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02.襲撃

「何だ!?」


流石に調査員達も気付いた。黒法師の頭部に光が走り、紫の電光が幾何学模様を描いた。


「トーク!出口に走りなさい。一時退避だ。暴走されては手の打ちようがない。」


何故か離れた場所に居たトークにフエズは大声で呼び掛け、調査員達も速やかに戦機から離れる。


「ええい、いきなり何だってんだ。まだろくに調べてないぞ。」


ゴーエンがフンと鼻息を荒くして走る。心当たりのあるトークは身を縮めた。


手に持つ黒い鍵がブゥゥンと音を立てる。トークは隠すようにズボンのポケットに入れその上を押さえた。


二十分かけて走り遺跡の出口から調査員達が飛び出す。


暇そうにしていた軍人達が驚き、何事かとフエズに詰め寄る。


「戦機が起動した。暴走を起こしたかもしれない。」


「何をした貴様達!!」


位階の高そうな軍人がズカズカと近づいてくる。事態を把握すると顔色を変え、隣の軍人に指示を飛ばす。


「直ちに第一戦小隊をここに召集しろ。他歩兵部隊はこの場を離れ、担当地所の警戒レベルを四に誰一人通さぬよう閉鎖しろ。」


軍人が伝令に走り出す。


「だから戦機などと正体の分からぬもの嫌いなのだ。」


命令を下した軍人は調査員達を睨んだものの興味を失ったように顔を背け、そう苦々しげに呟いた。上からのお達しはこういう事態を想定しての配備だ。


「話は後で聞かせてもらう。ウォルデン伍長!学者殿を安全な場所までお連れしろ。」


バタバタと動きだした軍人の一人が命令に足を止め畏まってフエズ達の前に立つ。


「誘導任されました。ウォルデンと申します。お手数ですが自分の後についてきてください。シガーとロイスはシャッド中尉の補佐を。」


いつの間にか集まっていた部下四人の内二人を残し、ウォルデンは残りの二人と共に調査員達を誘導する。


軍人達はピリピリとした緊張感を出し、道を歩くのに無言であった。トークはフエズの後ろに隠れるようについていく。


軍人達は黒い銃器がすぐに使えるように腕に持っている。それが何か漠然と怖かった。


イイィンとゼンマイの巻く音と蚊の羽音を合わせたような音がした。その次にズンズンと響く大きな足音。


グレーの人型兵器があまり整備されていない車用道を歩いていた。遺跡の黒法師とは似ても似つかない。

戦機がロストテクノロジーだとしても研究が進んでいないわけではなかった。現代文明の粋を集め作られている紛い物、凡庸機αと呼ばれる戦機だった。

その能力は戦機オリジナルの性能に格段に劣るものの、既に国家間の戦争で中枢を担っていた。


「第一戦小隊のお出ましか。」


ウォルデンが眩しそうに凡庸機を見た。紛い物といえど、その運用を任されているのは軍の中でもエリートだ。

今回の任務でシャッド中尉が率いているのは戦機二体に戦車六両、軍車二十五両、百六〇名の人員。大げさにも感じられるがスクラップであろうと、それほどの重要性が戦機にはあった。


「しっかし学者さんよう、いったい何をやらかしたんだ?戦機なんてものは、動かそうとしたってうんともすんとも言わないのが常識だっていうのに。まさか戦機の運用マニュアルを勝手に試したんじゃないだろうな。」


