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03.予定調和

「これは……。」


フエズは息を呑む。鍵についた渦巻き模様の球体が回転し紫光を薄く纏って輝いている。


[応答ヲ願イマス]


鍵から発する音は聞いたことのない言語のようだった。


「トーク。」


「ごめんなさい。鍵を黒法師に挿しいれたら急にそんな風になっちゃって……。」


「いや、いいんだ。怒っているわけではない。むしろこれは素晴らしい発見だ。」


鍵を見て、黒法師の状態をフエズは察した。こんな状況でなければ……。フエズはトークに鍵を返す。トークは驚いた顔で父を見た。


「お前が持っていなさい。場合によっては必要になるかもしれない。」


フエズの顔は険しくなっていた。世話になっているウォルデンや仲間達を見て、愛娘に目を落とした。

ウォルデンの顔色や現在進行形の危機的状況に今が命を落とすか落とさないかの瀬戸際にある事は知れる。どうしても娘だけは助けたかった。


「前方に戦小隊が見えます!」


「ドロット!止まれるか!?」


「っつ!!皆さん衝撃に備えて……!」


急ブレーキ、飛来した弾丸。後輪が弾け横転する軍車。


「ぐぅ……ぁ……。」


横転した車内でウォルデンとその部下が呻き声を上げ意識を朦朧とさせている。運転手は胸を強打し失神。調査員達も一人を除き、体のあちこちを強打し痛みで動くことができない。


「トーク……、遺跡へ行きなさい。」


フエズはトークを抱き込むようにして庇っていた。頭や背中を打って血を流し、片足首が折れている。庇われたトークは軽い打撲のみだった。


「父さん?」


「その鍵で戦機を動かすんだ……。軍人さんたちなら負けないと思うが、黒法師があればより確実になるだろう。」


「そんな……動かせないし……それに父さん……。」


「いいから行くんだ!!」


フエズが怒鳴りつける。トークは見たこともない顔で怒る父に怯えた。それでも足は動かない。父を残して行く選択肢はないのだ。

大体、戦機には軍人が乗るべきであってトークの乗る意味はない。トークの冷静な部分はそう判断していた。


「大丈夫……私も後から行く。お前が先に行っておいで。いいかい?お前が乗るんだ。ディロン、動けるか?」


動かない娘に声のトーンを落としてディロンを呼ぶ。


「あー……痛ってー。俺のイカシタ顔に傷がついちまった。」


「お前は……心強いよ。」


「へへっ、惚れんなよ。トーク、親父さんは俺と一緒に行くから先に行ってろ。ほら、さっさと!」


ディロンがふらふらと立ち上がりトークの背中を外に向けて押す。幸い横転した車をそっちのけに凡庸機αと敵の戦機が戦っていた。


ディロンはにやりと笑い遺跡の入り口を指す。辺りを伺ってもいまは大丈夫そうだ。元々、彼等は取るに足らない存在だった。


「ほら!いまだっ、行け!」


トークがディロンに後押しされて走り出す。攻撃を全くしていない緑の戦機が少し反応した気がしたが、無事トークは遺跡の中に入っていった。


「はぁー……、痛ぇ。」


ディロンが座り込む。


「みんなすまない。」


フエズが謝った。本来なら鍵は年端のいかない子供に渡すべきものではなかった。察しのいい仲間はフエズの言葉の意味を理解していた。


それは軍はおろか仲間である調査員達さえ裏切る行為に等しい。


「いいよ。トークちゃんが助かるんだろあれで。」


ディロンはへらへら笑った。脇腹に割れた鉄片が深く刺さっていた。


「まあ仕方ないのう。俺達がこの様じゃ。」


ゴーエンの足は潰れた車の部品に挟まれ身動きができない、時折波のような激痛に顔を歪ませている。


「パロとラーンは?」


ディロンが探す。頭がうまく回らない。


「ラーン……ああ、駄目か。パロは気絶してるだけか。運いいなこいつ。」


ディロンが顔を覆う。ラーンの体は外に投げ出され、茂みに隠れるように眠っていた。体や首が曲がってはいけない方向にあった。

パロは毛布やロープといったものにまみれて床に転がっている。息もあるし、うまくクッション変わりになるものがあって大した傷はなさそうだった。


脇腹の血が止まらない。順番的には次はディロンの番なのだろう。


「すまねえなゴーエン、パロ、ラーンちょっくらフエズを遺跡に連れて行かなくちゃなんねぇ。」


「ディロン!」


ディロンの血の染みの広がりにフエズはまずい状態であるのを悟る。動いて大丈夫なのかとその目が問いかけていた。


「約束は、ま、はぁはぁ、守んないとなお父さん。」


折れた方の足を支えるようにフエズへディロンは肩を貸す。きついのか呼吸が荒い。


「おい!パロ起きろ!ゴーエンと軍人さん助けてやれ。」


それでも平気な振りをして、グースカしているパロを軽く蹴って起こす。こっちはこんなに痛い思いをしているというのにという八つ当たりも入っている。


「うっうわ。」


声を上げて飛び起きる。


「うわああああっ血だ!?大丈夫かディロン!!」


「大丈夫に見えたら目が腐ってるよ。ゴーエンと軍人さんはお前に任せたからな頑張れよ。」


「え?え?」


「行ってくる。」


「おう。行って来い。」


体を引きずるように歩き、フエズとディロンの姿が遠ざかる。


「ゴーエンその足……。」


暫し茫然としていたパロがゴーエンの潰れた足をまともに見て顔を青くした。


「はぁ、締まらない奴だなお前は。」


ゴーエンは痛みに苛まされながらも、この年若い考古学者をここからどう安全に遠ざけようか考えるのだった。


「ねえ、誰か遺跡に入って行ったわよ。」


「ちょっと待ってくれ。捌ききれない。」


二体の凡庸機αの連携、隙を突くようにソフィアンを狙う戦車の砲撃。確実に追い詰めているのはバイレヤナではあるものの、これまでと違い余裕というわけではなかった。

紛い物といえど戦機の攻撃を受ければ損傷のリスクが高まる。非戦闘型のソフィアンがやられたならば攻撃特化のバイレヤナは多勢に追われ敗北し、バイレヤナがやられれば攻撃手段がなくなる。この任務では二人に一切のミスは許されていなかった。


