#6「大型依頼、来る」1
翌朝のギルド会議室は、やけに天井が高かった。
長机の向こうで、受付嬢が資料を広げている。いつもの愛想のいい笑顔が、今日は少し硬い。
「依頼内容を説明します。場所は『灰燼の大空洞』。通常はBランク域ですが、先週、最奥にイレギュラー個体が確認されました。個体名は、ヴォルケイノ・ドレイク」
資料の写真には、溶岩のような鱗に覆われた飛竜が写っていた。
「討伐推奨ランクはSランク四名以上。先日、Aランク六名のパーティが撤退しています」
「え、えす……えす……」
アマネの語彙が崩壊した。カサネは無言で、ペンを握り直している。
「ご安心ください。討伐の主力は別の方が務めます。皆さんの役目は、その戦闘の公式中継です。ギルドとしても配信を活用した広報を試みたいそうで、映像品質で評判のあなたたちに白羽の矢が立ちました」
「中継……私たちが、Sランクの戦闘を?」
「はい。ギルドマスターの署名入りの正式依頼です」
差し出された依頼書の末尾には、確かに達筆な署名があった。
俺は写真の飛竜を眺める。ヴォルケイノ・ドレイク。懐かしい。深層では三日に一度、食卓に上がっていた。焼くと脂が甘い。竜の中でも下っ端の部類で、Sランクと呼ばれているのが少し不思議なくらいだ。
『主様。よだれが』
「出てない」
小声で釘を刺したところで、会議室の扉が開いた。
入ってきた女性を見て、アマネが椅子から転げ落ちそうになった。
「ひ、柊レイナ!? 『一点貫通』の!?」
青みがかった艶のあるアッシュグレーの髪が、ストレートのまま背中に流れている。切れ長のアイスブルーの瞳は、部屋の全員を一度ずつ、確かめるように撫でていった。ダークトーンのロングコートに装飾はなく、機能だけを突き詰めた作りなのに、姿勢の良さが際立つ。腰には銀白色の細い剣。護拳に埋まった青い結晶が、冷たく光っていた。
「柊レイナ。今回の討伐を担当するわ」
声に抑揚がない。アマネは口をぱくぱくさせ、カサネは目だけで彼女の装備を観察している。
「前衛は私が務める。あなたたちは私の三十メートル後方、結界の外には出ないこと。危険と判断したら即時撤退。異論は認めない」
「了解。……撤退の判断基準は?」
「私が決める」
カサネが言葉を飲み込んだ。理詰めの妹が、理由を求めても通じない相手に初めて会ったらしい。
レイナの視線が、俺に移る。
「あなたは?」
「荷物持ち兼カメラマンのクロウです」
「カメラマン。ドローンは自動追尾と聞いているけれど」
「古いモデルを弄っただけで。俺は補助です」
「……そう」
レイナの目が、わずかに細くなった。
その瞬間、部屋の温度が下がった気がした。
いや、違う。これは温度ではない。魔力の圧だ。肌を刺すような重圧が、じわりと会議室を満たしていく。