戦機の登場で口の緩んだウォルデンがフエズに話しかけた。


フエズの横で聞いていたディロンがぎくりとする。未遂に終わったが彼は少しだけやってみたいかもなどと内心思っていたのだった。


「馬鹿な、一通り目を通したがあんなやり方許容できんよ。軍属の研究者の神経を疑うね。」


フエズが否定する。彼にしてみれば本当に突然の起動であった。また不名誉な誤解は御免被る。


「お堅いね学者様は。」


「黒法師の外見の状態は脚の損傷を除けばかなりよかった。機能を失い埋められたかと思っていたが、役割を終えて封印されていたのかもしれん。」


ウォルデンとの会話を皮切りに調査員達が盛り上がっていく。


「確かに壁画の話では黒き神の眠り以降大規模な戦の記録がない。」


ラーンが肯定する。


「そうだとしたらここの文明が滅んだ原因はなんだ?確か同規模で敵対していたクロイス族がここを攻め滅ぼしたんだろ?」


ディロンは納得がいかないようだ。


「クロイス族が攻め込む頃には兵器の技術継承が途絶していたと考えるのが自然だろう。年代の開きから見て黒法師という兵器から黒き神への偶像への変遷が見られる。」


ゴーエンは発掘品の年代による推測を述べる。


「発掘された儀礼品もそれを裏付けているね。三代目の王の時代から黒き神にちなむ品が大量に見つかっている。」


パロは黒き神にまつわるとされる祭祀道具がある年代の境から見受けられるようになっていたのに気付いていた。


軍人達は騒ぎだした学者達にげっそりとした顔になる。彼らはそういった事にあまり興味がなかったのだった。


[応答ヲ願イマス]


黒い鍵から発せられる声はそんな調査員達の声に掻き消された。


二体の戦機を遺跡の入り口に待機させ、シャッドは後方の天幕に控えていた。いらいらと落ち着かない様子で各方面からの報告を待っている。

学者の言葉を鵜呑みにしたが、遺跡の中の戦機の状態がどうなっているは分からない。

話では暴走される前に逃げてきたというのだから暴走しているとも限らない。

起動が確認されたその一つの事実が厄介だった。


「中尉!!」


慌てた様子の上等兵が駆け込んでくる。


「敵兵です!」


シャッドは虚をつかれる。通信にはまだそういった報告は上がってきていない。異常事態だった。


「キャーン、油断しすぎ~。電波ジャック余裕でした。流石私のサティバムちゃん。」


「ふざけるのは止めろソフィアン。」


銀の戦機が軍用車と戦車を踏み潰す。逃げ出した兵士を撃ち洩らさないよう腕に構えた銃器で丁寧に狙い撃った。

緑の装甲の戦機サティバムが銀の戦機に続いて無人の封鎖された道を突破する。背中には電波を操作する薄い緑の膜が張った傘のようなものを広げていた。


「どっちがふざけているって言うの?サイファ君一人撃ち逃したでしょ。」


ソフィアンの指摘に舌打ちでサイファが答える。


「数を~、少しでも減らさないと~、まずいでしょ~サイファ君。」


「君って奴は本当に人を苛つかせるな。」


「私は~サイファ君の失敗にぷんぷんだぞ~。」


サイファは頭を掻き毟りたくなる衝動を抑える。切れたらソフィアンが嬉々としてその様相を仲間内に触れ回るのが分かりきっていた。

言葉があれだが失態は事実、冷静に考えると逆ギレの構図になる。


初めはこんなではなかったのだが、サイファと組む事が多くなってからソフィアンの性格は悪くなった。それもサイファ限定で。

ともあれ、二人のコンビネーションはそれだけこなれているので息自体は合う。


「んふ、六十九度、距離は百と二十一。」


銀の戦機が銃の形を組み替える。放たれた一発の弾丸が遮る木といった障害物を物ともせず貫通していった。


「ナイスショット!サイファ君。」


目標の撃破をソフィアンが確認した。部外者達は誰にも知られず堂々と侵入を開始していた。


「敵の詳細と状況は?」


シャッドは上等兵の報告に色を無くした。


「敵は戦機二体の確認がされています。第五、第七分隊の通信に応答なし。第六分隊、伝令兵より救援要請を受けております。」


「戦機……?こんな時に……、いやこんな時だから?」


通信兵に戦小隊、ほか各部隊に繋がるかシャッドが確認を求める。


「第五、第六、第七、第三分隊応答なし。他部隊の応答確認しました。」


「各隊に通達、戦機との交戦は避けるように。可能であるならばBポイントへの誘導を行え。第一に人命を優先し都度報告を欠かすな。戦小隊はその場にて待機、敵の迎撃に備えよ。戦車兵のみBポイントへ移動、戦小隊の援護に回れ。」


