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第三十三話 マタキート


 トゥカペルの後、止まらなかった。

 マリウェニュで迎撃した。バルディビアの後任が兵を集めて来た。来た先が湿地だった。同じことをやった。同じように倒した。

 コンセプシオンを攻めた。

 バルディビアが造った町だ。壁がある。教会がある。広場がある。

 あった。

 焼いた。

 住んでいた白い肌の連中は逃げた。海に向かって逃げた。船で逃げた。

 町が空になった。

 カウポリカンと二人で、焼け跡の広場に立った。

 「この町はもう要るか」

 カウポリカンが聞いた。

 「要らない。壊せ」

 壊した。石を崩して、木を抜いて、更地に戻した。

 白い肌の連中が戻ってきて、また建てた。

 また壊した。

 三度目は建てなかった。

 ——勝っている。

 勝ち続けている。

 トゥカペル。マリウェニュ。コンセプシオン。三つ勝った。

 マプチェの戦士たちの目が変わっていた。トゥカペルの前は怖がっていた。馬を怖がっていた。煙の棒を怖がっていた。

 怖がらなくなった。

 長槍を構えて、湿地に誘い込めば、馬は止まる。止まった馬は獣だ。獣は倒せる。

 兵が増えている。勝つたびに増える。南の部族が加わり、東の山から降りてきた者が加わり、一万を超えた。

 北へ行く。

 サンティアゴだ。

 白い肌の連中の本拠地。ここを落とせば、あいつらはこの土地に足場を失う。海に押し戻せる。

 カウポリカンは南に残った。南の砦をすべて潰してから合流する。

 俺は北へ向かった。

 兵を率いて、川を越え、谷を越え、山を越えた。

 ——この頃、俺は少し変わっていた。

 何が変わったかは、うまく言えない。

 トゥカペルで棍棒を振り下ろした時の感覚が、戻ってこない。あの時、何も感じなかった。終わった、と思った。

 終わったはずだ。

 だが終わっていない。

 バルディビアは死んだ。だがバルディビアの後に、別の男が来た。その男を倒しても、また来る。

 コンセプシオンを壊しても、また建てる。

 俺が潮の話をしていたら、たぶん、こう言うだろう。止められない潮がある、と。

 俺は潮の話をしない。俺は森の人間だ。

 だが分かっている。

 あいつらは止まらない。何人倒しても来る。来るたびに数が増える。

 ——それでも、北へ行く。

 サンティアゴを落とせば変わる。本拠地を失えば、あいつらは帰る場所を失う。海の向こうに帰るしかなくなる。

 そう信じている。信じているから走っている。

 プレーン川のほとりに陣を敷いた。

 マタキートという場所だ。サンティアゴまでもう少しだ。

 疲れている。

 兵が疲れている。俺も疲れている。北へ来すぎた。ここは俺たちの森ではない。乾いている。木が少ない。湿地がない。

 湿地がない場所で、馬とどう戦うか。

 考えている。答えが出ない。

 ——夜、眠れなかった。

 焚き火の横で、空を見ていた。星が遠い。南の山では星が近かった。ここでは遠い。

 父の顔を思い出していた。「でかくなったな」と言った顔だ。

 サンティアゴを落としたら、父のところに帰る。そう思った。

 帰ったら、何をする。

 何もしない。森を走る。川で魚を獲る。

 そういうことがしたかったのかもしれない。

 一五五七年、四月二十九日。

 夜明け前。

 目が覚めた。

 音がした。

 馬の蹄の音だ。

 多い。

 ——来た。

 起き上がった。叫んだ。

 遅かった。

 陣の中に馬が突っ込んできた。

 夜明け前。暗い。見えない。見えないまま蹄の音が来る。

 奇襲だ。

 こちらが寝ているところを襲われた。俺がトゥカペルでやったことを、やり返された。

 クリスマスの朝に酒の残った顔を叩いた俺が、夜明け前の寝起きを叩かれている。

 槍を取った。

 構えた。だが暗い。どこから来ているか分からない。

 蹄の音があちこちからする。叫び声がする。鉄の音がする。

 火が見えた。松明だ。松明を持った馬が走っている。

 明るくなった部分だけが見える。見える範囲に、倒れている味方がいる。

 走った。

 松明のほうへ走った。

 ——走っている途中で、何かが当たった。

 矢だ。

 首に当たった。

 熱い。

 脚が止まった。止めたのではない。止まった。

 膝をついた。

 地面が近い。地面に手をついた。

 土だ。乾いた土だ。南の土ではない。

 もう一本来た。

 背中だ。

 倒れた。

 空が見えた。まだ暗い。星はない。雲が出ている。

 ——俺は二十三だ。

 十一で捕まった。十七で逃げた。十九でトキになった。二十でバルディビアを殺した。

 二十三で、ここにいる。

 この土の上にいる。

 サンティアゴは見えない。まだ遠い。

 届かなかった。

 マンコの輪投げのことは知らない。外れた輪のことは知らない。

 だが届かなかった、という感覚は、同じだろう。

 ——だが。

 俺は一つだけ知っていることがある。

 俺が教えた長槍を、カウポリカンが持っている。

 俺が教えた湿地の戦法を、南の戦士たちが覚えている。

 俺が教えた馬の倒し方を、次の世代が覚える。

 馬は獣だ。獣には勝てる。

 このことを、俺は渡した。

 糞を掻いた手で、獣の乗り方を盗んだ手で、棍棒を振った手で、渡した。

 俺が死んでも、渡したものは残る。

 残る。

 ——三百年、残った。

 マプチェはスペインに征服されなかった。

 独立を保った。三百年。

 レフトラルが渡したものが、三百年分の戦士の手に残り続けた。

 俺はそのことを知らない。

 知らないが、渡したことだけは知っている。

 渡した。

 それだけで、十分だ。

          第四巻 了

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