第二話 ノンブレ・デ・ディオス
陸だった。
当たり前だが、少し感動した。三十日ぶりの陸だ。
サント・ドミンゴという。エスパニョーラ島の港町で、インディアスで一番大きい町ということになっている。
一番大きい、というのがどの程度かというと——石造りの教会が一つ、建てかけである。
馬が降ろされた。
吊り帯を外されて、板の上を歩かされて、脚が震えていた。四回転びかけて、四回とも人が支えた。
神様は、人に支えられて陸に上がった。
町を歩いた。スペイン人がいる。それより多く、この島の人間がいる。
働いている。掘っている。運んでいる。
少ないな、とは思わなかった。比べる相手を知らないからだ。
だが古株の連中は言う。十八年前はこんなものじゃなかった、と。村が一つ丸ごと消えた話をする。飯を食いながらする。
黄金は、無い。
いや、ある。役所には積んである。だがそれは、この島から十八年かけて掻き集めたものだ。俺のところには来ない。
だから俺は、次の船に乗ることにした。
ニクエサという男が人を集めていた。
王様からベラグアという土地を貰ったのだという。ティエラ・フィルメの西の方だ。そこには本物の黄金の国がある、と言っていた。
七隻。五百八十人。俺はその中の一人になった。
十一月に出た。
途中で、オヘダという男の隊を助けた。同じ頃に同じ王様から隣の土地を貰った男で、着いた早々に矢だらけにされていた。
二つの隊で、トゥルバコという村を襲った。
俺が初めて人を殺したのは、たぶんこの時だ。「たぶん」と書くのは、混んでいたからである。誰の槍が刺さったのか分からない。
分け前が出た。金の飾りがいくつか。俺のところには、耳飾りが片方だけ回ってきた。
片方だ。
そこから先は、書くことが少ない。
船が座礁した。隊が散った。俺の乗っていた船は使い物にならなくなり、俺たちは海岸を歩くことになった。
歩いた。
右に海、左に森。森には入らない。入った奴が帰ってこないからだ。
食い物が尽きた。
最初は配給が減った。次に配給が無くなった。次に、草の根を掘った。貝を拾った。靴の革を煮た。煮ると柔らかくなる。味はしない。
それから、人が死に始めた。
腹が減って死ぬ奴。熱を出して死ぬ奴。虫に刺されて腫れて死ぬ奴。
この土地の虫は、しつこい。夜も昼もいる。煙を焚いても来る。刺されたところが膿む。膿んだところから死ぬ。
死んだ奴は埋めた。
最初のうちは。
どこかの入江に着いた時、ニクエサが立ち止まって言った。
「ここで止まろう。神の御名において」
その言葉が、そのまま土地の名前になった。ノンブレ・デ・ディオス。神の御名において。
立派な名前だ。
だが意味を考えると、要するに「もう歩けない」ということである。
柵を立てた。小屋を建てた。それを町と呼ぶことにした。
数えたら、六十人ばかりだった。
五百八十人で出て、六十人。
黄金の国は、まだ見つかっていない。
それから、また飢えた。
柵の中で、順番に弱っていった。今日は誰が起きてこないか、で賭けが成立するくらいには、規則正しく死んだ。
俺は生きていた。理由は分からない。強かったからではないと思う。強そうな奴から順に死んだからだ。
——そこへ、船が来た。
コルメナレスという男の船で、食い物を積んでいた。
俺たちは泣いて喜んだ。比喩ではなく、本当に泣いた。
だがその船は、食い物のほかに、もう一つ積んでいた。
面倒事だ。




