#6「大型依頼、来る」2
受付嬢の顔から血の気が引き、アマネは額に汗を浮かべて肩を強張らせる。カサネは歯を食いしばっていた。
「この部屋、冷房強くないですか」
俺が言うと、レイナの眉が、ほんの一ミリだけ動いた。
「……そうね。失礼したわ」
空気が元に戻る。アマネが大きく息を吐いた。
『主様。この方が、昨日の視線の主です』
「ああ、お前が言ってたやつか」
『…………』
シュエットは何か言いかけて、やめた。
*
ギルドの廊下を歩きながら、レイナは自分の掌を見つめた。
魔力圧を六割まで上げた。Bランクなら膝をつく強度だ。姉妹は耐えたが、震えていた。当然の反応だ。
あの男は、欠伸をかみ殺していた。
鈍いのか。それとも。
結論が出ない。予測が立たないものは、苦手だった。頭の中で、撤退ルートが三十七通り組み上がっていく。
あの子たちを、絶対に傷つけさせない。万一のときは、私が盾になる。
胸の内でそう決めて、レイナはコートの襟を正した。誰も、彼女の指先がまだ微かに震えていることに気づかなかった。
*
その夜、食卓には肉じゃがが並んだ。
「推奨はSランク四名以上。過去の撤退記録は三件。熱線の射程は約八十メートル。結界で受けるなら、最低でも二重展開が必要ね」
カサネが、ドレイクの資料を読み上げる。箸が止まっていた。
「ねえ、カサネ。私たち、足引っ張らないかな」
アマネが、珍しく声を落とした。いつもの勢いはどこにもない。大剣のケースが、部屋の隅に立てかけられたまま、動く気配がなかった。
俺は肉じゃがのじゃがいもを箸で割りながら、答えた。
「大丈夫だ。お前らならやれる」
「なんで断言できるの」
「兄だからな」
アマネが目を丸くした。カサネが小さく鼻を鳴らす。
「根拠がないわね」
「ない」
「……でも、そう言われると、少し落ち着くわ」
カサネがうつむいて、カバンの端に手を伸ばす。以前渡したタオルが、ジップロックに入っているのがちらりと見えた。見なかったことにした。
「よし! 明日から特訓する! 私、今度こそ自分の力で『覚醒』してみせる!」
「それは前も言ってたでしょ」
「今度はほんとに!」
二人の声が、少しずつ、いつもの調子に戻っていく。
夜、ベランダで夜風に当たっていると、シュエットが肩に降りてきた。
『主様。ドレイクを、食材として見ていらっしゃいませんか』
「焼き肉にしたら妹たち喜ぶかなって」
『…………主様。Sランクボスです』
「知ってる」
『人類は、六名で撤退しております』
「六人もいてか。大変だったろうな」
シュエットは長い沈黙のあと、小さく電子音を鳴らした。
『……主様の平穏な裏方生活は、明日から少しだけ、お忙しくなりそうです』
夜空を見上げる。星が、やけに綺麗だった。




