソフィアンの声に不機嫌になる。なぜ茶々を入れるのか理解できなかった。


「さてさて、サティバムちゃんでブラックの位置をサーチしましょ。起動してるなら簡単なはずよ。」


仕舞っていた傘を開く。間もなく戦機特有の信号をキャッチした。凡庸機にはないオリジナル独特のものだった。ソフィアンが先導する。


その頃トークは膝を抱えるのを止めて搭乗口の開閉や歩行を、記憶していたマニュアルの通りに入力していた。


フエズが考えているよりも時間の経過は早く。トークは待つ時間に焦れて、黒法師を触る事で気を紛らわせていたのだった。


開閉に問題は無い。閉じ込められていないことにほっとする。歩行の方は塗り固められた片足によりエラーを起こした。


左右モニターに故障箇所がアップされる。膝上の古代文字のキーボードホログラムに変化があり、修理、浮遊モードへの移行の選択が出ていた。


「歩かなくてもいいんだ……。」


浮遊を選ぶ。ふわりと自分の体重が無くなる感覚。ホログラムに指を浸し指でサインを入力する。音も無く指の方向に沿い戦機が動く。


「父さんもう遺跡の中に来ているかな。」


遺跡の中にいるなら迎えに行こうかと思った矢先、父の姿が通路から現れるのが見えた。


「父さん!」


トークは搭乗口を開けようとした動きを止めた。父が必死の形相で何か叫んでいた。黒法師が搭乗者のサポートを開始する。

マスターの視線の先と眼球の動きからモニターの焦点を絞る。


父の顔がモニターに拡大されはっきり見える。口の形から何を言っているのかをトークは読み取る。


『トーク!降りては駄目だ!絶対に降りるな!』


『お前だけは!お前だけは生きなさい!』


黒法師の保有する視界は残酷な程にクリアだった。父の手が何かを求めるように伸びる。トークの眼前のモニターは掴められそうなほどリアルな映像を映していた。


そうして目を背ける暇も無く、父の顔は赤く弾けて砕けたのだった。


「何なの?怪我人しかいないし……。あらら?あらら、戦機発見!」


「ようやくか。さて、戦機の様子はと……何だぁ?」


黒い機械がのたうっていた。壁や床にぶつかり、浮遊する足の片方が?げ落ちている。


「誰が乗ってやがる?あんな下手糞っつーか自壊しそうな勢いだなおい。」


黒法師が大きく壁にぶつかり地面に手をついた。


[搭乗者ノ脳波ノ乱レヲ感知シマシタ]


[危険水域ニ達ッシテイマス]


[自動制御ヲ停止シマス]


我を忘れ、搭乗口を拳で殴りつけていたトークはズルズルと席に腰を落とした。


「あ……あぁ……。」


モニターは遺跡の地面を映していた。銀の戦機と緑の戦機が左右のサブモニターに映っている。


銀の戦機が足を踏み出す。父の血溜まりを無雑作に踏んだ。


「どっちだ……。」


「父さんを殺したのはどっちだ……。」


緩慢な動きで地面から離れ黒法師が浮遊する。ホログラムのキーボードで地面からの距離を指定、主眼のアイセンサーを二体の戦機の見える角度に合わせた。


サイファと黒法師の目が合う。


「……っ。」


「どうしたのサイファ君。壊さずに奪取できたら良かったんだけど、スクラップにするしかないようよ。さっさとやっちゃいましょ?」


「ソフィアン、下がってろ。」


「言われなくても後ろにいるわ。」


弾丸を撃つ。黒法師の装甲は難なく銃弾を弾いた。


「頑丈なのね……。」


ソフィアンはそれに嫌な感じを受けた。


「ならでかいのをお見舞いしてやる。」


バイレヤナが銃を組み替える。黒法師の動きは攻撃されたというのに緩慢だった。誰が乗ってるか知らないがとんだ宝の持ち腐れだ。ここで腐っているよりは、スクラップになって研究所で解体される方が余程役に立つ。サイファは黒法師に哀れみを込めて銃弾を放った。


「殺してやる。殺して……。動けよ黒法師。」


トークはホログラムのキーを叩く。戦機の自動制御が切れ、搭乗者の補佐の一切が停止していた。座表の指定欄を何とか見つけ出し、数字を打ち込んで操作する単純な動きしかできない。


弾丸を放った銀の戦機が銃のような物を組み替えているのが見えた。黒法師と同じように、液体のような動きを見せて金属は形を自在に変える。


「生体制御に移行……。」


戦機が持つ、搭乗者の動きをトレースする有名な機能。トークはそのプログラムを起動しようとした。


[不可]


[権限保持生体ヘノ権限ノ移譲ガ認証サレテイマセン]


[マスターノ声紋ヲ登録シテクダサイ]


「いいから動けよ!!」


[声紋ヲ登録シマス]


[アナタノ言葉ヲ聞カセテクダサイ]


「殺す。」


「あいつが、あいつが殺したんだ。あいつを殺す。殺してやる。」


[マスタートーク]


[サレバ永久ニアナタノ道トナランコトヲ]



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