第五話 檻
やはり、助ける相談ではなかった。
縛られた。腕を後ろで括られて、八人ひと繋ぎにされて、歩かされた。
立てない。十三日座っていた脚が、まだ言うことを聞かない。転んだ。引き起こされた。また転んだ。また引き起こされた。殴られなかったのは、壊したくなかったからだと後で分かった。
森を抜けた。
道があった。
踏み固めた道ではない。造ってある道だ。平らな石を並べて、白く塗ってある。
俺は立ち止まった。引かれて、また歩いた。
だが見た。
町があった。石だ。
切った石を積んで、段にして、上に建物を載せてある。壁に色がついている。赤が多い。段の天辺は、首を反らさないと見えない高さだった。
ダリエンで俺たちが建てたものを思い出した。柵と、泥と、屋根代わりの葉。
どちらが野蛮か、という話をする気はない。ただ、聞いていた話とは違った。
檻に入れられた。
木を組んだ、しっかりした檻だ。隙間から外が見える。外からも、見える。
飯が出た。
これが、よく出た。魚と、練った粉のようなものと、豆。朝と夕に出る。量が多い。
俺たちは食った。十三日ぶりの飯だ。むさぼった。誰かが泣いていた。俺も泣いたかもしれない。
三日目に、一人が気づいた。
「太らせてるんじゃないか」
誰も返事をしなかった。
返事はしなかったが、その日の夕方の飯を、一人だけ残した奴がいた。翌朝、結局食っていた。
五日目の朝、五人が連れ出された。
船長が入っていた。
あの船長だ。水を減らして近道を選んだ男。漂流十日目の夜に短刀を出した男。
目が合った。何も言わなかった。俺も何も言わなかった。
昼過ぎに、五人が石段を上っていくのが、檻の隙間から見えた。
全員、青く塗られていた。
きれいな青だった。空より濃くて、海より明るい。どこから採ってくる色なのか、俺は知らない。
段の上に、平らな石がある。
四人がかりで一人を仰向けに押さえた。腕を二人、脚を二人。慣れている。何度もやっている手つきだ。
石の刃を持った男が、胸を開けた。
早かった。俺は豚を捌く男を何人も見てきたが、あれと同じ早さだ。手を入れて、心の臓を抜いて、高く掲げた。
動いていた。
掲げた手の中で、まだ動いていた。
体は段の下へ落とされた。転がり落ちてくるのを、下で待っていた連中が受け取る。
そこからは、仕事だった。
関節で外す。分ける。手と足は上へ運んでいった。残りは下に配られた。
五人分を、日が傾く前に片づけた。
笛と太鼓は、その間ずっと鳴っていた。悪くない音だった。
夜、匂いがした。
焼いている匂いだ。町じゅうでしていた。
腹が立たなかった、と言えば嘘になる。
だが——漂流十日目の夜のことを、俺は忘れていない。
あの船長が短刀で切った。俺が受け取った。俺が食った。
あの時、笛は鳴らなかった。祈りもなかった。青く塗りもしなかった。
俺たちは暗い舟の上で、黙って、生のまま食った。
どちらがましか、という話を、俺はしない。
残ったのは三人だ。俺と、アギラールという男と、もう一人。
次はいつか。その話は誰もしなかった。
だが全員が、出される飯の量を見ていた。増えたら、近い。
アギラールは坊主くずれだった。叙階の全部を済ませる前に海に出た口で、だが本人は自分を坊主だと思っている。
飯の前に、毎回何か唱えた。長い。俺は先に食った。
こいつは本を一冊持っていた。海で濡れて膨らんで、頁の半分がくっついている。
その本に、毎日、爪で印をつけていた。
「今日が何の日か、分からなくなると困る」
困るのか。俺は別に困らない。
だがこの男は、太らされている檻の中で、日を数えている。
俺はこいつが少し嫌いになった。それから、少し好きになった。
逃げたのは、九日目の夜だ。
檻の木が、下のほうで一本、腐っていた。
アギラールが見つけた。日を数える男は、細かいところをよく見る。
三人で抜いた。音を立てないように、ゆっくり引いた。虫に食われた木は、乾いた匂いがした。
穴は、一人がやっと通れる大きさだった。
森に入った。
道を使えば捕まる。道を使わなければ進まない。道を使わなかった。
水はある。食い物はない。虫はいる。
どこへ向かっているのか、誰にも分からなかった。
四日目に、別の連中に見つかった。
逃げる力は残っていない。俺たちは立って待った。立って待つことだけは、もう慣れていた。
殺されなかった。
檻にも入れられなかった。
その代わり、荷を運ばされた。水を汲まされた。薪を割らされた。
朝から晩まで働いて、夜は屋根の下で寝られる。飯も出る。前のように多くはない。普通の量だ。
つまり、そういう扱いになった。
連れて行かれた先の主人は、アー・キン・クッツといった。
その名を覚えるのは、ずっと後のことだ。
一年で、もう一人が死んだ。熱を出して、三日で死んだ。この土地の熱は、人を選ばない。
残ったのは二人だ。
俺と、まだ日を数えている男。
最初に覚えた言葉は、クチという。
荷、という意味だ。運べ、という意味でもある。
朝から晩まで言われるから、嫌でも覚える。
覚えたら、殴られる回数が減った。
——それが分かってから、俺は少し、真面目に聞くようになった。




