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第二十五話 クスコ


 王を演じるのは、思ったより簡単だった。

 民の前に出る。額のマスカパイチャを見せる。声を出す。命じる。

 民は従う。

 道を走る声が、我の声に変わった。チャスキが我の言葉を運んでいる。倉が動いている。兵が集まっている。

 アタワルパの将軍キスキスの軍を討つためだ。白い肌の連中と我の兵が、共に北へ向かった。

 キスキスは敗れた。

 我の声と、白い肌の連中の馬が、勝った。

 ——ここまでは、よかった。

 フランシスコ・ピサロが、クスコを離れた。

 海岸に新しい都を造るのだという。リマ。我の都ではなく、白い肌の連中の都を、別の場所に造る。

 ピサロは弟たちをクスコに残した。

 エルナンド。フアン。ゴンサロ。

 三人の弟だ。

 フランシスコは量る男だった。弟たちは量らない。取る男たちだった。

 最初は、金を取った。

 コリカンチャに入ってきた。太陽の神殿だ。壁にまだ残っていた銀の板を剥がした。祭壇の裏に隠してあった太陽の面を見つけて、持ち出した。

 父の父の時代から、あの壁に掛かっていたものだ。

 「これは要るか」

 エルナンドが聞いた。

 「どうぞ。お使いください」

 我は言った。丁寧に言った。

 次に、家を取った。

 クスコの貴族の家を、白い肌の連中が分け合った。この家は俺のもの、こちらは俺のもの。持ち主が中にいても構わない。出ろと言って、出させた。

 出なかった老人がいた。父の代から仕えた者だ。フアンの部下が引きずり出した。引きずる時に、腕をねじった。骨が折れる音がした。

 老人は叫ばなかった。叫ばなかったのは、我が見ていたからだ。王の前で叫ぶ声を上げてはならない。

 我は見ていた。

 丁寧に笑って、見ていた。

 次に、金を出せと言ってきた。

 もっと金があるはずだ。どこかに隠してあるはずだ。出せ。

 ない。もうない。アタワルパの身代金で、大半は溶かされた。残りはフランシスコが持っていった。

 ないと言ったら、殴られた。

 エルナンドの部下が、我の従者を殴った。我を殴ったのではない。我の目の前で、我の従者を殴った。

 お前の主人に聞け。金はどこだ。

 従者は倒れた。口から血を出して、我を見た。

 助けてくれ、という目ではない。

 どうか見ないでくれ、という目だった。

 我は見ていた。

 次に、女を取った。

 ゴンサロが我の正妻クラ・オクリョを連れ出した。

 夜だった。

 兵が四人来た。宮殿の奥の、妻の部屋に入った。我は隣の部屋にいた。壁一枚の向こうだ。

 妻の声が聞こえた。

 声、というのは正確ではない。声を上げなかった。声を上げなかったから、別のものが聞こえた。布が引かれる音。足が床を擦る音。それから、何も聞こえなくなった。

 連れ出された。

 我は壁の前に立っていた。鎖はまだかけられていない。剣もある。走って出れば、間に合ったかもしれない。

 間に合って、どうする。

 四人を斬る。ゴンサロが来る。兵が来る。馬が来る。我が死ぬ。妻も死ぬ。

 我は壁の前に立っていた。

 立ったまま、朝まで立っていた。

 翌朝、妻が戻された。

 歩いて入ってきた。我の顔を見て、立ち止まった。

 何も言わなかった。我も何も言わなかった。

 この沈黙を指す言葉が、ケチュア語にはあるのかもしれない。我は知らない。知っていても声にはできない。

 その日、ゴンサロに会った。

 「お変わりありませんか」

 我は言った。丁寧に。微笑みまで作った。

 ゴンサロは笑った。我の笑いとは違う種類の笑いだった。隠す必要のない人間の笑いだった。

 ——殺したい。

 この男の首を掴んで、石の壁に押しつけて、頭の形が変わるまで叩きつけたい。

 顔は動かさない。額のマスカパイチャは揺れない。

 王を演じる。

 二度目があった。

 三度目があった。

 四度目の夜は、我はもう壁の前に立たなかった。部屋の隅に座って、目を閉じて、数を数えていた。

 五度目はなかった。妻が病んだからだ。

 病んだのか、壊れたのか。我には分からない。

 クラ・オクリョは食い物を口にしなくなった。水だけ飲んで、横になっている。声をかけると目を開けるが、返事をしない。

 この女は、我の前では強い女だった。我より先に怒り、我より先に泣き、我より先に笑った。

 その女が横になって、返事をしない。

 逃げようとした。

 夜、従者と二人で南の門から出た。走った。

 追いつかれた。

 馬は速い。人の脚では馬に勝てない。

 連れ戻された。

 鎖をかけられた。

 手に鎖。足に鎖。太い鉄の鎖で、動くたびに鳴る。歩けるが、走れない。立てるが、座りにくい。寝ると鎖が体の下に入って、冷たい。

 暗い部屋に入れられた。窓が一つ。高い位置にあって、手が届かない。外の光が少しだけ入る。

 フアンが来た。

 蝋燭を持っていた。

 我の顔の上に、蝋を垂らした。

 熱い。

 額に落ちた。頬に流れた。固まった。また落ちた。

 目を閉じた。目に入ったら見えなくなる。

 フアンは笑っている。何か言っている。我の知らない言葉で、何か面白いことを言っているらしい。後ろにいる兵が笑っている。

 我は黙っていた。

 黙って、蝋が固まるのを待った。

 固まると痛みが消える。次が来る。また熱い。また固まる。

 フアンが飽きて出ていった。

 暗い部屋で、我の顔に蝋が張り付いている。剥がそうとしたが、鎖で手がうまく動かない。

 爪で少しずつ削った。蝋の下の肌が赤くなっている。水疱ができている。

 額のマスカパイチャは外されていた。連れ戻された時に取り上げられた。

 王の印がない。

 鎖がある。蝋の跡がある。小便の染みがある。

 ——フアンは翌日また来た。

 今度は小便をかけた。我の顔に。

 鎖で手が上がらないから、拭けない。顔を背けることはできた。だが背けた先に壁がある。壁と小便の間に、我の顔がある。

 温かくて、臭い。

 目だけは開けていた。閉じたら終わりだと思った。

 フアンの顔を見ていた。

 この顔を覚える。

 蝋を垂らす手の形を覚える。小便をかける時の足の開き方を覚える。笑い声の高さを覚える。

 全部覚える。

 覚えることが、今の我にできるすべてだ。

 夜、暗い部屋で、我は数え始めた。

 まず兵の数を数えた。クスコの周りに、我に従う者がどれだけ残っているか。山の向こうの村に、まだ我の声が届く者がどれだけいるか。

 次に道の数を数えた。クスコから出る道は何本あるか。馬が通れない道はどれか。狭い山道。崖沿いの道。吊り橋の道。馬は吊り橋を渡れない。

 最後に日数を数えた。雨期はいつ来るか。雨が降れば川が増える。川が増えれば橋が沈む。橋が沈めば馬は追えない。

 小便を拭けない手で、石の壁に触れた。

 冷たい。クスコの石だ。この石を積んだのは我の先祖だ。

 この石の向こうに、まだ我の民がいる。

 ——我は目を閉じた。

 蝋の跡が突っ張る。小便の匂いが残っている。鎖が冷たい。

 だが我は、王だ。

 マスカパイチャがなくても。鎖をかけられていても。顔に蝋を垂らされていても。

 我は王だ。

 王は数える。雨期まで、あと何日か。

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