#3「配信、ちょっとバズる」2
俺は荷物袋を担ぎ直すふりをして、指をわずかに動かした。
――《空間遮断・微》
岩の軌道がほんの数センチだけ逸れ、ジンのすぐ脇を掠めて地面に突き刺さる。轟音と土煙が上がった。
「うおっ!?」
ジンが飛び退いて尻餅をつく。配信画面には、驚愕のコメントが滝のように流れた。
『ジンさん危なっ!』
『今の運良すぎない?』
『奇跡の回避じゃん』
「は、はは……俺の勘も鈍ってなかったな。ギリギリ避けてやったぜ」
ジンは額の汗を拭いながら、強がって笑ってみせる。本人は自力で避けたと思っているらしい。
『主様、助けられたのは、あの男のほうでしたね』
「言うな。あれは事故防止だ」
『ええ、承知しております。ですが、あの者は主様のご厚意に一切気づいておりません』
シュエットの声には、微かな愉悦が混じっていた。
*
配信は予定通り、無事に終了した。ジンは「いい経験になった」と満足げに帰っていき、姉妹はコラボ相手の登録者が自分たちにも流れてくることに大はしゃぎしていた。
「ねえ見てカサネ! 登録者が三千人超えてる!」
「ランキングも百八十位まで上がったわね。これは、ちょっとした波が来てるわ」
「波っていうか、波に乗ってるのは私たちの才能だよね!」
「才能と、ダンジョンの魔力環境が噛み合った結果よ」
二人の会話を聞きながら、俺は夕飯の献立を考えていた。今日はカレーの残りをアレンジして、カレードリアにしようか。
シュエットがそっと耳元で囁く。
『主様。例の岩の件ですが、あの映像、すでに切り抜かれて拡散されております』
「ん? ジンさんの派手なコケ方が面白かったんだろ」
『いえ、それもありますが……「岩がなぜか逸れた」と話題になっているようで』
「たまたまだろ、そんなの」
軽く流したものの、シュエットはそれ以上は何も言わなかった。ただ、肩の上でじっと、遠くを見つめている。
その視線の先で、拡散数のカウンターが、ゆっくりと回り続けていた。




