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05.襲撃の結末

弾丸が黒法師に着弾する。サイファは狼狽した。オリジナルさえ再起不能にする威力の弾丸を放ったはずだった。しかし、目前には片手で弾丸を防いだ黒法師が衝撃を受ける事無く浮遊していた。


「……。」


サイファは言葉も出ない。機体の格が上なのが嫌でも分かった。


「あの機体の腕、盾になっているのね。それも飛び切りな奴。どうするのサイファ君、黙っちゃって。」


「上等だよ……。バイレヤナの弾丸、通してやる。」


やる気を出したサイファを傍目にソフィアンは頭を巡らせる。黒法師に乗っているのがへっぽこで助かったが、性能が今まで見てきたオリジナルの中でも突出しているのが見て取れる。高威力の弾丸を受けて掠り傷一つ無い腕の盾。片足を失いながら安定性を損なわない浮遊の機能。搭乗者の反応が遅いのを補う俊敏な機体の動……き……?剣のように伸びる腕の盾!!


「サイファ!?」


今までの動きとは見違える機敏さで黒法師が盾を剣に見立てバイレヤナに迫った。


「速……くっ。」


黒法師の接近を嫌いサイファは近距離で銃弾を爆裂させる。盾を構える黒法師から素早く距離を稼ぎ、威力の高い銃弾を黒法師の全身に当てていく。弱い箇所がないか確かめようとしたが、黒法師は腕の盾では防ぎ切れないと判断し距離を取った。サイファも弾を吐き出すのを止める。小康状態に入った。


二体とも動きを止め、相手を見ていた。ソフィアンはサイファの余裕の無さと性能差に退く事も選択肢に入れた。サイファが相手を出し抜いてもバイレヤナでは歯が立たない。バイレヤナの攻撃がここまで通らないのを見るのは初めてだった。


黒法師が先に動く。サイファは接近を許さないよう警戒したが彼の予想とは違う動きを黒法師はした。


両腕に付いた盾を互い違いにすり合わせると、歪な剣のような形態に固定される。剣は腕から外れ黒法師の手に握られた。バイレヤナ真正面、黒法師が飛び掛る。


それは銃弾を撃つにも絶好のポジション、サイファは構えていた銃から黒法師の頭部のアイセンサーを狙い打つ。込めた弾丸は特性。中には粘性の強い溶けた金属が入っている。壊せなくても視界を塞ぐ事はできるはずだった。


黒法師の持つ剣の先端は、バイレヤナの銃口を狙って閃いて射出された弾丸ごと銃器は悲鳴も上げずに裂けていった。


サイファが為す術なく貫かれようとした先で、サティバムの体当たりをまともに食らい黒法師は地面に転がった。


「退避よ!サイファ!!これは私達の手には負えない。」


「ここまで来て……。」


「いくら何でも対処できないわ!この情報を持ち帰れるだけでも良しとしましょう。サイファ!」


「~~~~。」


言葉にできずサイファは裂けた銃を抱え遺跡の外に走り出す。ソフィアンは焦りを隠さず後に続く。黒法師の動きが最初と全く違う。理解できない飛躍が起きていた。


「うっ、はぁあぁ。」


液体金属がチューブ状に伸び制御室の中で紫光を淡く放っていた。腕と足に巻きつき針のような細い先端をトークの体に刺している。そのチューブのおかげで、トークの体の反応がダイレクトに黒法師に反映していた。


倦怠感が凄まじい。トークの身体能力以上を黒法師は可能にする。意識が追いつかない。汗でびっしょりと服が濡れていた。


[身体反応ノ低下ヲ確認]


[自動制御ニ移行シテクダサイ]