通信兵がシャッドの命令を各隊に伝える。遺跡に動きはない。


「遺跡の戦機を狙ってきたか……。」


シャッドは苦虫を噛み潰した顔になった。四つの部隊の安否が不明、敵の情報も戦機二体という以外分かっていない。

通信による連携は現状からは望めない。第三分隊の配置はここから二キロ四百メートル、考える時間はまだ残されていた。

通信の途絶えた各部隊の守る北東六十度の区画はもう破られていると考えなければならない。


「通信兵、基地本部へ敵の攻撃を受けていることを報告。敵戦機二体、通信の妨害及び傍受が行われている為以降の通信は望めない状況。直ちに救援を求めたい。ブラックが目覚めている。」


「通信繋がりません!」


悲鳴のような声で通信兵が叫んだ。


「……。」


シャッドは沈黙した。できることは限られ頼みの綱は戦小隊だけであった。


「朗報だわ。ここの戦機起動したみたい。」


サティバムの傘を全開にして通信を遮断したソフィアンが顔をほころばす。この作戦が成功すれば大手柄だ。通信を試みる声はいまや全てサティバムに集まっていた。


「それって敵の戦機が増えたってことだろ。」


サイファが嫌な顔をした。凡庸機α二体の確認はもうしていた。不確定要素が増えるのは歓迎できない。


「どうかしら。まだ見つかったばかりでしょう?乗り手なんていないわよ。」


「わざわざ凡庸機を持ち出して来ているんだ。ならオリジナルに乗れる操縦士の一人や二人は連れてきていてもおかしくない。」


「んーそうね~。だとすれば起動する前に仕掛けた方が良かったかしら。昨日まではそんな話し出てこなかったけれど。」


「機密を通信で報告するのを嫌ったんだろう。そう考えるといいタイミングだった。操縦士も戦機にまだ馴れていないだろうからな。」


「んふふっ、楽しみね。ブラック、どんな機体なのかしら。」



遺跡より八〇〇メートル地点。北東ポイントA。第八小隊守る野営地。


「おい、敵襲だってよ。どうする?」


ウォルデンが二人の部下に言った。耳にはめた通信機から連絡が回ってきていた。調査員達はウォルデン隊に見張られているものの、窮屈なテント内で各々寛いでいたが敵襲という言葉に反応しざわめいた。


「おいおいおい、シャレになってないぞ。」


ディロンが真っ先に口を開き小声でフエズに話す。


「落ち着け。敵の狙いは十中八九あれだろう。私達が眼中にあるわけがない。」


「いや、そりゃそうだろうが……。」


「ガハハ、まぁ巻き込まれるだろうな。」


ゴーエンが陽気に言った。彼の肝は太いのだ。


「我々が慌てたところで何もできんよ。本職の方に任せて大人しくしておこう。」


ラーンはそう話しながら眼鏡を神経質に磨く。彼が不安に思っている時に出る癖だった。


「に、逃げた方がいいんじゃないかなぁ。」


ストレスに弱いパロは胃の辺りを抑え、顔を青褪めさせている。ウォルデン隊の方は、まだ声を抑えて相談しているようだった。

テントの外からはバタバタと兵士の走る音や飛び交う声が聞こえてくる。


「思った以上に状況が悪いらしいな。」


ウォルデンが怒りを抑えた声でそういった。連絡がつかない部隊が出ているときて、更に中尉の命令は事実上の退避勧告。


「ウォルデン隊は学者殿の守りに徹することとする。」


攻撃を受けているだろう友軍の元へ助けに行きたかったが、状況的にそれは望めない。


「ついてきてくれ。軍車で移動する。」


友軍の守るBポイントを経由し南東に迂回、離脱を試みる。その後は味方の勝利を信じて吉報を待つしかない。


鎖や砲弾を積んだ陽動用の車が並ぶ中、調査隊とウォルデン隊が一台の車を借り受けた。


「悪いな。」


陽動部隊を編成する小隊長にウォルデンが気安く話しかける。


「気にするな。一般市民の安全を守るのも軍人の役割だ。しっかり守れよ。」


「おうさ。幸運を。気をつけろよジラーディム。」


「幸運を。お前こそ気を抜くんじゃないぞ。」


ウォルデンは小隊長に片手を振って別れた。


部下に車の運転を任せ、ウォルデンは後方にじっと目を凝らす。調査員達も空気を読んで静かにしていた。軍車の駆動音が響く中でウォルデンは頭の中を整理する。情報は少なく判断材料がない。戦機二体……、オリジナルか凡庸型かで戦況は大きく変わる。シャッド中尉は凡庸機αと戦車以外を戦力外通告した。つまりそういう事なのだろう。


