第二十話 クイトラワク
コルテスが都を離れた。
海岸に別のスペイン人の船団が来たという。コルテスを捕まえに来た船だ。白い肌の連中は、自分たちの間でも揉めている。
コルテスは兵の半分を連れて出ていった。残ったのはアルバラードという男だ。
この男のことを、わたしは好きではなかった。
好き嫌いで人を見ることは、普段しない。だがこの男だけは別だった。目が落ち着かない。判断が速すぎる。速いのは良いことだが、この男の速さは、考えずに動く速さだ。
コルテスは考えてから動く。アルバラードは動いてから考える。
コルテスがいない間に、メシーカの大きな祭りがあった。
トシュカトルの祭りだ。神殿の広場で、貴族たちが踊った。太鼓が鳴り、笛が鳴り、羽根飾りが揺れていた。
アルバラードが門を閉じた。
チョルーラと同じだ。
だがチョルーラとは違った。チョルーラでは、相手が先に仕掛ける準備をしていた。ここでは踊っていただけだ。
広場で踊っていた人間が殺された。武器を持っていない人間が、羽根飾りをつけたまま殺された。
太鼓が止まった。
その後に来た静けさは短かった。
都が、怒った。
都がという言い方は大げさではない。二十万の人間が同時に動いた。
最初に来たのは石だ。屋根の上から降ってきた。宮殿の周りの家という家から、石が飛んだ。一つや二つではない。雨のように降った。
次に来たのは矢だ。通りの向こう、水路の向こう、見えないところから矢が来た。
そして水路から舟が出てきた。
この都は水の上にある。道の横に水路がある。水路は全部繋がっている。どこからでも舟が出てくる。
宮殿の中にいた白い肌の連中は、最初の一刻で外に出られなくなった。
門を開ければ石が降る。通りに出れば矢が来る。角を曲がれば水路から槍が突き出る。
鉄の服が石を弾く。弾くが、何十も当たれば腕が上がらなくなる。兜の隙間に当たれば、血が出る。
煙の棒を撃った。何人か倒れた。だが倒れた者の後ろから、別の者が出てくる。
終わらない。
二十万のうちの何人が戦っているのか、分からない。分からないが、殺しても殺しても減らないのは分かった。
宮殿の壁に火がつけられた。消した。また火がつけられた。また消した。
水が止められた。宮殿への水路が塞がれた。
飯が来なくなった。
三日目に、わたしたちは囲まれた獣になっていた。
コルテスが戻ってきた。
海岸で相手の船団を叩き、兵を吸収して、千三百人に膨れ上がって戻ってきた。
だが都の中は変わっていた。
入った時には花を持っていた人間が、今は石を持っている。
コルテスは宮殿に入った。入った途端に囲まれた。千三百人でも変わらなかった。外に出られない。
モクテスマが屋上に立たされた。
白い肌の連中が押し出した。「お前の民を鎮めろ」と。
わたしは屋上の端にいた。
モクテスマの横顔が見えた。
この人の顔を、わたしは何度も見てきた。コルテスと話す時の顔。贈り物を差し出す時の顔。黙っている時の顔。
今日の顔は、どれとも違った。
疲れていた。疲れの底に、もう一つ別のものがあった。
分かっている顔だ。
何を言っても届かないと分かっている顔をしていた。
モクテスマが口を開いた。
声はよく通った。広場の向こうまで届いた。
静かになった。一瞬だけ、静かになった。
モクテスマは何か言った。わたしのところまでは聞こえたが、訳す相手がいなかった。この場面で訳す言葉はなかった。
静けさが終わった。
石が飛んできた。
下から。モクテスマに向かって。
自分の民から、自分の王に向かって。
三つ当たった。額と、肩と、腕に。
モクテスマは膝をついた。
担ぎ込まれた。三日後に死んだ。石で死んだのか、白い肌の連中に殺されたのか、わたしは見ていない。見ていないことは書かない。
コルテスが決めた。出る。今夜、出る。
雨が降っていた。
橋は落ちている。三本とも落ちている。だがコルテスは宮殿の梁を外させて、仮の橋を造らせた。
夜が深くなるのを待った。
わたしはアギラールの隣にいた。
この男は膨らんだ本を胸に抱えていた。暗くて顔は見えなかったが、本を抱えている腕の形は分かった。
動いた。
一列で、暗い道を歩いた。足音を消した。鉄の服が鳴らないように布を巻いた。馬の蹄にも布を巻いた。
水路の匂いがした。泥と腐った草の匂いだ。
最初の水路に仮の橋を渡した。
一人ずつ、渡った。板がきしんだ。
渡れた。
二つ目の水路。ここも渡れた。
三つ目。
ここで、犬が吠えた。
一匹の犬だ。どこかの家の犬が、暗闇を歩く一列の人間に気づいて、吠えた。
女の声が上がった。屋根の上からだ。