「どこに……行くつもりだ!!逃がさない。絶対に。」


黒法師がトークの意思を反映する。ソフィアンは追い上げてくる黒法師に決断を迫られた。


遺跡の出口が見える。サイファが出ようとしている所だった。


「……サイファ。」


「……なんだ?ソフィアン。」


銃器が壊れ意気消沈したサイファの声が聞こえる。


「今からデコイを放つわ。このままじゃあいつに二人ともやられちゃう。」


「はぁ?あれは索敵タイプじゃないだろ。意味ないと思うが。」


「森で二手に別れてデコイで撹乱するの。やらないよりはましよ。それじゃ、また後で。」


遺跡を出て、サイファとは別の方向にソフィアンは走る。


サイファは納得し兼ねるが、ソフィアンを追う余裕はない。互いの無事を信じ今は逃げるしかなかった。


トークはサティバムを無視していた。父は銃弾で死んだ。その目で、モニターに映った銀の弾丸を認めていた。


緑の機体が前方を塞ぐように傘を広げていた為、トークは銀の戦機を一時見失っていた。


緑の戦機が消えた方の森と反対の森から騒がしく鳥が飛び立つのが見えた。


「あっちか。」


トークが森に入ろうとした所で、サブモニターに緑の戦機が映る。傘を広げ臨戦態勢になっていた。


「やっぱり。サイファ君を追うつもりなのね。」


バイレヤナは取り込んだ金属の分だけ弾丸を打ち出すことができる。ただそれは著しい機動力の低下を招いていた。

狙撃、射撃の速度は目を見張るものがあるが、移動は不得手。それがバイレヤナの評価。またサティバムと違い、撹乱の為の機能はない。


死の天秤はサイファに傾いていた。それをソフィアンはよしとしなかった。彼女(ソフィアン)のこれからと、(サイファ)のこれからを考えての事だった。


トークは焦る。今も銀の戦機は逃げて距離が離れる一方。緑の戦機に無防備に背を向けあたりをつけた森の方に飛び込もうとした。


「させないわ。」


背中に衝撃。ソフィアンは捨て身で攻撃を仕掛けていた。サティバムに戦闘機能はついていないが、攻撃手段が全くないわけではなかった。


それは体当たりといった原始的なものや操縦士自身の技術による格闘術、戦機としては下の下策であり自殺行為であった。


[脳波:弱]


[自動制御ニ移行シテクダサイ]


「ハッハッ……ぅぐ……。」


息を詰まらせトークが咳き込む。

サティバムに黒法師の体を掴まれ抑え込まれている。少女の紫水晶の瞳が憎悪に染まる。


「邪魔……するなよ!!」


黒法師の剣をサティバムの頭部に突き立てた。かつて黒き神が振るった闇色の剣。ガリガリと緑の鋼を削り、紫光を帯びる火花を散らした。


ソフィアンのモニターの映像が乱れ真っ暗になる。彼女はそれを予想していたように、落ち着いて電波による視界に切り替えた。


問題はなかった。これからソフィアンが取ろうとしている手段は下策以下の行い。


「ごめんなさい。サティバムちゃん。」


ジジジと機体が震える。サティバムの持つ力場は強大であった。その力を最大に解放すれば自壊してしまうほどに。ソフィアンは躊躇わず背中の傘からサティバムの電磁波を解放した。


爆発するような熱に体が焼け焦げる錯覚。仕掛けた本人であるソフィアンがめまいを起こす。


トークは黒法師の装甲を抜けた衝撃波に座席に背中を押し付けた。体が焼ける錯覚が一瞬。トークの動きに沿い黒法師が仰け反る。サティバムは黒法師をがっちりと掴んでいるので離れられない。


「分かってる。一度でも二度でも……何度でも!」


ソフィアンの鼻から血が出ていた。口の中に血が溜まる。彼女には先がなかった。サティバムに乗ってから時間が経つのが恐ろしかった。パイロット殺し、それがサティバムの操縦士達からの呼び名であった。めまいを起こし血が止まらなくなりやがて間を持たずに苦しんで死ぬ。それがサティバムに乗った者達の運命。悪魔の試験機にして、研究者達のピスム・サティバム。


サイファは違う。バイレヤナは弱点も多いが、運用を間違えなければ活躍の場は多い。撃つしか能がないと揶揄する声が多くても、必ず認められるようになる。寄せ集めのサティバムとは異なり、アカシア・バイレヤナは正真正銘オリジナルで彼はそれを任されているのだから。彼はサティバムと組んで、嫌な顔をしなかった唯一の人。