「ミスったな。」


「ええ、対応が早いわ。」


サイファ達がAポイントに着いた時には第八小隊が臨戦態勢で待ち構えていた。


足元に射出される鎖、威力は低いものの戦機を想定した砲弾。銀の戦機が軍車を狙おうとしてもタイミングよく打ち込まれ、放たれる弾や鎖に邪魔される。戦機の反応を頼りにサイファが弾丸で弾き落としているがきりがない。


「面倒ね。データを送るからそれで調整して頂戴。」


ソフィアンがサティバムの傘からサイファに情報を送る。動く敵の進行方向と時間の予測結果が戦機内のモニターに映し出される。精度は50%。

隙を見計らいサイファは銃の形を組み替え連射型にする。


「これじゃあ、寄って集っても相手にはならないな。」


激しい破砕音が鳴り軍車のいくつかが横転、炎上した。軍車の攻撃の連携はまだ崩れていないが、端の方から順番に離脱を始める。乱れのない動きに表面上の動揺は見て取れない。


「逃がさねえよ。バイレヤナの銃弾は特製だ。喰らいな。」


連射型にした分、威力が削れているが軍車の装甲は銃弾に耐えられない。焦った軍車の一台が支離滅裂な動きをし、連携の穴を作り広げる。


サイファは機会を逃さず銃撃を浴びせていく。爆発音、炎上、潰走。逃げに徹し始めた敵をバイレヤナとサティバムが追う。


「サイファ君?派手過ぎ。」


今の攻撃はかなり目立ったはずだ。戦闘の規模が大きかっただけに仕方がないのかもしれない。


「悪い……。」


「まぁ、ここまで来たらばれても関係ないかもしれないけど。」


第七、第三分隊、第八小隊混合軍が壊滅に追い込まれていた。


「……ちっ。車のスピードを上げろ!燃料の事は考えるな。この場所から離脱する事だけを目標にしろ!」


ウォルデンが運転席に怒鳴る。聞こえてきた爆発音と野営地辺りから立ち上る黒い煙が嫌な予感を加速させていた。


「イエス、サー!」


部下が返事をしてアクセルを踏む。車の揺れが大きくなりガタガタ鳴った。ウォルデンは構わず後方を睨み続ける。遠くに誘導というよりは敗走する友軍の姿が見えた。敵の姿は確認できない。友軍の軍車はかなりのスピードを出しているようだった。あれでは道を曲がる事ができないだろう。


「大丈夫なのか?」


ウォルデンが心配し呟くと同時に爆発。


「!?」


敵の姿はいまだに見えない。しかし軍車の一台が脈絡なく爆発炎上した。


「ドロット!!全速を出せ!!」


「隊長!?これ以上は無茶です!事故を起こしますよ!?」


「死にたくなければ事故を起こすな!」


「んな無茶苦茶な!!」


部下はそういいつつアクセルを全開にする。


「みんな掴めるもんに掴まっておけ!敵が来てる!」


思い思いに調査員達も出っ張りや備え付けの取っ手に掴まる。そんな中、フエズはトークの体を守るように掴んでいた。


「大変な事になったな。」


ここまで大事になるとは予想だにしていなかった。愛娘を巻き込んでしまい胸の内に悔恨が生まれていた。悪路を走る軍車は跳ねるように走る。


[……願イマス]


「ん?」


何かの声がした。愛娘は震えながら片手でポケットを押さえている。


「何か言ったか、トーク。」


ポケットの中身を気にしながらトークに話す。


「ん、んん。何も。」


フエズは騒音に負けそうな愛娘の声を聞き逃さないように耳を澄ます。トークには怯えが見られた。この状況なら仕方ないだろう。


[応答ヲ願イマス]


「…………。トーク、そのポケットの中のものを見せないさい。」


ビクッとしたが、恐る恐るトークが鍵を取り出した。遂にばれたのだった。

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