第二十六話 サクサイワマン
エルナンドが戻ってきた。
フランシスコに呼ばれてリマに行っていた男が、クスコに帰ってきた。
我の鎖を外した。
外した理由は、弟たちの扱いが酷すぎると判断したからだ。我を壊しては使えなくなる。エルナンドはその程度の計算ができる男だ。
鎖が外れた日、我は手首を見た。
鉄の跡が残っている。赤黒い筋が、手首をぐるりと回っている。
消えるかどうかは分からない。消えなくてもいい。覚えておく印だ。
我は再び演じ始めた。
丁寧に話した。贈り物を出した。エルナンドの前で笑い、フアンの前で頭を下げ、ゴンサロの前でも穏やかな顔を保った。
ゴンサロの前で穏やかでいることは、今の我にできる最も難しい演技だ。
妻は食い物を少しずつ口にするようになっていた。声は戻らない。
演じながら、数え続けていた。
兵は、いる。
鎖の中で数えていた通りだ。クスコの周りの山に、我に従う者がまだいる。チャスキを走らせれば集まる。
問題は、出る口実だ。
クスコを出なければ兵は集められない。だが出れば、逃げたと分かる。前の二の舞だ。馬が来る。
口実が要る。馬が来る前に消える口実が。
——ある日、エルナンドの前でこう言った。
「ユカイの谷に、父の像がある」
金の像だ。等身大の。父ワイナ・カパックの姿を金で鋳たもので、戦の後に隠させた。
「取ってきてお渡ししたい」
嘘ではない。像は実在する。どこにあるかも知っている。
だが取ってきて渡す気はない。
エルナンドの目が動いた。
金。等身大の金の像。
この連中の目が変わる瞬間を、我はもう何度も見ている。
「行ってこい」
エルナンドが言った。
部下を何人かつけると言った。我は断った。丁寧に断った。
「部下がいると、隠した者たちが怯えて出さない。我一人で行かせてほしい」
エルナンドは迷った。
だが金の像は大きい。等身大の金を前にして、迷いは長くは続かない。
一五三六年四月十八日。
我はクスコを出た。
従者が数人ついてきた。南門から出て、谷に向かって歩いた。
振り返らなかった。
振り返れば、もう一度あの石の壁が見える。コリカンチャの屋根が見える。我が鎖をかけられた部屋の窓が見える。
見る必要はない。全部覚えている。
蝋の匂いも。小便の温度も。妻の沈黙も。
谷に入った。道を外れた。山に向かった。
馬が通れない道を選んだ。数えていた道だ。
狭い。石が多い。リャマがやっと通れる幅しかない。
ここなら追えない。
半日歩いて、最初の村に着いた。
村長が出てきた。我の顔を見て、膝をついた。
マスカパイチャはない。あれはクスコに置いてきた。だが額がなくても、我の顔を知っている者はいる。
「兵を集めろ。走れる者は全員集めろ」
我は言った。
丁寧ではなく、言った。
初めてだ。王になってから、丁寧でない声を出したのは。
声が震えた。怒りで震えたのか、恐怖で震えたのか、分からなかった。
チャスキが走った。
我の声が道を走った。山の村から村へ。谷の町から町へ。
集まってきた。
一日目に、千人。三日目に、五千。七日目に、一万を超えた。
山の上に立って、下を見た。
谷を人が埋めている。槍を持った者。投石紐を持った者。石の棍棒を持った者。
十日目に、数えるのをやめた。
数えるまでもない。見渡す限り、人がいた。
後に聞いた数では、十万とも二十万とも。
二十万だ。
鎖の中で、我はこの数を夢に見ていた。
夢ではなかった。
——一五三六年五月六日。クスコを囲んだ。
三方から入った。
東の山腹から。南の谷から。北の丘から。
北の丘には、サクサイワマンがある。
石の砦だ。三段の壁が、ぎざぎざに積み上げてある。一つの石が人の背丈より大きい。この壁を父の祖父が築いた。
白い肌の連中がここに立て籠もっている。五十人ほど。
我は丘の下に立って、壁を見上げた。
あの壁は我のものだ。我の先祖が積んだ石だ。
取り返す。
火矢を放った。
クスコの屋根は藁だ。白い肌の連中が住み着いた家も、屋根は藁のままだ。
燃えた。
都のあちこちから煙が上がった。我が生まれた都が、我の命令で燃えている。
構わない。燃やす。石は燃えない。石だけ残ればいい。壁があれば、また建てられる。
サクサイワマンの攻防は、七日続いた。
一段目の壁を取った。石を投げ、縄を投げ、梯子をかけた。上から石が落ちてくる。矢が来る。落ちる者がいる。だが上る者のほうが多い。
何しろ、二十万いる。
二段目の壁を取った。
白い肌の連中が馬で突っ込んできた。壁と壁の間の狭い地面で、馬が暴れた。
狭い。
狭ければ馬は動けない。山道と同じだ。数えていた通りだ。
槍で突いた。馬が倒れた。乗っていた男が落ちた。鉄の服ごと地面に叩きつけられた。
フアンが、落ちた。
石が当たった。頭に当たった。兜をしていたが、兜の隙間に入った。
倒れた。担がれて退いていった。
——後で死んだと聞いた。
蝋を垂らした男だ。小便をかけた男だ。
我は覚えていた。手の形も。足の開き方も。笑い声の高さも。
全部覚えていた。
だが石が当たった時、我が感じたものは、思っていたものとは違った。
何も感じなかった。
空だった。
三段目の壁は取れなかった。
白い肌の連中が夜に逆襲してきた。暗闇の中で、梯子が壊された。壁の上にいた我の兵が切り落とされた。
夜明けに見たら、壁の根元に死体が積まれていた。
我の兵だ。
取り返した。また取られた。また取り返した。
七日で、サクサイワマンは落ちなかった。
だがクスコは燃え続けている。
白い肌の連中は宮殿に閉じ込められている。水が足りない。食い物が足りない。
包囲を続ける。時間は我にある。
二十万が囲んでいる。向こうは二百を切っている。
時間は、我にある——はずだった。
雨期が終わっていた。
二十万の兵は、畑のある男たちだ。
種を蒔く時期が来ていた。
蒔かなければ、秋に穫れない。穫れなければ、冬に飢える。
帰り始めた。
止められなかった。
命じれば残る。だが命じて残した男の畑は荒れる。畑が荒れれば家族が飢える。
王は兵に死ねとは言える。だが兵の家族を飢えさせる権利は、持っていない。
十万が帰った。
また十万の半分が帰った。
包囲が薄くなっていく。
その隙間から、リマからの援軍が入った。
我は退いた。
サクサイワマンは取れなかった。クスコは取り返せなかった。十ヶ月囲んで、取り返せなかった。
二十万いた。煙の棒も馬も大砲も、二十万の前では止まった。
だが畑が呼んだ。種蒔きが呼んだ。
我は、畑に負けた。
——山に入った。
今度は隠れるためではない。
ビルカバンバ。
山の奥の、白い肌の連中が知らない場所に、我は新しい都を造る。
負けたが、滅んではいない。
鎖の跡はまだ手首にある。蝋の跡はまだ額に残っている。
覚えている。全部覚えている。
覚えている限り、我は終わらない。