「一緒に痺れましょうかぁ!!」


喋ると口から血が垂れた、電磁波を解放する。彼女の意識が合わせて飛んだ。


「この……。」


トークもまた電磁波を受けてめまいを起こした。黒法師が大部分を装甲で防いでくれているが、それすら通り越して焼け付く電磁波の衝撃が通り抜けていく。


[警告:脳波危険域]


「あいつが……あいつを……!」


それでもトークは剣を手に取る。黒法師が使うのは盾ではなく剣なのだ。敵を貫く黒き神の剣こそが、黒法師の得物。されば永久に真の道はその手に斬り開かれる。


「サイファ……。」


ソフィアンは最後にそう言った。黒法師の剣がサティバムを壊れた頭部から下腹部まで串刺しにした。制御を完全に失い、サティバムの傘が機能を失う。様々なオリジナルを混合し、研究者と搭乗者の悲しみを積んだサティバムは自壊を始める。内部から始まり閉じ込められたエネルギーが外に向かう。


爆発が起きた。戦車や戦機の亡骸を巻き込んで吹き飛ばす。周辺の森の木が吹き飛び、粉々に砕けた。


「ソフィアン?ソフィアン!」


サイファは沈黙する通信機に怒鳴るように名を呼んだ。大規模な閃光の後に爆発音が辺り一帯に響いていた。遺跡近くで起こったように見える。


サイファは逃げる足を止め、名を呼び続ける。


やがて、通信機に音声が入る。


「バイレヤナ機。」


無機質な声音。


「帰投を命ずる。速やかにその場を離れるように。」


「ソフィアンが……。」


「サティバムの沈黙を確認している。この通信の意味を君が一番分かっているはずだが?友軍がエリア7で待機している。バイレヤナの安全を第一に行動し給え。」


通信が切れる。ありえない。ソフィアンが敵に捕まるのならば、先にサイファが捕まるはずだ。その考えに行き着くのは簡単だった。なにしろサティバムは逃げる事と妨害に掛けては純正のオリジナルさえ抜きん出ていたのだ。パイロット殺し、味方殺しと呼ばれる忌まわしい機体。


ソフィアンが庇ったのは……。


「俺を……なのか。」


彼女はデコイを放つといった。二手に分かれた。少なくとも一人が助かる確実な選択。二人で生き残る可能性は低かった。それでも二人で生き残る可能性はあった。


可能性はあったんだ!!


手元を見れば裂けた銃。


のろのろとバイレヤナは歩き出す。追っ手の気配はない。帰投命令が下っている。サイファは逃げていた。今も逃げている最中だ。戦える武器がなかった。


樹影の隙間に赤いトカゲと犬を足したような体躯の機体が見えた。


「……。」


サイファが無言で立ち止まる。


「なぁに?あんたやる気無いの?」


赤い四足の戦機から高飛車な声が聞こえる。


「手を出すな?何でよ!」


相手の通信機の声は聞き取れないが喧嘩をする声が外に垂れ流しになっていた。


「あ~やだやだ。頭が石で出来てるんじゃないかしら。あんた命拾いしたわね。あんたも私を知らないし、私もあんたを知らない。んじゃそういうことでさいなら。」


四足の戦機が遺跡の方へ駆けていく。森の中を走り抜け、遺跡付近に入ると、裂けた銃器を持ったみすぼらしい戦機の事はすぐに頭から消える。


遺跡は半壊し、瓦礫や屑が散らばっていた。爆心と見られる場所に黒い機体が剣を地面に刺し片膝で立っていた。


「へぇ?」


四足の戦機が近付く。


「ねぇ、生きてる?私、ラッキーサラマンダーっていうの。あなたを迎えに来たのよ。」


黒法師の体の紋様が紫光を走らせる。


「あいつ……を……殺す……んだ。」


「物騒なこと言っちゃってくれてるけど元気なようね。安心しなさいな。あなたの敵はもうここにはいないわ。そうね、私、あなたが気に入ったから手伝ってあげる。だから一緒に来てくれない?」


「……。」


「答えは後でもいいわ。《黒法師(アエオニウム・アルボレウム)》のマスターさん。」


サラマンダーは気を失ったトークに話し続ける。


「ラーディクスはあなたを歓迎するわ。」






黒法師-Nightmare of avengers-終幕

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