第二十七話 ビルカバンバ
山の奥に都を造った。
ビルカバンバという。
白い肌の連中が知らない場所だ。谷が深く、道が狭く、雲が低い。雨が多く、木が密で、日が差しても地面まで届かない。
クスコとは違う。
クスコは乾いていて高い。空が近い。石が光る。
ビルカバンバは湿っていて暗い。石は苔に覆われる。鉄は錆びる。服は乾かない。
だが馬が来ない。
馬が来ない場所が、今の我には必要だった。
石を積んだ。壁を建てた。神殿を造った。太陽の像を安置した。
小さな都だ。クスコとは比べものにならない。だが我の都だ。
マスカパイチャを新しく作り直した。赤い糸を編んで、額に巻いた。
我はここで王になり直した。
誰の許しもなく。横に誰も立たせず。
民が集まった。クスコから逃げてきた者。山の村から降りてきた者。アタワルパの残党で行き場を失った者までいた。
一万。それが我の国の人口だ。
小さい。だが生きている。
白い肌の連中は何度か攻めてきた。
谷に兵を送り込んできた。馬を連れてきた。
谷の入り口で待った。
道が狭い。馬が並べない。一列になって入ってくるところを、上から石を落とした。
退いていった。
また来た。また退かせた。
三度目の後、来なくなった。
白い肌の連中には、もっと大きな問題ができていたのだ。
自分たちで殺し合い始めた。
ピサロとアルマグロが争った。アルマグロが負けて殺された。アルマグロの息子が怒って、フランシスコ・ピサロを殺した。
フランシスコ・ピサロが死んだ。
あの男が死んだ。
我を王にし、我に鎖をかけさせ、我の都を奪った男が、自分の仲間に殺された。
報せを聞いて、我は何も感じなかった。
フアンの時と同じだ。空だ。
もう怒りは空になっている。空になったところに、別のものが入っている。
ビルカバンバの朝の霧。子供の声。畑の芋。
我はここで暮らしている。
年を経るごとに、恐れが薄くなっていった。
恐れが武器だと言った。あの言葉はまだ正しい。だが武器を置く日もある。
子が育っている。
ティトゥ・クシという。我と妻の子だ。
クラ・オクリョは、ビルカバンバに来てから少しずつ声が戻った。全部は戻らなかった。だが子を抱く腕は強い。
ティトゥ・クシは走り回っている。六つか七つか。よく転ぶ。転んでも泣かない。
この子はクスコを知らない。白い肌の連中を見たことがない。鎖も蝋燭も知らない。
それでいい。知らなくていい。
——七人のスペイン人が来た。
ピサロを殺した側の残党だ。負けた側の人間が、行き場を失って山に入ってきた。
殺すべきだ、と家臣が言った。
我は迷った。
白い肌の男が七人。武器を持っている。剣と、鎧と、わずかな火薬。
だがこの七人は、ピサロを殺した男たちだ。
ピサロを殺した者は、我の仇を半分討ったことになる。
それに、この七人を殺しても、何も変わらない。殺さなくても、何も変わらない。
我は受け入れた。
住む場所を与えた。食い物を与えた。
七人はビルカバンバに住み着いた。
奇妙な暮らしだった。
我の宮殿から少し離れた場所に、白い肌の男が七人、住んでいる。畑を耕している。鶏を飼っている。我の民と、言葉が半分だけ通じる会話をしている。
ある日、七人のうちの一人が、庭で何かをしていた。
鉄の輪を投げている。地面に棒を立てて、離れた場所から輪を投げて、棒に入れようとしている。
何度も外している。外すと笑う。入ると声を上げる。
我は見ていた。
見ていたら、誘われた。
投げてみろ、という手振りだ。
我は鉄の輪を受け取った。
重い。冷たい。
棒に向かって投げた。外れた。
もう一度投げた。また外れた。
三度目に、棒に当たった。入らなかったが、当たった。
白い肌の男が声を上げた。我も声を上げた。
——笑っていた。
我は笑っていた。
演じていない笑いだった。
丁寧でもなく、冷たくもなく、何も隠していない笑いが、口から出ていた。
蝋を垂らされた顔で。小便をかけられた顔で。鎖の跡が残った手首で。
輪を投げて、笑っていた。
それから何度か、輪投げをした。昼過ぎに、庭で。七人と我と、時々、家臣も混ざった。
勝ったり負けたり。負けると悔しい。勝つと嬉しい。それだけの遊びだ。
恐れを忘れている。
恐れを忘れている時間があることを、我は知らなかった。
一五四四年。
その日も庭にいた。
輪投げをしていた。
七人のうちの三人が、我の近くにいた。
輪を投げた。外れた。笑った。振り返った。
刃が見えた。
腹に入った。
熱い。
もう一本、入った。背中だ。
膝をついた。
庭の土に手をついた。手首の鎖の跡が見えた。
顔を上げた。
刺した男の顔を見た。知っている顔だ。昨日も輪を投げた男だ。
なぜ、とは思わなかった。
恐れていなかったからだ。
恐れることが武器だと、我は言った。
恐れを忘れた日に、刺された。
——戸口に、子が立っていた。
ティトゥ・クシ。
走ってこようとした。家臣が抱きとめた。
子の顔が見えた。
泣いていた。声を上げて泣いていた。
この子に渡すものがある。
マスカパイチャ。ビルカバンバ。チャスキが走る道。石を積んだ壁。
小さい国だ。だが国だ。
我はこの国を渡す。
渡す先は、あの戸口に立っている子だ。
渡せたのかどうか、我にはもう分からない。
分からないまま、庭の土を見ている。
土の上に、鉄の輪が転がっている。
さっき投げた輪だ。棒には入っていない。
外れたまま、転がっている。




