第二十四話 ピサロ
山を降りながら、報せを集めた。
アタワルパがまだ生きている。
白い肌の連中はアタワルパを殺さなかった。殺す代わりに、部屋に閉じ込めて、条件を出した。
この部屋を金で満たせ。
部屋一つ分の金。天井まで。
帝国じゅうから金が送られている。神殿の壁板が剥がされ、太陽の像が溶かされ、器が潰されて、カハマルカに運ばれている。
父が建て、父の父が飾り、その父がまた飾ったものが、溶かされている。
金は集まった。部屋は満ちた。
白い肌の連中はアタワルパを殺した。
金を受け取ってから、殺した。
約束を守る気があったのかなかったのか。我には分からない。分からないが、結果は一つだ。アタワルパは死んだ。
ワスカルも死んだ。アタワルパの命で、捕われたまま殺されていた。
兄が二人とも消えた。
我を殺す者がいなくなった。
同時に、帝国を率いる者もいなくなった。
道は残っている。倉は残っている。チャスキは走っている。だが走らせる声がない。
声が要る。
我は、その声になれる。
父の血が流れている。他の兄弟は殺された。残っているのは何人かいるが、山を降りて名乗り出る者はいない。
我が降りる。
白い肌の連中に会ったのは、クスコへの道の途中だった。
斥候が先に来た。馬に乗った男が二人。
馬を、初めて見た。
報せでは「四本脚の獣」としか聞いていなかった。四本脚の獣なら、リャマもそうだ。
リャマではなかった。
脚が長い。首が太い。鼻から湯気を出している。背中に人が乗っていて、人と獣が一緒に動いている。
一緒に動いているが、別のものだ。
人が降りれば、ただの獣だろう。
斥候は我を見て、何か言った。分からない。あちらの言葉は知らない。
従者が間に入った。ケチュア語と、わずかに覚えた白い肌の言葉で、我が何者かを伝えた。
ワイナ・カパックの子。インカの血。
斥候の目が変わった。
馬を降りて、頭を下げた。下げ方がぎこちなかった。こういう礼に慣れていない。だが下げた。
我は、ここで一つ覚えた。
この連中にとって、インカの血には値がある。
連れて行かれた先に、その男がいた。
フランシスコ・ピサロ。
背が高い。目が暗い。口数が少ない。部下に命じる時、紙を使わない。声だけで動かす。
我を見て、笑った。
笑い方が粗い。宮廷で育った人間の笑い方ではない。だが粗さの奥に、何かを量る目がある。
「ようこそ。あなたを待っていた」
通訳を通して、そう言われた。通訳のケチュア語は下手だった。だが意味は取れた。
待っていた。
そうだろう。この連中には我が要る。
百人で帝国は動かせない。アタワルパを殺しても、道と倉とチャスキは残っている。それを動かすには、インカの声が要る。
我にはこの連中が要る。
アタワルパの将軍キスキスとチャルクチマクがまだ生きている。何万の兵を率いている。我一人では、あの将軍たちに勝てない。
白い肌の連中の馬と、煙の棒が要る。
「ありがたい。我が父の仇を討ってくださった」
我は言った。丁寧に言った。深く頭を下げた。
父の仇。
嘘ではない。アタワルパは父の帝国を割った男だ。その男を殺した連中は、形の上では仇を討っている。
だが「ありがたい」は嘘だ。
金の部屋を満たさせて殺す連中を、ありがたいとは思わない。
思わないが、言う。
ピサロがうなずいた。我の言葉を聞いて、何か答えた。通訳が変えた。
「あなたを父君と同じ位に就けたい。我々はあなたの味方だ」
味方。
この言葉を、我は受け取った。受け取った顔をした。
クスコに入った。
我の都だ。生まれた都。父の都。石を積んだ壁。水路。太陽の神殿コリカンチャ。
変わっていた。
アタワルパの兵が荒らした後だった。壁が崩れている。神殿から金の板が剥がされている。庭が踏み荒らされている。
それでもクスコはクスコだ。
戴冠式が行われた。
太陽の神殿の前で、古い儀式に則って、赤い房飾りを額に受けた。マスカパイチャという。これを戴く者が、タワンティンスーユの主だ。
ピサロが横に立っていた。
民が集まっていた。何千人も。膝をつき、我を見ている。
我を王にしたのは古い儀式だ。だがその儀式を行う許しを出したのは、横に立っている男だ。
民は膝をついている。膝をついた先にあるのは、我の足か、横の男の足か。
分からない。分からないまま、我はマスカパイチャを戴いた。
額の房飾りが風に揺れた。
クスコの風だ。冷たくて、乾いている。
——この風の中で、我は王を演じる。
演じ切れるかは分からない。
だが恐れている。恐れている人間は、降りる場所をいつも探している。
降りる場所を探している人間は、まだ生きている。




