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第八話 ナコム


 二度目の戦は、俺が段取りを決めた。

 正確に言うと、ナチャン・カンが俺に聞いた。浜がどうなっているか。潮がどう動くか。舟をどこに着けるか。

 俺は答えた。前より言葉が増えていたから、指を差さなくてもよくなっていた。

 三度目の戦は、敵が来た。

 チェトゥマルの浜に舟が見えた時、俺はナチャン・カンの隣にいた。荷の小屋ではなく、戦士たちの間に立っていた。

 棍棒は、前より少し良いものを渡された。石の括り方が丁寧で、柄が手に合う。

 勝った。

 四度目も勝った。

 五度目は、負けた。

 負けた日のことのほうが覚えている。退く時に、脚に矢を受けた。石の矢じりだ。入ったまま走った。走れることに驚いた。

 帰ってから抜いた。女が一人、傷口に何か塗った。黒い、べたべたしたものだ。臭い。だが膿まなかった。

 傷が治った頃、ナチャン・カンに呼ばれた。

 呼ばれるのは初めてではない。だが今日は周りに人がいた。部下が十人ほど、半円に並んでいる。

 ナチャン・カンは、短い言葉を言った。

 全部分かった。だが、信じなかった。

 ナコム。

 戦の長。戦の段取りを決め、戦士を率いる者。

 それを、俺にやれと言っている。

 俺は、荷だ。クチだ。三年前に裸で浜に転がっていたものだ。

 周りの男たちの顔を見た。反対する顔はなかった。少なくとも、俺が読める範囲では。

 俺はうなずいた。

 ——うなずいてから、少し怖くなった。戦のことが怖いのではない。戻れなくなることが怖かった。

 三日後、彫り師が来た。

 痛いぞ、と誰かが言った。笑っていた。

 嘘ではなかった。

 木の棒の先に、魚の骨を束ねたものがついている。それに墨をつけて、肌を叩く。叩くたびに、骨の先が肌に入る。墨が入る。

 腕から始まった。

 痛い。

 これは、殴られる痛さとは違う。殴られるのは一瞬で、あとは鈍く残る。こちらは、一定の痛みがずっと続く。途切れない。波が繰り返すように、叩いて、叩いて、叩く。

 彫っているのは蛇だった。腕を巻くように、肘から手首まで。

 翌日も続いた。

 今度は胸だ。肋骨の上は痛みが骨まで響く。

 三日目は背中。自分では見えない。何を彫られているのか、分からないまま歯を噛んでいた。後で聞いたら、鳥だという。

 四日目に、顔にきた。

 顎から頬にかけて、線が入った。

 ここが一番痛い。涙が出る。泣いているのではない。目が勝手に反応する。

 涙を流しながら、俺は考えていた。

 グラナダの門が開いた日のことを考えていた。

 あの時の俺には何もなかった。剣と、服と、靴。名前と、生まれた港。

 靴は、ダリエンで破れた。服は、ノンブレ・デ・ディオスで捨てた。剣は、最初から持っていなかった。名前は、コンサロと少し形が変わった。

 今、肌の色が変わっている。

 これを消す方法はない。消す方法がないものを体に入れるというのは、そういうことだ。

 パロスの港を歩けない。グラナダの門をくぐれない。教会に入れない。スペインの、どんな町にも、この顔では立てない。

 ——コロンは、鎖を外さなかった。

 外せるのに、外さなかった。

 俺は、外せないものを彫り込んでいる。

 どちらが正気だろうな。

 五日目に、耳だ。

 耳たぶに穴を開けた。尖った骨を押し込んで、貫通させる。血が首を伝った。穴に木の棒を通して、広げたままにする。

 六日目に、下唇。

 ここは耳よりも痛い。腫れた。三日ほど飯が食えなかった。

 全部が治るのに、半月かかった。

 治った日、水を見に行った。

 海だ。波打ち際に膝をついて、覗き込んだ。

 知らない男がいた。

 黒い線が顔を走っている。耳に穴が空いている。唇に石がはまっている。肌は陽に焼けて、彫り物の上から赤黒くなっている。

 パロスの母親が見たら、息子だとは思わないだろう。

 俺は笑った。

 水の中の男も笑った。ひどい顔だ。

 悪くなかった。

 小屋に戻ると、アギラールが俺を見た。

 長いこと見ていた。

 それから、目をそらした。

 何か言いたかったのだろう。言わなかった。

 あいつの本は、もう印をつける場所がほとんど残っていなかった。

 俺は、数えていない。

 この土地に来て何年になるか、もう数えていない。

 ——数えなくなった日に、俺はここの人間になったのだと思う。

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