「出ていくぞ。白い肌の者たちが逃げていくぞ」
太鼓が鳴った。
一つが鳴り、次が鳴り、都じゅうの太鼓が鳴った。暗闇の中で、水の上で、あらゆる方角から太鼓が鳴った。
水路の上から舟が来た。何十、何百の舟が、松明を焚いて来た。
松明の光が水面に映って、湖が燃えているように見えた。
矢が来た。石が来た。叫び声が来た。
仮の橋が壊れた。
壊れた瞬間を見た。板が跳ね上がって、乗っていた男が水に落ちた。鉄の服を着たまま落ちた。一度沈んで、腕が出て、また沈んだ。
前と後ろに分かれた。
橋の手前にいた者は走った。橋の向こう側にいた者は取り残された。
取り残された側から声が聞こえた。助けを求める声だ。白い肌の連中の言葉で叫んでいる。
誰も戻れなかった。
金を担いでいた者がいた。都から持ち出そうとした金だ。箱に詰めて、背負って歩いていた。水に落ちた時、箱が先に沈んで、箱を離せなかった男が一緒に沈んだ。
離せばよかったのだ。
だが離せなかった。金を掴んだ手は、水の中でも開かない。
わたしは走った。
アギラールの背中が前にあった。あの男も走っている。足元が滑る。暗い。右も左も水だ。
水の中から手が伸びてきた。わたしの足を掴んだ。
振り払った。
振り払った手が誰のものかは、見なかった。
走った。泳いだのかもしれない。這ったのかもしれない。どうやって向こう岸に着いたのか、覚えていない。
覚えているのは、朝の光だ。
振り返った。
湖の上に都がある。白い壁。神殿の段。昨日と同じだ。
だが水面に、物が浮いている。板と、布と、人だ。
数えた。
半分以上がいない。馬も減った。大砲もない。金も湖の底だ。
コルテスが大きな木の下に座っていた。
泣いた、という話を後で聞いた。わたしは見ていない。
見ていないが、あの木の下で膝に顔を埋めていた男の背中は覚えている。
——これが、後に悲しき夜と呼ばれるものだ。
白い肌の連中の言い方では、そうなる。
メシーカの側から見れば、勝った夜だ。
新しい王が立った。
クイトラワクという。モクテスマの弟にあたる。
この人は強かった。橋を落とし、舟を出し、白い肌の連中を湖から叩き出した。周辺の町に使いを出して、同盟を組み直そうとした。
あのまま行けば、白い肌の連中はトラスカラまで押し戻されて、そこで終わっていた。
——だが、終わらなかった。
顔に出ものができる病が来た。
最初にエスパニョーラ島から来た男の一人が熱を出した。それだけだった。白い肌の連中は何ともない顔をしていた。熱が出て、出ものができて、数日で収まった。
メシーカの人間には収まらなかった。
顔に出ものができる。赤く腫れて、膿を持って、潰れる。潰れた跡がまた腫れる。顔が塞がる。目が腫れて開かなくなる。手が腫れて物を持てなくなる。
一人が倒れると、翌日に隣の者が倒れる。その隣も。その隣も。
家ごと倒れた。通りごと倒れた。町ごと倒れた。
なぜ白い肌の連中は平気で、こちらの人間だけが死ぬのか。
分からない。
罰だと言う者がいた。呪いだと言う者がいた。白い肌の連中が連れてきた毒だと言う者がいた。
わたしには分からない。分からないことは分からないと書く。
クイトラワクが倒れた。
勝った王が、出ものの病で倒れた。
王になって八十日だった。
戦では一度も負けなかった。橋を落とし、舟を出し、白い肌の連中を追い出した。
だが出ものには勝てなかった。
わたしはこの報せをトラスカラで聞いた。
コルテスが笑った。
静かな笑いだった。断られたほうが燃える笑いとは違う。
勝ったと分かった男の笑いだ。戦で負けた男が、戦わずに相手が倒れたことを知って、笑った。
わたしは笑わなかった。
新しい王が立った。クアウテモクという。若い。二十五だと聞いた。
この人はまだ戦える。だが、戦える人間が日ごとに減っている。出ものの病が人を削り続けている。
コルテスが兵を集め直している。トラスカラから、テスココから、チョルーラの残った者たちからも。
恨みを持つ者たちが、また集まってきている。
もう一度、都に向かう。
今度は橋を渡らない。湖に舟を浮かべて、水の上から攻める。コルテスはそう決めた。
トラスカラの山の中で、舟を造り始めた。湖に浮かべる舟を、山の中で。
わたしは訳した。
木の切り方を。板の合わせ方を。釘の打ち方を。
白い肌の言葉をナワトルに変えて、トラスカラの大工たちに伝えた。
——薪を渡している。
また、薪を渡している。
この薪が燃やすのは、わたしが生まれた世界で一番大きなものだ。
わたしはそれを知っていて、渡している。