「しょうがないわね。」


ソフィアンはやきもきした。サティバムはサポート用の機体で殆ど戦闘機能がない。予測計算や通信の妨害傍受と限定的な役割しかこなせなかった。広範囲の傍受や妨害が出来るものの、その機能は味方にも及ぶ為サティバムは大規模な戦闘に基本的に呼ばれる事がない。


情報の送受信が制御できず、組んでいるバイレヤナ専用に情報の送受信装置を備え付け運用しているに過ぎない。また情報の送信はソフィアンの手を介して行われる為にタイムラグが発生し、戦機の強みである攻撃予測の精度も落ちていた。


「避けろ!ソフィアン!」


鋭い声にハッとなったソフィアンは、計測モニターに映し出された撃ち漏らしの砲弾を目に止める。回避はもう間に合わなかった。


「くぅっ!!」


幸いサティバムの要である傘に被弾はなく、腰部分への着弾による激しい揺れに襲われただけだった。攻撃予測と情報の送信に滞りはない。


「問題ないわ。気にせず続けて。」


「すまない。」


サイファは銃弾を連射し続ける。普通であればとっくに気力が尽きているであろうが、ソフィアの補整で負担は激減している。

バイレヤナの瞬発力、銃撃の正確さを考えると遅れを取るのはありえない。負けるとするならそれはサイファの責任になるのだ。


反撃をしないサティバムは、狙い目と見られ攻撃が集中していく。ソフィアンは危険を感じつつもその場を微動だにしない。サイファは必死で攻撃を防いだ。凡庸機がブレードを振ってバイレヤナとサティバムの間に捨て身で入る。凡庸機一体を犠牲に仲間がサティバムを倒す時間を稼ぐつもりのようだった。


「馬鹿かよ。凡庸機ごときが思い上がってんじゃねーぜ?」


サイファが勝ちを確信した。サティバムが攻撃が一つに集中した事による限定条件化の予測を弾き出す。標的が2から1に減った事による確率の上昇。


サイファに障害物代わりの凡庸機αは眼中にない。ソフィアンの元から逆に距離を取る動きを見せたサイファに凡庸機αの乗員は追撃を仕掛けるべきか迷いを見せる。味方がサティバムヘ集中している今、攻撃を防ぐ姿勢を崩すにはバイレヤナは危険過ぎた。


「バイバイ、ガイズ。」


情報の受信。一射目、弧を描く細かい散弾の幕がソフィアンに届かぬよう戦車の砲弾を誘爆する。間髪入れず二射目、時間経過により爆発する威力の高い散弾が戦車とサティバムを狙う戦機の正確な位置に降り落ちる。一拍の間を置いて爆発。その時には止めの為の三射目が打たれている。爆発する銃弾に戦車は装甲を破かれるものの吹き飛びはしない。その光景は嬲り殺しのようだった。サティバムを攻撃しようとしていた凡庸機αが煙を噴出す。弾の当たった箇所が破かれ中の機械が剥き出しになりバチバチと不良を訴えていた。


ソフィアンは状況の確認をする。戦車の何両かは機能を失っていないものの戦闘の続行はできない状態。中の乗員が爆発の衝撃に耐えられなかったようだ。凡庸機の内一体が機能停止、残る相手はサイファが銃を構えたのを認め盾で防御をした一体のみ。


サイファが銃を組み替える。威力の低い散弾型から貫通する特大の一発へ。


「おつかれさん。」


凡庸機αの盾を貫通し、胴を吹き飛ばす。二人にとって完全勝利といってもいい結果となった。サイファは念入りに敵に止めを刺していく。サティバムとバイレヤナの性能が漏れてしまうのは今後に響く、目撃者は全て始末するように言い渡されていた。


「これで全部か?」


戦車と戦機を撃ち込み、サイファが息をつく。汗が出て服が背中に張り付いていた。相手が勝ちに急がず消耗戦だったならまた結果が違ったかもしれない。無論、短期戦になるようサイファとソフィアンは立ち回っていた。これはサティバムという餌に食らいついた相手のミスだろう。


「そこに転がっている車、確認してないわ。何人か遺跡の中に入っていったようだけど。」


「そういや遺跡のブラックだったか出てこなかった。遺跡に向かった奴は操縦士じゃないのか?」


サイファが銃を構える。車に向けて弾丸を放つとガソリン部分が吹き飛び炎上する。二つの人影が服についた火をはたきながら飛び出してきた。


「そこのみたいに軍服は着ていなかったけど……。」


「生きてたか。」


ウォルデンと部下の胸が銃弾で吹き飛ぶ。車は轟轟と二つの死体を照らし燃え続けていた。


「ブラックに会いに行きましょう。ふふん、お手柄ね!」


サイファがソフィアンと遺跡に向かう。戦機の通れる大きな入り口。仄かな灯りに照らされる中へと消えていった。


それを見送った一つの影が燃える車の中からよろよろと出てきた。血に塗れた毛布を被さった、友の血で助かった男。

憎しみをその目に宿し、血すら舐めとる業火に皮膚は焼け爛れていた。


ふらふらと遺跡から離れていく。肉が焦げ、心が焦げる。その一生を火にくべる事を誓った男は、今は静かに立ち去った。

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