#7「近づく者たち」1
三日間の特訓は、地味だった。
アマネは朝から晩まで、大剣の素振りを繰り返した。「今度は自力で覚醒する」と宣言した通り、俺の補助なしで、的の岩を叩き続けている。結果は、岩に小さな傷が入っただけだった。
カサネは結界の二重展開に取り組んだ。一枚目を張ったところで魔力が尽き、座り込む。それでも翌朝には、また同じことを黙々と始めた。
手を貸したくなる場面は、何度もあった。結界の魔力にそっと上乗せすれば、一瞬で成功する。だが、やめた。二人が自分の足で積み上げているものを、俺が横から埋めるのは違う。兄の仕事は、手を出さないことでもある。
「お兄ちゃん、お弁当、卵焼き多めでお願い」
「はいはい」
荷物持ちとしては、そのくらいが妥当な役割だった。
『灰燼の大空洞』の入り口には、ギルドの前線基地が設営されていた。
巨大なテントが並び、探索者や技術者が忙しなく行き交っている。壁面には複数の中継モニタが据えられ、俺たちの到着を待つように、撮影班が機材を調整していた。
「うわあ……本物の現場だ……」
アマネがきょろきょろと辺りを見回す。カサネは無言で、設営された魔力障壁の構造を観察していた。
「お疲れさまです。入場前に、魔力検知ゲートを通っていただきます」
係員の案内で、三人は門型の装置の前に並んだ。ダンジョン内の安全確保のため、全員の魔力量を記録するらしい。
先頭のアマネが通り抜けると、モニタに数値が出た。
「B+! 私、思ったよりある!」
続くカサネは、少し控えめな数値だった。
「……妥当ね」
そして俺の番になった。
荷物袋を担いだまま、ゲートをくぐる。係員が画面を覗き込み、眉をひそめた。
「あれ?」
「どうしました」
「数値が……ゼロ、ですね」
「ああ、俺、魔法使えないんで」
「いえ、そうではなく。魔力量が完全にゼロなんです。人間は誰でも、微量は持っているはずで」
係員が装置の側面を叩く。再起動。もう一度通過。やはり、ゼロ。
「すみません、故障かもしれません。もう一度、お願いします」
三度目も同じだった。係員の額に、汗が浮いている。
『主様。やりすぎです』
肩の上で、シュエットが電子音に紛らせて囁いた。
「何がだよ。一般人っぽく、魔力を完全に消しただけだ」
『ゼロは、一般人ではありません。むしろ、人間ではありません』
「え、そうなのか」
『…………』
係員は結局、手書きで「測定不能」と記入し、俺を通してくれた。まあ、通ればいいのだ。
少し離れた場所から、一人の女性がこちらを見ていた。ダークトーンのコートに、ストレートのアッシュグレーの髪。柊レイナだった。
視線が合うと、彼女はすぐに目を逸らした。そのまま踵を返し、足早に基地の奥へ消えていく。
去り際、彼女の指先がわずかに震えていたように見えたのは、気のせいだろうか。




